想いでの山峡(やまかい)~林間学級の秘密 第29話「曲折」
- 2016/10/12
- 19:49
夜10時代も後半。終盤に近づいた「夜の補習」新たな段階での、熱い体験の興奮も冷めやらぬ健(たける)、徹の二少年。終礼後のシャワーは、女講師 初美の希望もあり、三人での同時使用となった。最後かもだが。
もう夜も遅く、本来ならローティーンの起きている時間ではない。適当にシャワーを切り上げ、速やかに就寝しなければならないのは分っていたが、或いは二度と見られぬ、初美の全裸姿を拝める、貴重な機会であるのも事実だった。
二少年は示し合せ、シャワー中は彼女の裸体を愛でるだけとし、ボディ・タッチなどの悪戯は、一切控える事とした。その代り・・
「失礼ですけど、初美さんは、下の方の手入れはされなくていいんですか?」健、一応慎重に尋ねる。彼女は「エッチな奴」と思いながらも「うん。ざっとシャワーを当てるだけで、大丈夫よ。中の方は、自浄作用と言って、一定は清潔さを保てる様になってるの。その上で必要なら、明後日、小町さんがいらすから、処置をしてもらえる手はずになってるのよね」と返す。「変な事訊いて済みません。ちょっと気になりましたので」健は応じ、一礼した。傍で徹も、真顔で頷いて見せる。
初美「いやいや、気にしなくて好いわ。体育の知識の一つなんだから、それは訊いて好いわよ。所で健、その小町さんの事なんだけど、この前一度帰った時、電話で呼び出されそうになったんだって?」「そうなんですよね。1日の土曜、午前から徹と一緒に草サッカー・クラブの練習と親睦会に出て、午後3時頃だったかな、会が終わっての帰り道、徹と近所のお菓子屋へ行こうとした所で、小町さんから俺のスマホに着信したんです」健、こう返す。
初美「そうなの。で、その時にあの女性(ひと)、JR中央駅辺りに用があるので、ついでに君を呼ぼうとしたんだ。まあ、分らなくて好いけど、学院へ連れて行こうとしたのかもね」「そうですね。それっぽかったです。詳しくは訊かなかったですが」健の返事。
「君は賢かったわ。小町さんのつもりは、大体読めてる。まあ、言わなくても分ってくれるかな?」そう言う初美に、健は「そうですね。実は、先生方のお話を途切れに聞いてるんですが、さっきみたいな事は、ここだけにしておけって。俺、そうじゃなくなる気がしたんで、お断りしたんです。まあ、親の用事を聞いてる事もありましたが」こう返した。
初美「それで正解よ。どんな中身かは、多分、明後日の夜、分るでしょうね」「有難うございます。間違いじゃなかったんですね」と健。初美「そう言う事よ」 次いで徹が「これ、お訊きしていいかなって所ですが、俺にも関係ありそうですね」「その通り!だから注意していて欲しいわ」と初美。二少年「了解です。それ、押さえておきます。今夜も有難うございました!」短くも、魅惑のシャワー・タイムが終わった。
11時頃、JR中央西線 上り最終電車 1842Mの通過音を聴きながら就寝。そこでの、少年たちの会話を少し。
徹「あのさ。今まで聞きそびれてたんだが、そも、健と俺の二人だけ、何で特別林間学級になったんだろうな?」
健「言うと思った。お前から、いつかはその台詞(せりふ)が出るんじゃないかってな。でも、俺もよくは知らん。マジで、訊き返したい位なんだ」
徹「主任の初美さん、特別補佐の香緒里さんも、詳しくは分らない・・かな?」
健「徹!」 「ん、何だ?」 健「お前まさか、今頃気がついたんじゃないだろうな?」
徹「いやいや、勿論前から気がついてたよ。ただ、訊くタイミングがなかっただけでさ」
健「なら好いや。さっきの話だが、そう、初美さんは、もう近く学院を離れられるし、香緒里さんも、特別講師のお立場だから、詳しくはお分かりないだろうね。・・て、事はだぞ」
徹「明後日来られる、小町さんだけが頼りって事かよ?」 健「まあ、そんなとこだろう。小町さんは、養護主任にしてお医者さんの免許もお持ちだし、そこのとこから、学院の役員にもおなりなんだ。俺も感じるんだけど、この学院の大事なとこをご存じみたいな、そんな気がするんだな」
