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南へ・・ 第12話「交叉(こうさ)」

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早めの昼食の後、腹ごなしの散策かたがた、奇勝 鬼ヶ城の見物に出かけた、周(あまね)と豊(ゆたか)の二人。鬼ヶ城の全貌を見るのは半日を要する故、途中の所で折り返し、砂浜の海岸へ戻った時だった。前夜の熱い記憶を振り返り、雑談を交えて、潮騒(しおさい)を聞きながら波打ち際を、暫しブラブラ歩いていると・・

「済みません!ちょっと、シャッターお願いしていいかしら?」若者二人に、これも若い女二人が、声をかけて来た。二人共、薄手の上衣にロング・パンツ、靴だけは、山間でも通る、トレッキングを履く。名勝・熊野古道へも入る気らしい。共に色白スレンダーな、それでいて胸元と腰回りはそれなりに気になる 身長160cm前後に、軽いウェーヴのある長めのブルネット。パッと見、女子大生か、若いOLの姉妹、或いは先輩後輩か、同僚どうしにも見えた。

「阿久比(あぐい)さん・・」当惑した様に、豊が言う。「ここは、宜しくお願いしますよ」彼は、写真が苦手なのだ。「ん、分った。良いだろう」周はこう返し「分りました。じゃ、(カメラ)預からせてもらえますか?」 「ええ・・」

周、女たちの一人から、ニコンのコンパクト・デジカメを預かり、動作を確かめ、海を背景に姿態(ポーズ)を決めた女二人を、2カット撮影。「有難うございます!それでね・・」彼女二人の内、年長らしい方が続ける。「はい、聞きましょう」周が返すと「今度は、貴方たちも入って、一緒に写って欲しいの!」 「お~、そりゃ良い。感謝です!セルフ・タイマーはあるの?」 「勿論!」周は、タイマーの事を訊くと、砂上に、己のザックに忍ばせて来た、小型の三脚を置き、その上に女たちのニコンをセット。

「じゃ、豊も一緒に入って。いいか、タイマー入れるよ!」 「いいですよ!」「OK、お願いね!」十秒程の猶予の間に、周も合流、シャッター音を聞いて、カメラ背後のモニターを確かめ。1カットは無事に獲れた。「これも有難う!貴方のカメラでも、撮る?」 「そうだね、有難うございます」ニコンを返すと、次は、周の一眼デジカメに交替、少し背後と姿態(ポーズ)変え、これもタイマー撮影。

「有難うございます。良かった!」 「こちらこそ。お粗末様です」周と豊が返すと、女たちは「ご免なさい、続きがあるの。あたしたち、この山間の川湯温泉に泊まってるんだけど、ここからの道がよく分らなくてね。できたら、一度休憩して、様子を聞きたいんだけど」 周「そうですか、俺たちも応援したいなあ。ちょっと待って下さる?」そして豊に「お前、ここから川湯への道って、知ってる?」 「ああ、まあ分りますよ。でも、どこかで落ち着いてお話の方が良いですよね」こう返し。

女二人は「じゃ、あたしたち、車で来てるんです。その好い場所まで、ご一緒に乗って、案内してくれるかしら?」 「いいでしょう。貴女たち、お食事は済んだの?」 「ええ、それで、食後にちょっと散歩して来ますって、そのお店の駐車場に停めさせてもらってるの。貴方たちは?」 周「ええ、俺たちも済みました。じゃあ、直ぐに出かけられるね。豊、道案内を宜しくです」 「はい、かしこまりましてござる!」と、豊は返した。

「お願いします!」 「こちらこそ、不案内でご免ね!」海岸の防潮堤を越えて、三分間程歩いた、海鮮専科の駐車場一隅に、彼女たちの乗るレンタカー、水色のトヨタ・アクアが停まっていた。運転は年上らしい女、助手席に豊、後席右に年下らしい女、左に周が座る。店の者に一礼して、出発。

車中の話で、彼女たちは木下由香(きのした・ゆか)、由紀(ゆき)の姉妹で、大坂府下の実家住まい。由香は奇遇にも、今春 周が受験して通らなかった K大学・商学部の学生。今度、三回生(三年次)に進むと言う。妹の由紀も、同じK大商学部入学を決め、今回は、その前祝いで、周や豊とおなじ三日間、紀勢西線の特急でこの地入り。この両日は、レンタカーで七里御浜周辺を周り、川湯温泉に泊まった後、明日の午後、帰る予定だと言う。

