轍(わだち)~それから 第4話「再念」
- 2016/11/28
- 13:29
6月初旬の某日、中条 新(なかじょう しん)は、勤務先である、義弟が社長の内装関連企業の、取引先と営業企画上の打ち合わせの為、東隣の県 東濃地区へと向かった。勤務地のN市を昼頃出て、先方都合で車が使えないこの日は、JR中央西線での往復となった。
ほぼ順調に用件を終え、先方の希望もあって茶話会の後、多治見と言う駅から、夕方前の上り列車にて帰途に。この時、午後4時半過ぎの快速はかなり混んでおり、時間に余裕のある彼は、続行の4時45分発の各停を選んで乗車。ここからN市中央駅までは、ほぼ40分前後で、快速と各停でも所要時間差は、基本 約数分しか違わない。ただ、この選択が、その後の男の運命を、少しばかり変える事になるのだが。
列車は6両編成。前方の3両が、大阪辺りのJR快速列車でよく目にする、基本前向きで座るクロス・シートの車両。後半3両が、全国の地下鉄などで標準の、立ち席の多いロング・シート車両である。これは、同線の乗車実態が、下りは列車の前半、上りは後半が混雑し易い事とも関係があるらしい。この傾向を知っていた中条は、上り先頭車の中程に席を取った。余談ながら、この時は、この先頭車にのみトイレがあり、万一の小用を考えての着座でもあった。
県境の、やや深い渓谷をトンネルなどで抜けて約20分余後、中条らの地元 A県最初の街 K市の中心部にある、勝川(かちがわ)と言う駅に入る。プラットフォーム中程の乗車待ちは、かなりの人数だ。それを横目に、先頭車の停まる位置で一人待つ女の姿に、男は見覚えがあった。「あれは・・」
「もしかして、初美さん・・?」彼女の方も、気付いた様に見えた。
先頭車の右後ろ、丁度トイレの傍のドアから乗り込んだ女は、中条の座る方へ歩いて来る様子が、快いパンプスの響きからも分った。そして・・
「中条さん・・」 「おお、暫く!」 「隣、大丈夫?」 「ああ、どうぞ」 スレンダーで色白の、ハーフっぽい美貌。紛れもない、彼の甥の元恩師 伊野初美(いの・はつみ)。二人、並んで座る。
「お久しぶりです」 「お元気そうで、何より」 「電車でお出かけなんて、珍しいんじゃない?」 「ええ。今日はね、先方の事務所が改装中で、駐車場が使えなかったんで、こうなった訳でして」 「でも、ハンドルの心配がないから、気楽でしょ」 「そう、それはね。所で、貴女もお仕事かな?」 「ええ。中央駅から20分位だから『ちょっとそこまで』て感じよね」
西進する列車の中で、二人は近況報告と、世間一般の雑談などして過ごす。この日の初美、上方は清楚めの白ブラウスに、下方は「ガウチョ」と呼ばれる余裕の大きい薄茶のパンツ姿。中条「夏らしいね」とその事に触れる。「早めに、季節感を取り入れたいのよね」と初美も応じ。
危険で不評な「駆け込み乗車」も今回はなく、午後5時半、列車はほぼ所定でN市中央駅へ。到着の折の動揺で、男の左手に女の右手が一瞬重なったのは、偶然とも思えなかった。二人は、示し合わせて駅構内の喫茶店で、短時間 茶をする事に。意外にも、この席で、中条が言い出そうとした事を、初美が言ったのだ。
半ば社交辞令のつもりだったが、中条は「初美さん。近く、又お会いしたいね」すると、女はこう返したのだ。
「中条さん。今日は偶然だったけど、あたしも前からお会いしたいと思ってたの。だから、貴方の連絡先を教えて欲しいの」
「好いでしょう。今、用意するから、ちょいと待ってね」彼は、居所と勤務先、携帯、それに少し離れた実家の電話番号を、メモで渡した。後の処理は、彼女に任せるつもりだったのだ。「控えたら、できれば、そのメモは破棄して欲しい。貴女の連絡先は、今は訊かんから」 「好いわ。都合が分ったら、必ず連絡する。貴方、去年の夏の事は、忘れてないわね」 「ああ、勿論ですとも」
その夏の出来事を少し。彼の甥 白鳥 健(しらとり・たける)とその親友 箕輪 徹(みのわ・とおる)が行っていた佐分利学院の特別林間学級からの帰途、その学舎 中山荘(ちゅうざんそう)を発つ直前、密室と化した講師の居室で、下着同然のミニコス姿で、初美が中条を揺さぶった時の事だ。凄まじい挑発に下方を熱くしながらも、男は辛うじてかわし、女に平服に戻るのを促し、その場を鎮めたのであったが、講師の居室の解錠時、その右手を女に握られた強い感触を、今も忘れてはいなかった。
