この雨は こんな風に聴こえる 第49話「中途」
- 2021/01/12
- 11:58
習慣的儀式ともいえる 行為後のシャワーを同時に使い、少しの寝酒での乾杯を経て、適度な冷房の下 ソファ上で折り重なって就寝した麗海(れいみ)と黒木が覚醒したのは 8:30am過ぎ。彼にとっては予定の行動だった。馴染みの喫茶店に誘っての朝食。実はここで解散にしたかったのだが、麗海は直ぐには引き下がらなかった。まぁこれも、黒木にとっては想定内だったのだが。
「あれで眠れたの?夕べは・・」訊いてみると、麗海は「まぁまぁね。それより貴方は、好い夢が見られたんじゃなくって?」 黒木「好い夢・・か。確かにね。初めの内『69(シックス・ナイン)』状態だったしなぁ・・」苦笑しながらそう返す。そう。日付に替わり、ソファに臥した彼の上に、上下逆に重なった麗海の臀丘と秘溝が、暫し黒木の視界一杯に広がっていたからだ。
「そうか・・」絶景を目の当たりにしながら、彼は思った。「ついさっき、ここに目一杯発射したのだったな。シャワーで念入りに洗わせてもらったが、まだ残香位残ってる・・かな?」彼好みの フレア・アンダーの裾がかかって見え難くなっていたも、悟られぬ様 鼻先を近づけて確かめてみる。微かに彼女の 股間の芳香らしきものが感じられはしたが、己の放った精液の匂いは消えている様に思われた。
「麗海さん、接吻(キス)しても良い?」 静かに訊いてみると「良いけどさ、貴方ホントにこういうの好きだね。姉にもこんな要求してるの?」と追及された。黒木「あぁ、はい・・。俺 確かにお尻や股間眺めるのが好みでね。趣向って言うんですか。宥海(おねえ)さんにも時々見せてもらってる。まぁだって、彼女もここでなら嫌とは言わないし・・」 「やだ。その時々って、毎回って意味でしょ?」そう返すと 麗海は黒木の上で、声を上げて笑った。
「まぁ(仕方がない)、その辺はご想像に任せるよ」そう応じて、眠りに就くまでの間、局所への愛撫など 暫しの後戯に勤しんだ昨夜だった。この朝も もう少しその余韻を味わいたい気持ちもありはしたが、一方で 麗海を適当に帰したい想いもありはしたのだ。それは 宥海に弟・存(たつる)を交えた「会合」を翌週に控えている事情もあった。尤も そうした時に限って「事」は思い通りには運ばないもので、二人共に普段着の上下に着衣を戻し 連れ出したつもりの朝食の店から、麗海も一緒に還って来て「しまった」。
「次の機会(チャンス)は昼・・か」 居所へ戻ったタイミングで、人気芸人・松本人志が司会の報道バラエティ番組が始まる。この日、黒木が標的にしている東海道線・下り長距離貨物便は 先導の機関車に運転上の変更が出て普段通りの状況ではない為、撮影には出ない。その事も又、麗海の長居を助長したのかも知れなかった。
「昼飯、どうしようね?」 松本の進行で、出席者が笑いながらの討論を交える姿を一瞥しながら 黒木が言った。聞いた麗海「出たくないわ。だって今日は日曜でしょ。中心部って どこへ行っても混雑してるし、お昼時のお店って 大抵満席でさ。場合によっちゃ行列で待たされる事だってあるでしょ。カップ麺か何か、ないの?」 「あぁ、そんなので良けりゃ・・」黒木はそう返すと、厨房の開き棚から 人気のカップ焼きそばを二つ見つけてきた。
黒木「これで良い?」 麗海「上等よ。何で初めから言ってくれなかったの?」 「ご免ご免。昼も外食の方が良いかな・・とか思ったからね」 「土曜だったら、そうしたかもね。でも、今日は違うわ」 会話を区切ると、黒木は湯を沸かしに立つ。その間に、麗海はスマート・フォンの LINEで何やらやり取りをした様だった。
