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この雨は こんな風に聴こえる 第27話「同様」

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正に「理想」に近い、充実した一夜を過ごした宥海(ゆうみ)と黒木であった。念の為、目覚まし(アラーム)を 8amにセットしておいたが、普段は夜更かしをしない佳き習性もあって、ほぼ 30分前には目が覚めた。6月半ばの、厳密には第 3土曜の始まり。この日、彼は休日。宥海は夕方の TV番組に出演すべく、午後早くから出局の予定と聞いている。

丁度、某民放chで、作家で女優でもある 阿川佐和子の対談番組が始まる所だ。黒木はもう少し 宥海を眠らせておきたく、己のみそっと居間に移って TVモニターのスウィッチを入れた。音量を絞ったつもりだったが、続いて宥海も起き出してきた。「恆(ひさし)さん、お早う!」 「あぁ、お早うです。まだ寝てれば良いに・・」 「うぅん。もう目覚めは大丈夫。それより今から『サワコの朝』でしょ。あたしも見たいなぁ。一緒に起こしてよぉ・・」 「ご免ご免。寝顔がとても素敵だったから、悪いなぁ・・なんて思った訳で・・」軽く謝ると、宥海は優れた笑顔で無言の赦しを・・。

宥海「朝ご飯、番組の後でいい?」 黒木「あぁ、いいんじゃない。俺は今日 お休みだから急がないし。貴女も、昼までに局入りすれば良かったんだよね」 「そうそう。それより貴方、例の列車の写真は良いの?」 「その事ぞ。今、ネットの情報見たら、本州入りしてから 東北辺りの大雨で遅れが出て、この辺の通過が半日は遅れるみたい。下手すると夜になってからだから、今日は考えない方が良いかな?なんて思ってるの・・」 「あぁら、そりゃ残念。確か北海道から来るんだよね。そうすると、大幅遅れもあり・・か」

「そうそう、その通り!」の意思を伝えるべく、黒木は頷いて返した。とりあえず ペット・ボトルの冷茶を注ぎ分け、二人は暫く、対談番組のチェックで時間を過ごした。番組が終わると、黒木が言った。「一旦、雨が止んだみたいね。どうだろ、朝は俺の馴染みの店行くか、それとも・・」 宥海「そうだね。折角の止み間だから、そちらへ行っても良いよ」 その返事を得ると、黒木はポロシャツにジーンズの平装に着替え「あぁそうだ。シャワー遣ってきたら・・」と促した。「いいの?」念の為・・という風情で宥海が訊くと、無言で頷いて返した。

宥海がシャワーを使う間は、引き続き別chの報道番組をチェック。20分程後、思ったより早く使い終わった宥海が、黒木に近いアッパーとジーンズの普段着に着替えるを待って、これも近い意匠のウォーキング靴を履き、黒木馴染みの店へ。活況も、何とか空席有り。数種類あるモーニング・セットから、少し異なるメニューを所望し、10分程待ちで前後して届くと、初めは黙々と食を進めた。

「さてと・・」数分で料理を平らげ、残ったトマト・ジュースとブレンド・コーヒーを交互に嗜みながら、黒木が言った。「昨日今日と 雨予報だったけど、今朝の止み間はちょっと意外だったな。貴女は予想がついた?」 宥海「その事よ。確かに雨が降り続く予想にはなってたけど、もう知ってるかもだけど 雨雲には強い弱いのムラがあるのよね。今朝はその弱いとこがこの辺の上空にかかって、止む時間があったって事じゃないかな?」

黒木「なる程ね。確かに昨夜のラジオでもネットでも、止み間があるかもとの予報が出てた。どうだろ・・午前中はもつかな?」 宥海「上手くすればね。でも 又午後は降る見込みだから、傘は忘れない方が良いわよ」 「・・ですか。じゃあ見込んどきましょう・・」そう会話を区切った時、黒木のスマート・フォンに LINE着信通知があった。彼の弟・存(たつる)からだ。