「じゃあ近く、知らせますから宜しくね」 「はい、こちらこそ」小半時程で、この場は解散。それから、中条に伝えられ、了解した日時は、4日土曜の夜だった。
その同じ日、時間は少し遡るが、多くの生徒や職員の帰った、静けさの戻った佐分利学院の養護室には、熱く妖しい時間が流れる。
シャワーを使い、バス・タオルを纏って部屋に戻った高等科生 豊野 豊(とよの・ゆたか)は、すぐ異変に気付く。
そこにいたのは、先程とはうって変った風情の養護主任 本荘小町(ほんじょう・こまち)の艶姿であった。
実は、清楚な白衣の下に秘められていたのは、黒ずくめの下着一式。ベビー・ドールとでも言うのだろうか、短めのアンダーの上下、ストッキングも勿論黒。これは、訪ねた最初に分ったはずだが、よく見ていなかったのは迂闊だった。しかも、決め手の様な、ガーター・ベルトも抜かりなく着けているではないか。下方のショーツは、もしかすると露出刺激極大の、Tバックかもだ。
小町は言った「ふふ、これを見たら、これからどうなるか、分るよね」 「はい。ああ、何となく。でも先生、僕は一度もこんな風な事は経験してませんで・・」豊、返す。
小町「いやいや、それで好いのよ。一つずつ、あたしが教えてあげるわ。豊君、童貞なんだ。丁度良かった」こう言った後「今日はこれから、あたしの事を、名前で呼んで。その代り、君の事は『俺』って言って好いからね」
豊「分りました。小町さん、宜しくお願いします!」 小町「さあ、分ったら早速復習よ。ここに座って、始めましょう」
二人は、奥の広めのベッドに並んで座り、互いの背後に腕を回して、唇を重ねる。先日より長い時間をかけ、舌も使った濃厚なやり方で。
抱擁の途中から、ベッドに臥しての行為に移る。仰向けの小町に、豊が徐々に身体を預ける。「さあ豊、あたしの上に来るの。もっと、もっと重なって」 「はい。こんな感じで好いのかなあ?」そう語り合いながら、豊の身体は、小町の上にほぼ重なる。
「そう、それで好いのよ。今、あたしの想いを伝えるわ」二度目の口づけを経て、小町は、豊の腰に下肢を回し、強く組み付けにかかる。教え子を、蟹挟みにしようと言うのだ。
豊「ああ、強い力ですね。俺、貴女と一つになってく様な気がしますぅ・・」こう言うと小町「そうでしょう。今からあたしたち、本当に一つになるのよ」と返し、暫くは、喘ぎと吐息が交錯する、熱い愛撫が続く。
暫くして豊「小町さん、お疲れじゃないですか?暫くの間、俺が下になりましょう」声をかけると、小町「あたしは好いわ。でも、その気持ちが嬉しい。中学の頃、君はよく下級生をいじめてた様だけど、今日の事を学ぶと、もうそれはできなくなるわよ」
豊「はい、そうなる様に努めます。じゃ、まだ俺が上で好いですか?」 小町「そうよ。もう少し続けて」
やがて、下着の肩ストラップがずらされ、初めて見る胸の双丘が現れる。豊、赤子の昔を思い起こす様に、佳い色の乳輪に唇を寄せ、愛でる。
「ああ、この感じ好いですねえ。いつまでも、触っていたいです」 「ここは、懐かしい場所よ。君が小さかった頃、毎日、お母様のここにいた訳よ」 「なる程。そう言う事ですね」豊は、その言葉を反芻する様に、指と舌で、乳房へのソフトな愛撫を続ける。
小町「ああ、好いわ。豊、初めてにしては上出来よ。さ、ここで入れ替わろうか」 「はい、分りました」豊、仰向けになり、小町を迎える。今度は、露わになった彼の上体を、小町のしなやかな指先が駆け回り、印程度の乳輪に、舌を這わせて行く。
「ああ、感じるぅ・・」思いの他、強い刺激に、豊が声を上げる。「そうか、結構敏感なんだね」感心した様に小町、豊の首筋から肩、腋、両腕、腹周りへと指と舌を走らせる。彼はその度、低い喘ぎを繰り返し発した。そして・・・
(つづく 本稿はフィクションであります)。
今回の壁紙 JR中央西線 金山駅北詰 名古屋市中区 2015=H27,7 撮影 筆者
松岡直也さんの今回楽曲「ネコのあくび」下記タイトルです。
Neko no Akubi