徹「健、お前に怒られるの承知で訊くけどさ。この前の土曜、もしも小町さんのお呼び出しを受けて会ってたら、その辺分ったって事ないか?」
健「いや、怒らないからいい。だが徹、多分それはないだろうな。少しは可能性があったかもだけど。それよりも、講座全部が休み中の、学院の中へ連れて行かれる方が危なかったろうな。一つにゃそんな訳で、俺はお断りしたんだ」
徹「なる程な。小町さんが知ってられるなら、これは学院の上の方の人たちも関係があるって事かね?」
健「その可能性はある。だけど今は、黙ってた方が良さそうだな」
徹「分った。有難う。まあ今夜は寝るとするか。じゃ、お休み!」 健「お疲れさん!」二少年が寝付いたのは、日付が変わる間際であった。
8月4日の火曜、曇り空の朝。午後遅くから晴れ間。気温は高めだったが、山間のお蔭で、都市部程の不快な蒸し暑さはない。
二少年は、普段通り6時前に起床。初めの一時間弱で、先週土曜の草サッカー練習の復習、シャワーを経て朝食。初美の、前夜のミニコスが出されているのを確かめて、早めの洗濯。JR中央西線上り貨物 3088列車の通過音を合図に、一限目の初美の国語授業。10時頃、早瀬管理人夫妻が出動すると、前日に叶わなかった、木曽川へ水浴に出かける。同行した早瀬の指導の下、二少年は、遊泳や水辺の生物の観察などに興じた。
少年たちの留守中、初美と早瀬夫人は、昼食準備をこなしながら、暫しの会話。
初美「ご心配をかけましたが、昨夜で、夜間講師一名の態勢は、お蔭様で終わらせられました。ご協力有難うございます」「良かったですね。やはり夜間、先生お一人では、何かと不安もおありでしょうから」夫人、こう返した。
初美「今夜は山音(やまね)、明日と明後日は本荘が参りますから、何かありましたら、又お話を」
夫人「いつもお気遣い、有難うございます」と夫人。その後は、世間話が続く。
上り貨物 3084列車が通る正午過ぎ、二少年と早瀬管理人が水浴から戻る。早瀬夫人得意の人気メニュー、散らし寿司で昼食。それが済んで暫く後、初美が二少年に訊く。「川で泳いで疲れたでしょう。少し、お昼寝する?」
「有難うございます。お言葉に甘えます」と二少年。ほんの少しの間だが、生徒の寝室で微睡(まどろ)み、2時半に起きる。目的は勿論、洗濯物の取り込み整理だ。
「香緒里先生、そろそろお戻りだな。今度は、片付けておかんと拙いだろう」何しろ、今度は彼女の知らない黒のミニコスだ。妖しい雰囲気であの事を・・なんて事が知られては、確かに拙かろう。
幸い、初美のミニコスは、全て乾いていた。それらを急ぎ収納、他の洗濯物を整理している所へ、馴染みのトヨタ・アルファードが姿を現す。香緒里の車が着いたのだ。
「お疲れ様です!」中山荘(ちゅうざんそう)にいる全員で迎える。まずは、積んで来た物品の収納、続いて、留守中の教科や生活面の報告を行う。勿論「夜の補習」は除外して。
「皆、予定を変えちゃってご免ね。ちょっときつくなるけど、予定の教科は全部こなせるから、大丈夫よ」と香緒里。
「了解しました。僕たちも全部終れる様、頑張りますよ」と二少年。「今日午前は、木曽川へ出かける事ができまして」
「それは良かった。夜、話が聞きたいわ」少しの休憩後、香緒里の英語教科が一限。午後5時の終了を待って、早瀬管理人夫妻が帰宅。香緒里の親族が持たせてくれた、川魚などの食材を調理して夕食。この地域の味に慣れた少年たちからも、もうメニューについての、目立った文句は出なくなった。
食後暫くは、下弦で遅くなった月の出を幸い、天体見物に出る。それを歓迎する様に、前庭には蛍が現れた。
「さあ、上と下から点滅ショー。続編の始まり、始まり~!」少年たちに香緒里も加わり、もうヤンヤである。
天を仰ぐのは、どうも気の進まない初美。一人屋内に残り、前庭で舞う、蛍を見つめる。「これも、やがて見られなくなる。儚い命だわ」そう呟いて・・。
(つづく 本稿はフィクションであります 2016=H28,8,15記)
今回の人物壁紙 二宮ナナ
渡辺貞夫さんの今回楽曲「クール・プリーズ(Cool Breeze)」下記タイトルです。
Cool Breeze