レディオ・アンカーの幻影 第27話「返答」
- 2020/02/09
- 14:19
「お題か。そうか・・」理乃への返信を打ち込みながら、前嶋はそう呟いた。そして「そうだよな。先週末、由香利さんがこちらへお越しってのは、彼女も分かってたんだ。そりゃ、会ったんだろうって事になるわな・・」とも思った。そこで「了解。その辺も含めて、俺が貴女に語れば良い訳ね」と。案の定、返信は「その通り!では、当日は宜しくです」とあった。勿論それは「昼食は、貴方の驕りで」も意味していた。
5/25 土曜は、初夏を思わせる暑い晴天。日中の気温は 30℃超で、多くの店舗や施設が冷房を使い始めていた。理乃と前嶋の待ち合わせ場所、金盛南ビルの階下ロビーも又同じ。「多分、今夜は深い事はないだろう。だからホントの普段着で良いな」そう思った彼は、長袖のアッパーを含め、ジーンズの上下とウォーキング靴の装いで赴いた。予想通り、理乃も下方は前嶋とほぼ同様。「やっぱり、今回はその気なしっと・・」成り行きでそうなれば否定しないつもりだったが、まぁ無理はしない方が・・とも思う彼だった。
土曜日は、飲食店を初め各所が混雑する。早めに、前嶋が予約を入れた和食の馴染み処へ。天ざるを嗜みながら、初めは当たり障りのない映画やラジオ番組などの話題で繋いだ。半時余りで食事を終え、これも前嶋馴染みの古風な喫茶店へと流れた。土曜の昼時とあって、店内はやや混雑してはいたが、二人は何とかゆっくり話せる席に落ち着いた。
平日よりは間をおいて 夏場相応のアイス・コーヒー が二杯現れると、理乃は前嶋に向かい 声をかけた。「先週末の事ですけど・・」 「はい・・」返事を得ると続けた。「由香利さんとは、会われたんでしょ?」 「えぇ、確かにね・・」一呼吸間を置いて、前嶋が返した。「その土曜の午後だったかな・・。まずは彼女の知ってる関係のテニス場でちょいと練習試合をして、夕飯までは一緒だったですよ」 「夕飯ねぇ。でも続きがありそうだな。そうでしょう?」
「うーん、悟られたか・・」前嶋の立場は、一歩難しくなった。「まぁ食事の間は、ラジオ(番組)の事なんかで、結構盛り上がった訳。それからもう一か所寄って 彼女を宿まで送ったんだけど、満腹ごなしに 夕方のテニス試合の復習を少しやろうって事になった訳」 「復習ねぇ。何か訳有りって感じもするけど・・」
前嶋は「あは、やはり食い下がって来るなー。ま、仕方ない・・か」と思いながら続けた。「うん、彼女はここから遠くない、テニス仲間で集まるとこがあって、そこに投宿してた訳。そこで食後のシャワーを借りて、夕方の復習に及んだ訳ですな」 理乃「大体わかった。それでね・・」 前嶋「はい・・」 「テニスと来れば、貴方の大好きなミニコスの事が引っかかるよね」 「あぁ、あはは、そう来たか・・」 「想像がつくわよ。夕方の試合の時からそうだったの?」
「あのさぁ・・」返事の前に、前嶋はそう思った。「確かに見事なミニだったけど、それ言わんといかんかなぁ?」そうは言っても、やんわりと糾す理乃は、どうしても語らないと承知しない様子だった。「仕方がない・・」悟った彼は、次第に全てを語らんと・・という気分に傾きつつあった。「その復習の折に、俺好みのミニコスを披露して下されたね・・」
「アハハ、おめでとう!良かったね」反応した理乃は、心底笑っている様に思われた。その一方、穿って見れば、前嶋から全ての事実を語らせる作戦染みた様なものも感じられた。「さぁ、どう返答するものやら・・」 一呼吸おいて「まぁね。俺の望み通りの装いになって下されたのは、ホント喜ばしかったですね・・」 「ほら、本音が出た!」どうやら、見事に理乃に言質を取られた様だ。
