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交感旅情 第31話「追尾」

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「このまま行けば・・」些(いささ)か似合わない、エア・イエローのトヨタ・シエンタを駆る中条は、ステアリングを操りながら呟いた。「ギリで、何とかなりそうだな・・」 R49から東へ分れ、山都(やまと)を経て、喜多方へと向かう県道は、そう険しい道ではなく、一部を除いて、黄線のある上下二車線である。カーヴやアップ・ダウンも思ったより緩く、黄線のある二車線の所は 60km/h位、それ以下の狭い所は 45km/h位で走る。

隣の助手席では、周(あまね)が、カーナビ・システム画面をチェックの傍ら、大体並行する JR磐越西線の線路に目を配り、直後にいる由香、由紀の姉妹も、カーナビ画面に目を遣りながら、こちらは、これも横を流れる、阿賀野の流れを追う。この辺りから川上は、阿賀川と言う名称に変わる様だ。

バック・ミラーで背後に目を向けると、同じ目的らしい数台が、続行して来る。大人数が乗る故、普段より用心して走る中条だが、後続諸車は、いずれも苛立って煽る風でもなく、きっちりと車間を守って続いて来る。それは、速くてもゆっくり目でも、隙の少ない運転スタイルの彼に、暗黙の裡(うち)に一目置いている風にも見受けられた。

前二列の四人に対し、最後部の、初美と宙(そら)の席だけは、異なる空気が漂う様にも感じられた。そこは、詰めれば三人が座れる第二列よりは狭い造作。互いにシート・ベルトを締めている為、身体を密着させる様な出方は叶わなかったが、宙はなるべく、右側の初美に近づき、彼女の左手に右手を重ねて行った。助手席の周も、又も初美への妄想が再燃、下方の勃起を生じて、やや困った風情だ。

「これは何?昨日の続きなの?」昨日昼間の出来事もそうだが、この日の宙は、前日より薄気味悪い風情を漂わせる。「あ、いえいえ、そんな深い意図はありませんよ」微笑みながら返す宙だったが、内心で何を考えているかは、窺い知れなかった。「ホントは気味悪い。でも、一方では心地良い。な・・何か、拒み切れない。これって一体・・?」戸惑う初美の傍らで、宙は、重ねた右手を、女の肘から上腕へと滑らせる。「だ・・ダメだって。宙ちゃん、焦っちゃダメ・・」もう少しで乳房に仕掛けられそうになり、困惑する初美を救ったのは、前に座る由香、由紀の木下姉妹であった。

「ねえねえ、あれ見て!カヌーやってるよ!」阿賀川の流れを右手に見る、山都の手前 荻野と言う所に、漕艇場がある。中学か高校生位だろうか、若い数人が、カヌーの練習に勤しんでいた。「お~い、頑張れ!」姉、或いは妹、どちらからともなく声を上げ。助手席の 周も加わる。ちょっと妙な雰囲気になりかけていた、最後部が何となく和んだ様な。

12:40pmを回り、車は JR山都駅前を過ぎる。「後数分だ。何とか間に合ったぞ!」運転の中条が声を上げると、周囲から大きな拍手が起こった。数分後、一戸(いちのへ)川を跨ぐ、鉄骨を組み上げた、重厚な鉄橋が姿を現した。「ああ、これですね。見事な造作だな」最初に感嘆の声を上げたのは、周であった。20世紀に入って間もなくの大正期初め、磐越西線初開通の頃からの、立派な橋だ。

「わー、マジで見事やな!なあ お姉ちゃん、これ、高さ何ぼ位やろ?」由紀が、周に続く。訊かれた由香は「そやなぁ、30m近いんじゃね?」その橋脚の下近くに車を停めにかかった中条「由香ちゃん、好い読みだな。確か、27mで聞いてるぞ」 「ああ、やっぱし・・」由香も感嘆して返す。既に多くの鉄道愛好者が先着、中条たちは、少ない空き場所を探して、早めに準備にかかる。「おーい、由香ちゃんたち、こっちだ!」午前に三川で出会った、先着の撮り鉄たちが合図、中条たち四人に場所を融通してくれた。一礼して合流。蒸機の出発まで後僅か。由紀は動画を、他の三人は、積んで来た三脚の使用を諦めた。

1pm数分前、JR山都駅の方から、例の太い汽笛の警音が発せられる。暫く後、一際高い、煙一条と、ゆっくりから次第に早まる排気音(エグゾースト・ノート)、それに、橋上故の、一際大きく響く、レールの繋点を打つ、機関銃の様な音が入交り、蒸機 C57が先頭の「SLばんえつ物語」は、力感溢れる走りを見せる。後続客車内の方々(ほうぼう)から、手を振っての挨拶が降り注ぐ。シャッターを終えた、地上の者たちが、同じく挙手の答礼を送る。初美と宙は、車の傍で、蒸機列車の出発を見送った。