周は苦笑しながら「ハハハハ、K大は俺も憧れたけど、ちょっと役不足だったみたい」と言い。対する由香「そんな事はないわ。受験って、運の部分も多いじゃない。由紀だって、ツキがあっただけかも知れないし、ねぇ・・」と言えば、由紀も「まあ、半分はそうかも。所で阿久比さんは、どちらに進まれるの?」 

周「はい、俺は地元 N市の A大経済学部です。まあ親許からも遠くないから、それは良かったんですがねぇ」 由香「まあ、おめでとう。A大経済学部なら、K大商学部と同レベルじゃないの。立派なもんだわ。ウチら、A大さんとは学術交流があるから、後でメール・アドレスとか交換しようかしら」聞いた周は「しめた!」と思った。頃合で、是非言おうと思っていた事を、由香が発してくれたのだ。

周「ああ、勿論!俺がそうしたい位ですよ。感謝です。で、豊、国道乗ったけど、まだ南下で良いのか?」 豊「はい、まだこのままでお願いします。それと・・」 「うん、何かな?」 「この先、後五分位の国道近くに、最近できたネカフェがあるんです。で、阿久比さん、済みませんけど、ここへ電話して、空き状況訊き、お願いできますでしょうか?」 「ああ、いいよ。お前は道案内に集中してくれや」そう返して、周は、スマホで件の店に、席の状況を訊く。幸い、ペアのブース席が二ブロック確保できた。1:30pm過ぎ、到着。

「コースト」と言う店名のネット・カフェは、海岸から少し奥の、国道に並行する町道脇にあった。まあ幅広い年代の客で賑わう、山荘風 三階建ての店舗に数十席。基本的に、都市圏の店舗と形態は同じで、フリー・ドリンクもそのままである。少し多めに設けられたシャワー室は、夏場の海水浴客向けか。割合静かな最上の三階、ブース席の一方に、由香と周、隣に、由紀と豊が入った。「ねえ由紀、シャワー空いてるから、使おうか」 「そうだね、行こう!」姉妹は、つるんで一度、席を外した。

「よしっ、今だ!」咄嗟(とっさ)に、周は思った。そして「豊、ちょっといいか?」 「はい、阿久比さん」 「この状況、なりゆきでどうなるか、分るな」聞いた豊、一瞬ニヤリとして「そうですね。俺も大体同じ想像してまして」 「・・で、ここの感じはどうだろう?」 「阿久比さん、お言葉ですけど・・」 「うん、何だろう?」 「昨日一日、合間に考えてたんですが・・」 「うん、続けろ」 「特に夕べは、凄く濃くて熱い事しましたけど、美波さんは、続きを考えてくれてると思うんです」 「ああ、続きな。分るよ」

豊は続ける。「つまり、今夜か明日の昼間、あの女性(ひと)は、又 濃くて熱い事する機会(チャンス)を作ってくれるんじゃないかって、俺は感じてまして・・」 「うん、分る!濃くて熱い事って言や、言葉は悪いが、つまり『ヤらしてくれる』て事だな」 「はい、その通り!まだ可能性レベルだから断言はできませんけど、でも、信じて欲しいって想いはありますね」 「なる程、分った。・・で、美人姉妹とも『濃くて深くて熱い事』ができるかもだが、お前はそっちに賭けたいって事だな?」周が質(ただ)すと、豊は一瞬の沈黙を経て、絞り出す様に「そうです・・」と一言返した。

「よし・・」周は言った。そして「賛同しよう」 「有難うございます。でも・・」 「でも、何だ?」 「由香さんと、由紀さんにはどう接しましょう?」 「アハハ、そう来ると思った。彼女たち、そろそろ戻るから、静かに話そうや。ちょっと、耳をこっちへ・・」 「はい・・」周、そう言って、耳を傾けて来た豊に、ヒソヒソと語りかける。聞いた彼は「なる程!」と膝を打った。「そう言う手がありましたか?好いですね~!」声を上げた途端「何~? 何か好い事、あった~?」 「ねえねえ、面白い事なら、教えてよ~!」背後に、シャワーを終えた、姉妹の声が聴こえた。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 西野あかり
東京スカ・パラダイス・オーケストラの今回楽曲「ホール・イン・ワン(Hole in One)」下記タイトルです。
Hole in One

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