存「兄者、お早うです。報告一件!」 「存(タツ)もお早う。おい来た!聞こう・・」そう返した次の瞬間「ヤ・ラ・レ・タ~!」の続きが入った。「お前もか・・」それを見た黒木は、一瞬そう呟いた。そして、対面の宥海に言った。「今、弟から連絡が来ました。やはり、やられてますね・・」聞いた宥海は「やっぱり彼女(アイツ)・・困ったわねぇ・・」と呟き、顔を曇らせた。

美しくも芳しいとはいえないその表情を一瞥しながら、黒木は送信を続けた。「存(タツ)。この返事は、気が進まなければ しなくて良い。俺の時みたいに、紙幣(サツ)だけがやられたのか?」意外というか、やはりというか、存の返事は折り返しであった。「兄者、続報です。やられたのは万札が 3枚だけ。硬貨と少額紙幣、それにクレカやICのマナカとかはやられなかったって事で・・」 

黒木「そうか、有難と。しかし、それまんま 俺と同じ手口だな」 存「そういう事。どうだろ、今夜にでも又会って、善後策を練るかね?」「それが良い。俺は今日 休みだからお前に合わせる。時間が固まったら、又連絡を!」 「了解。所でこれは兄者が嫌なら答えなくて良いが、夕べは宥海さんとご一緒だったのかな?」 「あ、いやいや。お前が直ぐ答えてくれたから、俺もそうするのが礼儀だろ。昨夜は確かに、宥海さんと一緒だったよ」

存「おー、それは良しですな。徐々に仲が深まってるって感じもするし。所で・・」 黒木「はい、続けて。読んでるよ・・」 「了解。ならば更に続報。麗海(れいみ)さんは、その問題さえなければ素敵な女性(ひと)だね。もう病気レベルの、その問題がね」 「お前もそう思うか。まぁさ、あの宥海さんの妹だから、基本はそうおかしくはないはずだが・・」 「俺も同意。その病的な手癖さえなければね。まぁ詳しくは、会って話がしたいな・・」 「OK,OK。むしろ俺の方が聞きたい位だ。じゃあ今夜は空けとくから、目途がついたら教えてくれよ」 「委細承知!その折は連絡する。じゃ、ひとまず・・」 交信ここまで。

少し補足すると、麗海と存も一夜を過ごした後、宥海と黒木が入った店からそう遠くない別店舗で朝食に臨んだのだが、その終盤、麗海は「存さん ご免なさい。あたし、急用を思い出してね・・」急にそう言い、黒木の時とは違って 己の勘定を自席に置くと、慌ただしく店を出て行ったという。「ハハ、割り勘以外は、全て俺がやられた時と同じ。ホント『存(タツ)、お前もか‥』の風情だな・・」

その合間を縫って、同席の宥海への報告も欠かさなかった。「残念ですが、弟もやられたみたい。手口は、俺の時と大体同じ。ホントはね・・」ここで言葉を区切り、宥海と視線を合わせた。「それって・・」途切れがちに返し始めた。そして「つまり麗海は、貴方達兄弟に、盗みを働いたって事ね・・」 「そういう事になります。でも・・」黒木はそう返し、努めて暖かい視線を心がけた。

彼は続けた。「但しね、それは俺と存が 警察に被害届を出して初めて罪責を問われるんだと思うのね。被害者の俺と弟が、内々で済まそうと思えばできるし、これは弁護士の巽(たつみ)先生がよくご存知だろうけど、示談で収める事だってできると思うの。宥海さん、俺はね・・」 「はい・・」 短く返した彼女は、その時居住まいを正した様だった。

黒木「確かに彼女は 所謂『罪』をやらかしたけど、俺は決して、彼女の手に縄や手錠がかかる事を望んではいない訳。今夜 その事で弟と話をするつもりだけど、そういう『逮捕』とかの事態だけは全力で回避するつもりです。それは分かって欲しい・・」 「分かりました。妹への斟酌(しんしゃく)を有難うございます。本当に、そうなってくれると良いわ・・」曇っていた宥海の表情に、少し美しい晴れ間が射した様だ。その事が、黒木にも救いの様に思われた。
(つづく 本稿はフィクションであります。次回は 10/1木曜以降に掲載予定です)

今回の人物壁紙 紺野ひかる
今回の「音」リンク 「レイニー・ウォーク (Rainy Walk)」 by 山下達郎 (下記タイトルです)
Rainy Walk

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