母娘(ははこ)御膳 第38話「招致」
- 2017/06/02
- 20:00
「三寒四温」の諺(ことわざ)通り、この3月は、前半は冬の名残の寒さが残る日も間々あったが、中旬からほぼ数日に一度の降雨を節目に、徐々に暖かさが増して行ったのも事実だった。妙(たえ)、そして宙(そら)の母娘と、早春の夜の熱い夢を共に見た、もうすぐ大学に進む周(あまね)は、居所に帰った日曜の二日後、7日の火曜に、最後の受験先となった、N市立大学の合格発表に臨んだ。やはり、予想通りの惜しい結果となり、これで、先に合格していた私立 A大学への入学が、正式に決まった。
周は、発表の夜、この結果を、宙にLINEで伝えた。彼女の返信も、奇しくも同じもので「公立某大はダメでした。だからあたしも、A大入学で決定よ。これからも、どうか宜しくね」 「いや、こちらこそ!これからも、助け合って行けると良いな」少しの間、そんなやり取りをした。
雨を境に、次第に春の気配が増す彼岸の時季に、昼間に何度か会う機会もあり、JR中央駅界隈や、中心街 栄町などで、宙の買い物などにつき合う折、知っている喫茶店などで談笑したり、周馴染みのネット・カフェに出入りする事もあった。大声では言えないが、その折、一度は宙に下方を、口唇愛撫(フェラチオ)などで攻められて、イかされた日もあった。勿論、今度は周もやられっ放しではない。ブース席で人目のないのを幸い、下方の下着を降ろさせ、臀丘や秘溝を暫し観察する事もしたものだ。この時などは、初めて、宙の秘溝に、手指を少し滑り込ませる、所謂「指マン」を試したりした。彼女は、低い喘ぎで応えてくれた。
3月後半、18日土曜から、20日月曜の「春分の日」にかけては、バイト先の休みを許され、かねての望みだった、下級生 豊(ゆたか)と、M県下の彼の実家へ出かけた。丁度、春休みの初め。事前に分っていた、豊の実家からは大いに歓迎され、穏やかな漁村や、美しい外海の景観に触れ、豊と共に、漁船の体験乗船や、漁の応援。その報いとして、鮮度優れた海の幸を堪能したりで、有意義な二泊三日を過ごしたのだった。もう一つ、小声で語るべき、意外な夜の出来事もありはしたが、この辺りについては、別の機会に記す事としたい。
居所へ戻ってからは、又、周三日のペースで、受験前からの飲食店バイトが続いたが、毎週月曜と木曜は、完全に出勤から外れていた。火曜日が定休で、第三週が月・火曜連休となる。これに目をつけた妙が、再び周を、自身の会社に召集した。月・木の両曜日、10amから5pmまで、受験前と同様、本社の上階、総合管理部に非常勤の立場で詰める事となったのである。勿論、必要時は事前に届け出れば、その該当日は休日として良い恰好である。大学の講義が始まったら、勤務時間を見直す付帯もついた。
更にもう一つ、余談かもだが周は、前年秋に起こした問題の示談の折、手を煩わせた巽 喜一、巴 二郎の両弁護士からも、補助の役務を誘われていた。「司法試験を目指すつもりなら、大学に通いながら、ウチで修行させてやっても良いよ」との、有難い話だ。ただ、周の向かう学部は、経済学部。商法など経済法の専門分野に進む道もあるが、中途半端に手を染めるべきでないのも事実だった。周は、その場はとりあえず丁重に辞退するも、妙とも縁の深い両弁護士との繋がりは、残す様努めようと、心に決めた。
そうこうする内に迎えた、3月後半の某日月曜、正装で妙の会社 F・I・T(株)の関連業務をこなす周。昼休みを迎える正午の時報、正に、その時だった。LINE受信、発信元は「佐分利学院 花井」とある。「結さん・・」咄嗟に彼は、そう思った。先日、花井邸を訪れた時は、首都圏へ出張中で会えなかった恩師。又、それで良かったのだが。「阿久比君、暫く。元気でやってる?」 「有難うございます。お蔭様でまずまずですね」 「来月は、大学でしょ。今の内に、気分の切り替えと、心の準備もしておくと良いわ」 「・・ですね。先生もお元気そうで、良いですね」 「有難う。それでね・・」 「はい・・」
