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情事の時刻表 第50話「口約」

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名月の情趣に救われた感があった。美波と豊が加わっての 些かの衝撃を伴うも新鮮な交換(スワップ)体験を経た 初美と中条は、日付を跨いで暫くまで 少しの寝酒をお伴に 明るく天空に浮かぶ満月を見届けた。明け方頃、相次ぎ出漁する漁船のエンジン音で一時目覚めるも、又寝入り 日曜朝は 7:30am過ぎの遅い目覚め。この日も快晴が続く。

「お早うございます!」二人、そして宿の主人一家とも挨拶を交わして遅めの朝食。海鮮の焼き物メインの和定食を終え、ロビーでコーヒーを嗜む所へ、中条の携帯(スマート・フォン)に、北紀中央病院にいる女医・小町から LINEが入った。「中条さん、お早うです。夕べは有意義だったかしら?」 「あぁ先生、お早うございます。そうですね、まぁ素敵だったって事で・・」

小町は続けた。「初美さんのご様子は如何?」 中条「まぁ気分も良い様でして。夕べ初めて『会場』の離島に渡った時はかなり緊張してた風ですが、行為の進行が それを和らげてくれた様なとこがありまして。これね、或いは美波さんのフォローが良かったせいかも知れませんよ」 「そうですか。もしそうなら あたしも嬉しいわ。大声じゃ言えないけど、美波もね 豊の『その方』の個人教師みたいな立場だから、多分上手に進行をしてくれたんじゃないかって思ったのよ」

中条「アハハ、まぁそんなとこでしょうな。所でこの時間にご用ってのは、この後の予定についてですね?」 小町「その通り!最後の一日だから 午前中はお宿でゆっくりしてもらって構わない。お昼前に 美波に迎えに行ってもらうから、こちらの病院で合流して 食事にでも行きましょうよ」 「はい、有難うございます。それじゃ、初美と俺は 11am過ぎ頃に宿に居ればよろしいか?」 「そう、それで願いますわ。それでね・・」 「はい・・」 「お帰りの切符は こちらで用意するってのは覚えていらすわね?」 「はい、乗車券は我々で用意するけど、座席指定券二人分はお願いできるって聞いてますよ」 「その通りよ。それはお越しになったら案内って事で・・」 「了解しやした」交信ここまで。

「初ちゃん、ちょっと良いか?」食後の一時、内海を臨む 宿の前庭に出ていた初美に、中条は声をかけた。「はい、何かしら?」 返事を得ると「もう分かると思うが、小町先生からのメッセージだった。11am過ぎに、美波さんが迎えに来られるってよ。で、北紀中央病院で先生に会って・・(多分、その時 豊君も合流して来ると思うんだが)、一緒に昼飯になりそうだって。少しは病院の中も見せてもらえるかもだ。そうこうする内 帰りの列車が来るだろう。だから午前は、この宿で適当に過ごしてりゃ良いんじゃね?」

初美「あぁ、そういう事ね。何か中途半端な気もするけど、ここの長閑な風情は気に入ったわ。それなら、お言葉に甘えようかしらね」 「それが良い!」そう言葉を交わす間にも、眼下の漁港には 結構頻繁に漁船の出入りがあった。時折前庭に出るなどして、二人は変化のある内海の風景を目に焼き付けた。

「有難うございます!」 「お世話様でした!」 11am過ぎ 勘定を済ませ、手回り品をまとめて宿の一家と挨拶を交わして宿を出る。美波も自らの愛車で迎えに訪れ、予定の行動だ。「夕べは有難うです。とても素敵でした」の彼女の言葉に、中条が「あぁ いや・・こちらこそ感謝です。お陰で良い場所だったし。あそこ、貴女と豊君だけの、秘密の場所だったんじゃね?」

美波「ふふ、まぁそんなとこですね。豊はね、最初 小町先生に童貞を捧げた訳ですけど、あたしもそれから 彼に色々濃い事を教えたんです。実はね・・」 「はい・・」 「彼が早くに船舶免許を目指したのも、あたしとそういう間柄になって行ったからってのがありましてね」 「ア八ッ、そりゃ面白ぇ話だ。そいで彼は一念発起したって事ですかい?」 「まぁ、言ってしまえばそういう事になるかしらね・・」 「う~ん、こりゃ良い事を聞いたぞ。なぁ初ちゃん!」 

美波と中条の会話を聞いていた初美は「うん、まぁ面白いわね・・」と、努めて落ち着いて返した。まぁ彼女にとっても面白みはあったのだが、そこは中条に合わせて昂奮してはならないと感じていた。彼女は言った。「そうか、それで豊君の出方って 妙に大人びてたのね。あたしを抱いた時も、妙に余裕があったしさ」 「あぁ、やっぱりそうか?」中条が反応すると 「うん。下手な二十代の男たちより、彼の行為は上手よ。巧みってレベルじゃないけど、だからって不愉快な感じもないしね」

