2ntブログ

記事一覧

南へ・・ 第5話「訪問」

bdaf7ef2.jpg
「阿久比(あぐい)さん。それ、何となく、分りますよ」春先でも緑深い山間を、JRの臨時特急「紀伊83号」が、ややペースを下げ、しかし力強く進む。時折、梅の花が見られる沿線の車窓。その車中、窓側に座る周(あまね)に、隣席の豊(ゆたか)が、さり気なく声をかけた。周はニヤリとして「ハハ、今、俺の感じてる事か?」 豊「そうです。山峡(やまかい)と来りゃ、男なら考える事は大概一緒ですからね。笑」 「まあ、そうだな。今の俺も、まあお前の考え通りだな」 「分ります。それでね、この先に、もっと良いものが控えてまして・・笑」 

周「ああ、分る分る。要するに『穴(トンネル)』だろ?」 豊「はい、その通り!短いのがチョコチョコ現れた後、長~いのが来ますよ!」 「よし、分った!じゃ、大声で言えん話は、その時だな?」 「・・ですね。トンネルに入ると、走行音がデカいですから、そっちの話はその時にしましょう。笑」ある程度の下車があったとは言え、彼たちの乗る2号車の普通指定席は、まだ2/3程の乗客がある。

暫く進むと、豊の言葉通り、短いトンネルが時折現れる様になる。進入の度に走行音が大きくなり、周の妄想を助長している様に感じた。「ホント、何もかも(女体)そのものだな」感心する彼たちであった。勿論、逞(たくま)しい(変な)想像力の為せる技でもあったのだが。

登り坂がそろそろ終わるかと思わせた頃、列車は緩いペースのまま、再びトンネルに進入す。今度は長い様だ。一段と高まるエンジンの轟音と、足回りがレールの継点を過ぎる打音、それに強い風切り音が入り交じる 大きな音響に乗じて、豊はやや大声で「まあ俺も、貴方と似た事を感じてまして」切り出すと、周「ハハ、そうか。それは、山間を進んでる内に、これまで関わった女性(ひと)たちの『あれやこれや』を思い出して昂(たかぶ)ってたってとこか?」

豊 「そんなとこです。まあ勃起は拙いですから、その手前までかな。阿久比さんは?」 周「ふふん、それはない。まあ(自慰[オナニー])したくなりゃ、トイレへ行くまでだが」 「余り恰好良いもんじゃないから、それはやめましょうね。笑 それに・・」 「それに、何だ?」 「今夜、ひょっとすると、面白い事があるかもですから・・」 「ほほう、そうか。一応、乞うご期待・・て奴ね」 「まだ決まりじゃないですから、多くは望まんで欲しいですが」 「ああ、分る分る。今度はさ、そっちの方は今んとこは期待してないから」しかし・・これはあくまで「今の所は・・」である。

「それでさあ・・」と、この年初辺りの、花井家の女たちや佐分利学院の養護主任 本荘小町(ほんじょう・こまち)との、夜の思い出に話題が移ろうとしたその時、通路越しに前方を窺っていた豊が「阿久比さん、ちょっと待って下さい!出口です」と制し。周「そうか、分った。後少しで到着だな」 「その通りです。そろそろ降りる支度をってとこですね」

荷坂越(にさかごえ)と言う、伊勢湾側と熊野灘側を分ける、険しい峠道を長いトンネルで抜けた列車は、急な下りを緩めるべく設けられた、ループ線に近い、大きく迂回する様な線路上を、排気ブレーキを上手く使いながら、用心深く下って行く。又も現れた、幾つかの短いトンネルをクリア、山の中腹を抉る様な感じで、北以外の全ての方向を描き、再び南へ頭を向けると、輝く海原が見え隠れする様になった。

「豊、いよいよだな」 「・・ですね。阿久比さん、俺の故郷へようこそ」まずは、漁港の様に整備された岸壁が、山間を下って来た列車、それに並走の国道を下って来た諸車を迎える。次いで、岩場がメインのリアス式の岸辺が入り混じる様になる。

「ご乗車有難うございました。間もなく、北紀長島(ほっき・ながしま)に到着です。お忘れものございません様、お支度をお願い致します」放送の案内を合図に、若者二人は下車準備。倒していた、シートの背ずり(バック・レスト)を戻し、ゴミと空き缶を集めて、回収シュートへ。他にも、10人余りの老若男女が降りる様だ。
11:20am、列車は、時刻表通りに着いた。初めの、豊の説明では11:15am頃だったが、これが正解だ。

列車を降りると、続いて降りた何人かが、待ち合わせていた同方面への、下り普通列車に乗り換える。まだ光沢のあるステンレス車体の、昨日今日の新車だ。「まだここ1~2年で替わった所ですね。ちょっと前まで、旧国鉄車だったんですが」と豊。「まあ、前より乗降りし易ければ良いんじゃないか」周が返すと「それは良いんですが、前向きに座れるボックス席がなくなっちゃったんです。ご覧なさい。大都市の地下鉄と同じ、ロング席ばかりでして」 「ああ、そりゃ面白くないな。トイレだけは、車椅子仕様になって立派だが」 「・・でしょう。大きな事は言えないし、地元若衆のマナー不良の問題もあるけど、旅行の方々が乗る事もあるんだから、ああ言う席は残して欲しかったですね」 「ああ、分る分る」今時のローカル駅には珍しく、係員がおり、切符を改め「有難うございます。行ってらっしゃい!」の声に見送られ、外に出る。