暫くの間をおいて、結が送信。「24日の金曜か、25日土曜の夜、ちょっと会いたいの。都合はどう?」「恐れながら、24日金曜夜は、日付が変わるまでバイトです。25日土曜なら、夕方からOKですね」 「有難う。分ったわ。あたしも、この金曜夜は、遅くまで別件があって動けないの。じゃ、25日夜で予定しましょう」
周「有難うございます。自分も、繰り合わせる様にします。暫くぶりで、先生のお顔も見たいし」 結「なんだ。今日のお勤め先は、学院の近くなんだから、いつでも訪ねて来れば良いのに」 「いやいや、お言葉は有難いけど、先生もお忙しそうだから、中々行けませんで・・」 「因みに、今日夕方はどうなの?確か終わりは5pmだったわね」 「ええ、先生もご都合は良いんですか?」 「今日なら良いわ。じゃ、終わったら、学院の1Fロビーに来てくれるかな?」 「有難うございます。OKです」 「よしっ、じゃ、それで決まり。後でね・・」 「はい、後程・・」交信ここまで。
周は、この結からの連絡を、丁度上の社長室から降りて来た妙に、報告した。彼女の会社の産業医でもある、養護科の小町主任も一緒だ。この土曜夕方は、確か花井邸に呼ばれている様な気がしたのだ。話を聞いた妙は、一瞬緊張した風だったが、直ぐに笑顔に戻り「うん。結とはその話でOKよ。どうせ、ウチでする用事だろうから。丁度良かったわ」傍らで、そのやり取りを見ていた小町も、一瞬笑みを浮かべる。対する周「(妙)社長に小町先生のこの反応・・何か、あるんじゃないか?」もうLINE交信がひとまず終わったので、直ぐは拙いだろうが、この夕方会った折、この辺りの事も、結に伝える事にした。
「阿久比君」妙が声かけ。「はい・・」 「お昼、これからでしょ。一緒に行こうよ」 「そうそう、学院修了で、お昼一緒は、中々ないからね」小町も応じ。「有難うございます。お言葉に甘えます」こうして、この日は周 馴染みの中華店へ三人で赴き。正午も半分近く過ぎていたせいか、悪くすると行列待ちの所だが、この日はそう待たずに済んだ。
昼食時間が限られているのは分っていたので、妙、小町と周は、A大入学が決まった事への祝いの言葉とその答礼、余り当り障りのない近況の話などに終始した。その後、妙が「宙も、A大入学が決まってねえ」と話し聞かせると、隣の小町が頷き、周は「そのお話、彼女からLINEで聞きました。ホント、良かったですね」 「ああ、君にはやっぱり知らせてたんだ。じゃ、いいわね」妙、こう答え、三人は顔を見合せて、明るく笑った。小町は昼食後、小一時間程、妙と社長室で話した後、学院へ戻った。
5pm少し過ぎ「お先に失礼します。又、木曜日」 「はい、お疲れ様」上司である業務主任 初美他に挨拶、上階の社長室へ行き、妙にも一礼の後、退出。ここから学院までは、ほんの100m程。周が1Fロビーに入るのと、結が上階の教職員室から、下りEVを降りたのがほぼ同時。「先生、暫くでした!」 「阿久比君も、相変わらずね!」笑顔の挨拶を経て、周が行き慣れている「スター・バックス」へと流れる。まだ朝晩は寒く、コーヒーの類は、ホットが良い時季だ。
「先生・・いや、結さん」周が切り出す。「ふふ・・」結、微笑で応じ「今の君の出方、可愛いわ」と返す。「ハハ・・有難うございます。お昼のお話しですが、念の為、社長にもお伝えしておきました。良くなかったですかね?」 「ああ、いやいや、いいわ。・・で、改めて、A大入学決定おめでとう!」 「はい、有難うございます!」
それから暫く、結の大学時代の思い出を少々と、周がこれから向き合う、大学生活の事共に二、三言及し、社会芸能とかの話題に触れた後、周は、そっと訊いてみた。「結さん、分らなければ良いんですが、この土曜は、社長宅に出向く様な恰好なんですが、何かご存じですか?」 結は「それは、今は言えないわ。でも・・」 「はい・・」 「君の、男の勘って言うのかな?それを少し働かせて考えられるのなら、何があるか、ほんの少しは分るんじゃないかしら」 「男の勘・・ですか」周は、暫し思考を巡らす。それを眺める、結の微笑は、どこか薄気味悪さを漂わせるものだった。
(つづく 本稿はフィクションであります)
今回の人物壁紙 波多野結衣
久石 譲さんの今回楽曲「ビュー・オブ・サイレンス( View of Silence)下記タイトルです。
View of Silence