レディオ・アンカーの幻影 第6話「変更」
- 2019/10/29
- 12:25
「ああ、理乃ちゃん・・」とっぶりと日が暮れ、暗くなり始めた JRの O駅まで間近に来た所で、前嶋は歩を緩めて声をかけた。「はい、何?」の返事に 「さっきの事、ちょっと考えたんだが、別に金盛副都心まで戻らんでも良くね?」一呼吸の沈黙を経て 「あは・・それもそうだね」と理乃は返した。前嶋は続けた。「何度かここに降りてるけど、大丈夫。居酒屋や洋食店レベルのとこなら食事にも困らんし、宿もビジホなら二、三軒知っ...
レディオ・アンカーの幻影 第5話「対面」
- 2019/10/24
- 12:07
「失礼します・・」ドア・ノックと「どうぞ!」の返事を受け、N局員・向井を先頭に理乃と前嶋は控室へ。奥の窓側に近いソファに、由香利と石塚典輔(いしづか・のりすけ)の両アンカーが着き 先程から談笑中の様だ。つい今しがたまで ゲスト出演の映画評論家も同室だったらしい。「初めまして、リスナーの青井理乃と申します」 「私、同じく前嶋 望でございます」軽い挨拶を経て、二人は勧められるまま 両アンカーと対座する形...
レディオ・アンカーの幻影 第4話「面識」
- 2019/10/19
- 13:08
「ラジオ深夜館・リスナーの集い」の持たれるその日 4/20土曜は、終日晴天。朝方はやや肌寒かったが、日中の気温は 20℃を超え そろそろ衣類も夏物が良くなる時季に差し掛かっていた。この日、前嶋は朝から午前にかけ居所の雑用を片付けると、正午前に金盛副都心某所で理乃と落ち合い、某和食店で早めの昼食を経て JR東海道線上り列車で南郊 O市を目指す。ほんの「チョイ乗り」の風情。快速なら、ものの 10分強で O駅に達する。多...
レディオ・アンカーの幻影 第3話「機会」
- 2019/10/14
- 14:03
「のぞみさん、ちょっといい?」例のラジオ放送を聴き、芳しからぬ昂奮をして果てた翌日の昼間、N市東郊の職場で午前の仕事を区切り、近くの専門店で入手した昼食の弁当を自席で開こうとした前嶋の所へ、経理関係を担う女子社員・青井 理乃(あおい・りの)が寄って来た。「1pmからで良いからさ、ちょっと上階の事務所へ顔出してくれる?話があるんよ」 「あぁ話ね。分かりやした・・」一応視線は合わせるも、生返事の彼であった。...
レディオ・アンカーの幻影 第2話「声色(こわいろ)」
- 2019/10/10
- 20:39
「うん、とても好いな。この声・・」独居故のセミダブル・ベッドに身を横たえ、前嶋は携帯ラジオに切り替えて「ラジオ深夜館」の続きを聴いている。その夜の担当アンカー、邑井由香利(むらい・ゆかり)の声色は 女にしては僅か低めのクリアで聴き易い語りだ。音楽とインタヴュー番組の合間に現れるのも、概ねタイミングが良く 好感だ。1H毎の全国天気概況も、彼女の担当。平日の仕事の折は時に外務、土休日は写真撮りに赴く事もし...
レディオ・アンカーの幻影 第1話「静聴」
- 2019/10/07
- 21:57
「ああ、やっと・・」その日も遅めとなった勤務から帰り、夕食や入浴、翌日の仕事の段取りを区切って一息ついた男が、寝る前の一時 傍らの小型音響(オーディオ)装置のスイッチを入れ、机に向かう。応接ソファの方が座り心地は柔らかいが、平日の夜は 何か堅めの事務用椅子の方が寛げる気がするのであった。男の名は前嶋 望(まえじま・のぞむ)。N市内にも拠点を置く、首都圏が本拠の産業向け電子部品卸の専門商社に勤める。勤務...
令和最初の 拙連載予告
- 2019/10/05
- 21:15
ついこの間始まったと思われた、新時代「令和」。もう最初の秋を迎えたんですね。時の経過の速さを感じる所でもありまして。内外共に 難しく芳しくないニュースや話題が多い中、開催中のラグビーW杯。日本代表の大善戦が光ります。緒戦二試合 露とアイルランドの各代表に勝利、今夜の対サモア代表試合でも優勢な様です。必勝の想いは拙者も同様ですが、結果に関わらず 全力で当たる悔いのない試合を願いたいと思います。さて、...