「お世話になります!」 「只今ね!」 「豊、お帰り。阿久比君、ようこそ!」豊の父、豊野 樹(とよの・いつき)が、愛車の一台、空色のスズキ・ハスラーで迎えに出てくれていた。四十代後半の年恰好は、周の父 傑(すぐる)と同期か少し後位か。身長は、周と豊の丁度中間、173cm位。筋骨優れた、海の男の雰囲気だ。地元漁協の役員で、勿論漁にも出るが、昼休みと繋いで中抜けができた由。後部ドアから荷積み、豊は助手席、周は後席に乗り込む。

樹「大学が決まったそうだね。おめでとう!」 周「はい、有難うございます!お蔭で進路も決まりまして、一息って所でして」 「うんうん。気分転換ができると良いな。明後日まで、ゆっくりして行きなさい」 「はい、恐れ入ります!」走り出してすぐ、JR紀勢東線の線路と別れ、小さな川を渡って間もなく、海沿いの登り坂を経て、数分で豊の実家へ。

熊野灘に通じる、入江を見下ろす高台に、他の住宅数棟と並んで、豊の実家があった。母屋は大柄な木造の二階屋で、昭和の終わりに建った、築30年程の建屋だが、日本の古民家に似た風情があった。数百平米の、広めの敷地には、母屋の1/5程の広さの、平屋の離れもあった。ここが、二晩に亘る、周の宿になる。勿論、豊も共に寝泊りする手筈だ。

「宜しくお願いします!」 「ようこそ、いらっしゃい!」この日は、豊の母 緑や弟の邁(すすむ)、妹の美砂もいて賑やかだ。家族たちも、口々に「阿久比さん、大学おめでとうございます!」 「はい、有難うございます!」この間に、豊のLINEに着信があった様だったが。階下の大座敷に落ち着いた、周と豊に、まずは茶が一杯振る舞われる。「まあ、昼飯まで一服しましょう。所で・・」豊が言った。

「はい、何かな?」周が返すと「今、中央病院の、瀬野美波(せの・みなみ)さんから連絡がありました。とりあえず、今夜ここへ来る事になりました。阿久比さんとは面識がありませんから、午後病院へ行って、会って頂きたいですが、よろしいか?」 「ああ、勿論。お前のスケジュールでやってくれ。俺は合せるから」 「感謝です。それでは・・」豊は応じ、美波に返信した様だった。

周は思った。「今夜、何かが起きる」先刻の、往路の車中で巡らせた妄想が、もしかすると現実になるかも知れぬ。豊も、その事を意識して、諸事の手配を進めていたのかもだ。彼の親きょうだいたちも、余りうるさい印象ではないし、特に夜の宴は、皆が開放的になり、気持ちも緩み易い事だろう。決して希望してはならない事は分るが・・。そうした想いを巡らせると、周の下方は又も、堅く熱く変化して行くのだった。「さあ皆、ご飯にしましょうか!」緑の声が聴こえた。
(つづく 本稿はフィクションであります。一部の地名及び JR駅名・列車名含め)

今回の人物壁紙 立花はるみ
東京スカ・パラダイス・オーケストラの今回楽曲「カム・オン!(Come On!)」下記タイトルです。
Come On!

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

hakase32

Author:hakase32
愛知県在住の後半生男です。恐れながら、主に18歳以上限定内容を記して参ります。

お手数ですが、拙各稿を初めからお読み下さる場合は、下方にあります月間アーカイブ他のご利用をお願い致します。
他ブログを含め、拙記事の無断転用及び引用は ご遠慮下さい。

下記ランキングに参加しております。
クリックをお願いできれば幸いです。

官能小説ランキング

アクセスカウンター

愛と官能の美学

Shyrockさんの R18読み物集。他の作者各位も多数リンクされています。入口は、下記タイトルです。

赤星直也のエロ小説

赤星直也さんの R18読み物集。入口は、下記タイトルです。

未知の星

赤星直也さんの R18読み物集もう一つ。他の各位の作品も収録されます。

Mikiko's Room

Mikikoさんの、カテゴリー豊富な R18読み物集。独自視点の旅日記も好感です。

Adult Novels Search

R18 読み物の検索サイトです。

ブロとも一覧

拙バナーです

知人様より、優れたバナーを賜りました。必要時はご利用を Produced by Shyrock

もう一つの 拙バナーです

知人様ご厚意により、拙バナー追加編も賜りました。必要時はご利用を。 Produced by Shyrock

清き一票を(笑)

下記ランキングに参加しております。

日本ブログ村バナー


にほんブログ村 →できますれば、こちらも応援を・・

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

月別アーカイブ

これまでの拙連載「想いでの山峡(やまかい)~林間学級の秘密(2016=H28,9~10)」と「轍(わだち)~それから(2016=H28,11~2017=H29,2)」  「母娘(ははこ)御膳(2017=H29,3~6)」  「南へ・・(2017=H29,6~8)」 「交感旅情(2017=H29,9~12)」 「パノラマカーと変な犬(2018=H30,1~5)」  「ちょっと入淫(2018=H30,6~10)」 「情事の時刻表(2018=H30,11~2019=R1,6)」 「レディオ・アンカーの幻影(2019=R1,11~2020=R2,5)」 「この雨は こんな風に聴こえる(2020=R2,6~2021=R3,3)」も お読み頂けます。