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南へ・・ 第4話「南下」

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「お早う!」3月18日の土曜朝、7am過ぎの、N市営地下鉄2号線 港町方面行の後方に乗った周(あまね)は、やや下方から甲高い声をかけられた。声の主は、既に一つ前の駅から先乗し、着座していた宙(そら)である。二人共、似た様な濃色パーカーにロング・パンツ、周の方はジーンズだ。靴も、ありふれたウォーキングである。手回り品は、宙が小さ目のキャリー・バッグと小物を入れた、洒落たバック・パック、周のは登山にも使えそうな、やや大き目のザックである。

「おー、お早う。ひょっとしてと思ったが、やっぱり一緒だな」周、返す。「うん。今度 城址の方から行くの、あたしだけだからさ。余程、貴方んちへ寄ろうと思ったんだけど、今朝は寝過ごしちゃって・・」宙、そう言って苦笑。「ハハ・・貴女らしくないな。たまにゃ、そんな事もありか。ま、間に合えば良いって事で」そう言い合う内に、中心部 栄町の一つ手前 H大通りに着く。時間にして、10分足らず。

予備校に通っていた頃は、栄町からJR中央駅方面へ、地下鉄1号線に乗り換える事が多かったが、この朝は、週末も混み合うこの線を避け、やや北方の地下を通る、地下鉄6号線を選んだ。走行するトンネルがやや地下深く、乗換え階段が長めとか、運転頻度が1号線程ではないなど、それなりに難もありはしたが、週末の朝などは、1号線よりは空いていると言う魅力もある。

6号線の西行き列車は、首尾良くさほど待たずにやって来た。周の見立て通り、中程以外は混雑しておらず、後方に乗った二人は並んで座れた。7:30am頃発。「さて、もう皆集まってるかな?」週が言うと「知多の辺りから来る娘(こ)もいるから、まだかもね」宙が返す。数分程走り、JR中央駅下へ。

「お待たせ!」 「お早う!始めてるよ」 「お早うございます!」東海道新幹線の出入りする、JR中央駅西側、集合場所のファミリー・レストランには、既に京都へ向かう、宙の友人たちと、豊が先着していた。皆、色合いこそ違え、似た様な上下の装い。手回り品までほぼ同様だ。外交性のある豊は、初対面の女たちとも、一わたり会話をした風情だった。「豊、今日から宜しくな!」 「阿久比(あぐい)さん、こちらこそ宜しくお願いします!」思い思いに、微妙に内容の異なる洋朝食を囲み、女同士の賑やかな会話は宙たちに任せ、二人の若者は、まずは今日の予定を話し合った。

豊が言った。「まず、ここの出発は8:50am頃です。二時間半弱位行って、11:15am頃 北紀長島(ほっき・ながしま)と言う駅で降ります。ここで、親父か叔父貴が迎えに来てくれる手筈になってまして。まあ、駅から歩いても、二十分位ですがね」 「二十分か。まあ好い距離だな。お前んちの方々が不都合なら、一丁歩くか」周、返す。

豊「そうですね。それも視野に入れときましょう。正午前ですから、多分そのまま昼飯って事になるでしょう」 周「そうか。そりゃ、早々から楽しみだな」 「・・ですね。まあ昼は、俺たち馴染みの普段飯って事になるでしょう。阿久比さん、夜、期待してて下さいよ」 「ああ、有難う。そうだよな。そう言うのの山場って、夜が多いもんな」傍らで「今日は、どれ位見て周れるかなあ!」などとまくし立てる、賑やかな宙たちの会話を耳に挟んだりしながら、小一時間が過ぎた。

隣接するコンビニ店で、飲み物や嗜好品など、思い思いの買い物をし「さあ、行くか」 「ええ」 「うんうん」てんでに言葉を交わしながら、宙と女たちは新幹線改札、周と豊は、在来線北寄りの改札を目指す。「じゃ、気をつけてな!」 「有難う!」数分程先発する、宙たちを新幹線改札で見送り、二人は在来線入口へ。臨時特急「紀伊83号」は、在来12番線から出発する。階段を上がり、プラット・フォームに赴くと、丁度四両編成の列車が進入する所であった。

臨時特急は、毎日走る、定期の特急「紀伊」と同じく、全車がリクライニング・シートの特急車両が運行を担う。所謂電化がされず、電車運転のできない紀勢東線に乗り入れる為、ディーゼル動力の気動車である事は、以前触れた様な記憶がある。二人が乗るのは2号車、後ろから二両目で、車両の半分は特別席「グリーン室」である。ただ、普通席と同じ四列なので、やや狭い感じがするのは事実だ。

「今となっては・・」豊が言う。「はい、何かな?」周が返すと豊「このグリーン車、今となっては、時代に取り残された印象がありまして」こう続け。 周「ああ、何となく分る。新幹線はとも角、在来線の特急グリーン車って、全国的に、2+1の三列席が多いもんな」 「そうなんですよね。今、四列のまま残ってるのは、この列車と、G県へ行く『しなの』だけみたいですね」 