「何度も済いません。有難う!」 「いやいや、皆お疲れ様。間に合って良かったよ!」ほんの一時、再開した「有力者」ら撮り鉄たちと、軽い挨拶で別れ、六人揃った一同は、昼の目的地 喜多方へ向かう。西会津からの県道は、一か所の峠を除けば、概ね田園の中を行く、見通しの良い田舎道。速めのペースで 10分も走ると、喜多方市西側の街並みに入る。そこから、中条馴染みのラーメン店までは、ものの数分。店の駐車場がやはり狭く、彼は、少し手前の、民芸物産館の駐車場に進入、そこから少しの距離を、徒歩で向かう事に。

JR喜多方駅の西側、徒歩で 10分強の県道沿いに、中条が時折訪れるラーメン店「M軒」は佇んでいた。地方でよく見かける、地味な二階家。車二台がようやく入る駐車場は、やはり満車。先程まで満席だったらしく、複数の卓に、空いた食器が残る。「中条さん、ようこそ!元気そうで何よりですわ!」店を切り盛りする、初老の夫妻に迎えられ、彼は「いいえ、又お世話かけます。今日は、賑やかなのと一緒でね」 「とんでもない、有難い事です!」家庭的(アット・ホーム)な情趣が魅力の、四人卓が床上、座敷に各二セット、短い四人用カウンターで、席数は 20程の、小ぢんまりした店構えだ。

中条の勧めで、全員が五目中華を所望。量が不足の周は、炒飯(チャーハン)の小盛りを追加。全員向けに餃子が二皿、更に、店側の気持ちで、蕪(かぶら)と大根の、葉の部分も入った浅漬けが、卓に上る。周と中条は、女たちの了解を得て、キリンの中瓶ビールを。よく知られている様に、ここは、札幌や福岡と並ぶ ラーメンの聖地で、その味わいと適度なボリュームは、一同の共感を得た。この店の家庭的雰囲気が、全員に好感されたのも、それはあるだろう。

「今日は、蒸機の撮影ですか?」店主の問いに、中条「そうなんです。さっきなんかは、座敷にいる美人姉妹さんが車で来てくれて、野沢の学校の中と、山都の鉄橋んとこで撮れましてね」 「ああ、そりゃ良かった。今夜は怪しいけど、日中は天気が良さそうなのも幸運だったですね」傍らで、夫人も頷きながら、暫し歓談が続く。小一時間程後・・

「さてと・・」会計を済ませた中条が言った。「喜多方駅近くに、俺の知ってる喫茶店があんだよ。駐車場もあるし、そこで時間までゆっくりするか。由香ちゃんたちも、まだ大丈夫だろう」 聞いた由香「そうですね。下りの復路は、野沢の手前 尾登(おのぼり)って所で撮ろうと思います。それから県境を越えて、日出谷(ひでや)って所。そこからは、もう暗くなりますから、新潟まで直行ですね」笑顔で返す。

中条「有難う。どちらも、まあ良い所だな。人出もありそうだから、早めに行った方が良いけど、それでも 3pm過ぎにここを発てば、大丈夫だろう。じゃあご主人、奥さんも、又、来ます。ご馳走様!」 「はい、有難うございます!午後も、上手く行くと良いですね!」店主夫妻に見送られ、民芸物産館で、日本酒など若干の買い物をした一同は、JR喜多方駅傍の喫茶店に移動、アイス・コーヒーやティーなどを嗜み、時間調整。が、往路の途中から気分が妖しくなっていた周は、ある事に迷っていた。前夜、木下姉妹との濃い交わりで、その性欲は一旦、緩解されたはずだった。しかし、一日も経たずに回復、今度は初美への想像が、一物の勃起を容赦なく促した。

「ちょっと、外します・・」中条に一言伝え、席を外した周は、男子トイレへ。幸か不幸か、大用の方は空いていた。施錠して籠り、ジーンズとブリーフを途中まで下ろし、尚も悩む。ここで、自慰(オナニー)をすべきか否か・・「ああ、困った。初美先生のあの魅力に、俺は勝てない。夜まで待てば、機会(チャンス)はあるだろが。でも・・」男根(コック)に左手を遣りながら、尚も逡巡す。「あの女性(ひと)を強く想ってすれば、数分で処理できるだろう。夜は夜で、うん、大丈夫だろうが、しかし、微妙なのも事実だし・・」閉ざされた狭い空間で、若者の迷いが、暫し続く・・
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 佐々波 綾
葉加瀬太郎さんの今回楽曲「祭り」下記タイトルです。
Matsuri


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