彼女は続けた。「コスの事だけじゃないでしょ。シャワーの後、更に深い事があったんじゃなくって。ここまで喋れば、もう隠してても仕様がないじゃないの」 前嶋「まぁ、そういう事ですね。それなら白状してしまおうか・・」 「そうそう、犯罪の取り調べじゃないけど『吐けば』楽になるわよ」そう言った理乃は、又ニッと笑った。眼鏡顔にしては、優れた美しさだ。
「よし、そういう事なら・・」と、前嶋は居住まいを正した。そして「理乃さん、貴女の知りたがってる、由香利さんと過ごした日、俺は確かに深いとこまで行きました」軽く頭を下げて語った。聞いた理乃は、意外にも笑顔だ。「そぅら来た!やっぱり H(セックス)まで行ったんだね。良かったね!」 「有難うございます。まぁそんなとこでして・・」静かに、しかしバツが悪そうに前嶋が返した。
理乃は、続けて尋ねた。「・・で、色々試したの?」 「試した・・か。ん?何をでしょう?」戸惑った様に前嶋が返すと、急に語気を強めて「トボけんじゃないわよ。試すって言や、体位に決まってるじゃないの。彼女を仰向けにさせて上に重なってする正常位で、最初から最後までイッたんじゃないでしょ。それだったら、貴方随分お間抜けだと思うけど、どうかな?」
聞いた前嶋は「あは、説明不足はご免なさい。でも、そんな事はなかったな。少なくとも 3姿態(ポーズ)は試したかな?」 「ハハ、来た来た。そのお話が聞きたいのよ。さぁ、初めから終わりまでお願いね!」 「あー、分かりやした。それじゃ・・」前嶋は曖昧に返すと、続けた。「まずは正常位。由香利さんが仰向けに臥して、俺が上に重なり 彼女のショーツをゆっくり脱がせて繋がるってアレです。その時に・・」 「うんうん、その時に?」
前嶋「その 最初に正常位で繋がった時、由香利さんが両脚を俺の腰に回して締め付けて来られたの。凄い力でね、俺 一瞬腰骨を折られるんじゃないかって、ちと心配だったですわ」 理乃「うわ!凄いわね。由香利さん、そんなに脚力あるんだ。まぁあの女性(かた)は 学生の頃陸上選手だったっていうから、そりゃあり得ない話じゃないだろうけど」 「そうそう。それで両脚を回されて締め付ける時の感じが、又凄い。上の俺に『もっと腰を上下に揺らしてよ』て催促して来る訳」 「いや、それも凄いわね。俗に『蟹挟み』て言うらしいけど、言われるままに腰を振ったら、暴発しちゃうじゃない?」
前嶋「そう、それです。そのまま動いたら、仰る通りになるから、俺 それだけは嫌だったんです。だからさんざ促されても、ゆっくり動かすスロー・ピストンを厳守してたの。お陰で何とか暴発は免れてね」 理乃「確かに、貴方のスローな動きは、あたしに繋がる時も感じるわ。ゆっくり出入りするの『あっこれ、信念で抑えてるな』てのが、何となく分かるのよ。あたしのサイドじゃ、ゆっくり動く間に昂れるから、とても具合が良いのよね、でも、腰に脚を回して締め付ける技は、あたし初耳だわ。良い事を聞いた!」そして、更に詳しい話を聞かんとして 上体を乗り出して来る。「・・で、他の体位はどうしたの?」 「うん、それをこれから話そうって事で・・」前嶋はこう返すと、もう一度座り直して居住まいを正した。
(つづく 本稿はフィクションであります)
今回の人物壁紙 小川桃果
日野皓正さんの今回楽曲「ブラック・ジャック(Black Jack)」下記タイトルです。
Black Jack