この雨は こんな風に聴こえる 第4話「読心」
- 2020/06/28
- 11:53
「有難う。お先ね・・」 浴室入り口脇の下着に付いた体臭(つまり芳香)を愛でて居間に戻った黒木の後を追う様に、宥海が戻る。白のバス・ローブを纏った姿は、まだ半乾きの洗い黒髪と共に 一際艶めかしく映った。「ああ、いえいえ。俺も直ぐ入るから、少しの間 ゆっくりしてて・・」そう返事の一方で「いかん・・な」まだトレーナー姿の黒木は、下半身の帯熱を禁じ得なかった。入れ替わりに脱衣して浴室に入った彼は、少し悩んで...
この雨は こんな風に聴こえる 第3話「経路」
- 2020/06/25
- 15:46
民放 TV局「N.G.T.V」の本局社屋は、黒木の居所から徒歩 10分程の北方にある 18F建ての高層建物だ。N市屈指の名刹「真宗東別院」の至近で、平成期の初め 以前からの社屋更新の折、都市ホテルなどを呼び込んで更なる超高層ビルにしたかったのだが、この寺院との環境面の関係で 現行の 18Fに落ち着いた経緯がある。都市ホテル誘致は断念され、企業向けオフィス階と飲食街でのビル構成となった。民放局「N.G.T.V」は、関連企業を含...
この雨は こんな風に聴こえる 第2話「横顔」
- 2020/06/20
- 10:39
宥海を見送った後 正装に着替えて就活絡みの用をこなした黒木は、その夜割合早めに 熱見神宮からも遠くない金盛副都心傍の、高層建物内の居所へと戻った。単身者や小家族向けの そう高級でもない 2LDKのマンション内だ。以前の勤務時からの住まいだが、建物の持主(オーナー)が彼の伯父だった事が幸いし、退社後暫く経っても 家賃と水道光熱費は事実上免除の状態だった。「恆(ひさし)、しかしだ!」その折、伯父の黒木 基(くろ...
この雨は こんな風に聴こえる 第1話「遭遇」
- 2020/06/16
- 22:03
「さて、そろそろだな・・」曇った 6月初旬の某日、名社・熱見神宮近くの JR東海道線沿いで列車の通過を捕捉すべく デジタル一眼カメラを三脚に仕掛けた男は、そう呟く。彼の名は 黒木 恆(くろき・ひさし)。ちょっと前まで自動車部品関連の営業職だったのだが、訳ありで退社、この時は就活中であった。次の進路を探すべく、企業を周る合間にカメラとかを持ち出しては列車や艦船、航空機の画像を撮り歩くのが習慣だった。時刻は ...