周「道理で空席が目立つと思った。まあ臨時だから、仕方がないかもだが」 豊「・・でしょう。普通席はまあ埋まってますし、一両だけの自由席は立客もいますからね。もう数年経つと、この列車も次期車両にバトン・タッチなんて話らしいですが、このグリーン車は要改善ですね」 「ああ、そうだな」

会話の間に、宙たちが乗ったらしい、新幹線下りが出て行く気配。周たちの位置からは、新幹線上り列車と、中央駅をパスする貨物便などが被って、良くは見えないのだが。暫く後「お待たせしました。臨時特急『紀伊83号』間もなく発車します」の案内あり。

8:50am少し過ぎ、列車は、賑やかなディーゼル・エンジンの音響と共に、中央駅を離れた。定期便だと、駅構内を出てすぐ、一気に加速し、地下駅から出て並行する、近畿参宮電鉄の特急列車とスピード競争、と言ったシーンも見られるのだが、この列車は先行の各駅停車に続行する関係で、A県内は加速できず、同時に出た近参特急は、すぐに見えなくなってしまった。

小半時程、徐行の多い緩やかな走行で、広大な木曾三川を長い鉄橋で越え、M県下に入って、二ヶ所程の駅で乗客を拾うと、大工業地帯で知られるY市から暫くは、第三セクターのI鉄道線。広い田園地帯を行くこの線は、直線が続く良い走路で、列車は一気に加速、本来の特急らしい、ハイ・ペースで南下して行く。

序盤、ゆっくりだったとは言え、約一時間程で、M県の県都 T市へ。ここから紀勢東線へと進む。暫く進んだ「多気」と呼ばれる駅で、伊勢参拝でお馴染みの参宮線と別れ、列車は大きく右にカーヴを描き、続く田園から次第に山間へと進む。列車行き違いを要する単線とは言え、まだこの辺りはさほどスピードは下がらず、引き続き快調に飛ばす。

「多気か。参宮線との分岐だよな」周が言うと、豊「そうですよ、阿久比さん。ここを過ぎると『いよいよ帰って来たな』て、俺なんかは思う訳でして」こう返し。 周「ああ、分るよ。もう後一時間位かってとこだもんな。俺も、三河の実家までは一時間半位なんだが、尾張と三河を隔てる矢作川って言うの?あの川渡ると『帰って来たぞ』て感じがするんだよな」 豊「ああ、誰でも同じですね。それでね。阿久比さん」 「ああ、はい。そうだ!続きがあったな」 

豊「はい、それでね。昼が済んだら、夕方まで、俺んちの周りの海辺や漁港、できれば造船所なんかを見てもらおうか、なんて思ってまして」 周「おー、凄い!造船所があるんだ」 「まあ、小さな漁船とかを主に造ってる工場ですがね」 「いやいや、そんな事どうでも良い。見せてもらえるだけで上等だわ」 「はい、まだ決定じゃないですが、オーナーからOKが出れば、行けますから」 「よしよし、それ期待しようっと」 

豊「後、もう少しあるんです」 周「はい、良いよ。聞こう」 「実は俺、小学校の終わり頃、病気で一時入院してた事がありまして、その時世話になった、素敵な看護師の女性(ひと)と、多分会えると思うんです」 「おお、そりゃ好いな。お名前は?」 「美波(みなみ)って言いますがね」 「おー、美波さん。良いね~、まあ魅力の女性(ひと)だろう。お前に訊かずに、想像しようかな~」 「因みに、年恰好は、花井先生と同じか、少し上位ですね~」 「花井先生って、つまり結(ゆい)さんかー。益々好い感じだわー」 

周の気持ちは、正直舞い上がり始めていた。否応なく沸き起こる、期待感。普通、人は未知の土地へ赴く時、期待と不安が入り混じる、とは良く言われるが、この時の周は、確実に「期待」の方が上回っていた。折しも、列車は完全に山間に入り、狭い川沿いを、右へ、左へカーヴを描きながら、スピードをやや落として進む。少しずつ登り坂も加わり、駆動力を要する為、ディーゼル・エンジンの回転も上がる様になり、その音響が醸し出す微妙な振動(ヴァイブレーション)が、周の芳しくない想像と、微妙・・いや絶妙にマッチして行く。山間の嶺は、女の胸、そして臀丘、狭い川は、その秘溝を思わせる。進む列車は、そう・・男根だ。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の壁紙 JR名古屋駅 12番乗り場 特急「南紀」(物語中 特急「紀伊」のモデル) 2017=H29,6 撮影 筆者
東京スカ・パラダイス・オーケストラの今回楽曲「ダウン・ビート・ストンプ(Down Beat Stomp)」下記タイトルです。
Down Beat Stomp

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