「そうか、初ちゃんがそう言うなら、豊君は結構な技持ってるって事だな、いや美波さんの指導も大したもんだ!」中条はそう続けた。慎重にステアリングを操る一方で 彼の言葉に耳を傾けていた美波は「あぁ、いやいや・・お褒め下さって有難う。嬉しいわ。でも、豊もまだ十代で修行途上ですから、余り持ち上げないで欲しいわ」 「あぁ、そりゃ済んません。そうだよな、彼もまだ若いからこれからも色々覚えて経験せないかん。分かります」 「そうそう。でも、応援して下さるのは感謝です。勿論彼にも伝えますよ」 「はい、宜しくお願いします」そうこう言い合う内に、病院構内へ。階下のロビーにて、引継ぎを済ませたらしい小町と対面した。

小町「ようこそ、北紀中央病院へ!」 「先生もご苦労様!日曜なのに大変ですな」 「うん。まぁ・・でも大丈夫。もう大体目途は立ったからね。後は、お昼をご一緒して帰るだけです」 「なる程ね。当然かもだが、今日は静かな院内やね」 「そうですね。日曜だから通院の患者さんは来ないし、入院の方たちも、これから順次お昼で、今日は美波が日直だから 一応は安心ね」小町が、笑顔を浮かべて言った。

院長と女医の内科部長と共に、病院近所の和食処にて昼食。院長行きつけの、少し高級な店だ。ここで人気の「天ざる」と、非番の院長と中条にはビールが振舞われる。序盤で小町が、院長や内科部長と病院の事共を一渡り話した後、中条に向け「それでね・・」と切り出した。

「はい、聞きましょう・・」彼が返すと 「帰りの列車のお話よ」と続けた。「あぁ、それそれ。初ちゃんも、聞いとかんとな・・」と、初美も会話に加わる様促した。それを見て女医は、手にしていたポーチから、船車券の様な票を二枚取り出した。「これがこの後、あたしたちが帰路に乗る列車の指定券です。今度は、新さんも初美も、あたしと同じ車両ね。今、美波が豊を迎えに行ってるから、来たら病院の車で送らせますわ。列車の出発は 1:55pmね。少し、余裕があるでしょう・・」

「なる程。有難うごぜぇます・・」そう返して特急券の票を受け取ると、中条は車番と席番とを改めた。2号車の早い席番、勿論窓側と廊下側の席が対だ。「これは・・」見終わった男は呟いた。「ひょっとして、グリーン車かよ?」そんな想いが渦巻き始めた。そして・・「先生、ちょっと・・」控え目に、彼は思った疑問を尋ねた。

「ふふ、新さん・・」又も笑みを浮かべ、女医は返した。「お思いの通りよ。この席は、グリーン席です」 「良いんですか?」 「大丈夫よ。費用面の処理は、きちんと片付いてます」 「そうですか。改めて感謝です」 「いえいえ、気にしないで。それよりも・・」 「はい・・」 

一旦区切られた会話を、女医は続けた。「夕べの出来事を、あたしにも車中で聞かせてくれないかしら。丁度良いわ。豊も同席しますから、お話は進め易いわね。どう、約束してくれる?」 「はい、あぁ・・それならお聞かせしても良いでしょう。初ちゃんも、良いよな?」 聞いていた初美も「あたしも良いわ。もう今更、隠してても仕方ないもの・・」と割り切った様に応じた。

「院長、有難うございます!」食事から戻ったのは 1pm過ぎ。また出発には余裕があるので、階下ロビーの喫茶室で時間を調整する。美波に伴われ、手回り品を携えた 平装の豊も到着した。「皆さん、有難うございます。道中宜しくお願いします!」 「あぁ、こちらこそ!先生が、あの話を聞きたがっていらすぞ」 「あぁ、あのお話・・分かります。先生の前なら、色々お話しできるでしょう」雑談に耽る内、予定の 1:30pmを過ぎた。

「さぁ、行きましょうか・・」病院側がさし回してくれた、送迎車トヨタ・ハイエースに乗った初美、中条、小町、豊の四人は病院を発つ。「美波、後を宜しくです」小町の言葉に 「心得ました。後はお任せを・・」の静かな、しかし頼もしい返事。「いや、自信あるな・・」二人の男は、思わず呟く。それを初美が、微笑んで見ている。「じゃあ、出しますね・・」 「宜しくです・・」まだ若い、二十代の大柄な男子事務員の運転で、車はゆっくり病院の外へ。勿論 背後では美波が見送るが、涙する様な感傷はない。「やれやれ、やっと好き者が帰るわ・・」とでも言いたげな安堵感の様なものが、美しい顔に漂っている様だった。

(つづく 本稿はフィクションであります。令和期も、少しの間連載を行います)
今回の人物壁紙 夢乃あいか
今回の「音」リンク 「メッセージ・トゥ・バイア(Message to Bahia) by渡辺貞夫(下記タイトル)
Message to Bahia

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