10分強で、昼食の準備が整う。野菜分を補うべく、切りトマトも少し。黒木「聞いちゃいかんかもだが・・」さっきの LINE送信が気になった事もあって訊いた。「日曜も、仕事絡みってあるの?」 「うん」麗海は、嫌がる様子もなく返してきた。「365日 24H、お仕事の連絡は来ますよ~!」返事の後半は笑顔だった。
「そうか・・」 カップ焼きそばと切りトマト、それにペット・ボトルの冷茶を交互に嗜む一方、TV画面に目を遣る黒木の脳裏にちょっとした閃(ひらめ)きがあった。「365日 24Hって事はだよ。つまり年中無休って事じゃんか。何でここに気がつかんかなぁ。いつもそういうのが遅れる俺も、アホなんだが・・」
簡素な昼食が終わり、片付けの後 アイス・コーヒーかコーラか・・の段になって、麗海の所望は「思った通り」のコーラ。黒木は大きなパック入りのアイス・コーヒーだ。「今度こそ、今回の潮時だ・・」 TVの方は、午後から辛坊治郎が司会の 報道討論番組が入る。毎回の出席者は左右両翼の言論人が多く、番組自体も賛否が交錯するものだったが、黒木はそれが面白く 仕事関連や、趣味の写真撮りなどが入らない時はよく見ていた。勿論、相手が麗海では 政治思考面がどうのと言い出さない方が良いに決まっていると思い、静かに観察していると 意外に興味を以て見ている様で驚きもしたものだ。
だが今は、議論はよそう。もういい加減に帰した方が良い・・との気持ちに、黒木は傾いていた。辛坊司会の番組は 3pm前に終わる。「その時が機会(チャンス)だな・・」と彼はみていた。もし仮に 麗海のスマホが鳴ったり、LINE着信でもあれば もっと好都合だが、そうならなかった場合でも 帰すきっかけ位は一応考えていた。
「さてと・・」 見ていた TV番組が終わると、黒木はゆっくり切り出した。「実は俺、これからちょっと面倒な買い物があって 出なきゃいけないんです。悪いが、貴女を付き合わす訳には行かなくて・・」 聞いた麗海「あぁ、面倒なお買い物ね。丁度良かった。あたしも『もしかすると似た様な』雑用を思い出したのよ」 「そうか、良かった。じゃあ、金盛駅まで一緒に行きますか?」 「それが良いわ」会話が区切られると、麗海は一旦洗面所へと立ち、髪型と服装を整えた。
直に見る訳ではないが、洗面所の気配に 黒木は又もムラムラとした衝動を感じた。無理もない、昨夜の行為から十数時間は経っている。下方の性欲と衝動が、一定は復活してきているのを感じたも事実だが「やはりダメだ」とここは押し止めた。「あぁ、ダメダメ。欲と衝動の解放は来週だ。彼女も、それが分ってるはず・・」 10分程して・・
「恆(ひさし)お兄さん、お・待・た・せ・・」洗面所の用を済ませた麗海が、居間へと戻る。そして「やっぱりね・・」と一言。「はい、聞いてます」黒木が返すと 「やっぱりね、この前 貴方から盗(と)ったおカネ、今 返しておきたいの」と続けた。「そうですか、そういう事なら・・」聞いた黒木も、ここは応じる事にした。
「悪かったわね。ご迷惑をかけました」そう一礼し、麗海は黒木の眼前に 新品の 1万円札を二枚差し出す。「分かりやした。確かに・・」受領した黒木は、しかしこう続けた。「来週で良い。存(タツ)から盗った分も、必ず返してやって欲しい」 「勿論!お約束です。できれば、貴方にも立ち会ってもらえると嬉しいわ」 「OK。そうしましょう・・」会話が区切られると、黒木は麗海にもう一度手洗いを促した。
結局、この日二人が金盛総合駅で別れたのは夕方近く。麗海のスマホは 結局何の反応もなかった様だった。「あぁ・・」市営地下鉄の改札へと向かう 彼女の後姿を見送りながら、黒木は呟いた。「もしかして彼女、このまま黙ってりゃ 今夜も第二回戦しよってな腹だったのだろうか。俺も男だ。もしかするとだが、来週の会合さえなければ このまま応じていたかもな」 だがここは、切り上げて正解・・と己に言い聞かせた。
「面倒な買い物」とは、勿論 麗海を帰す為の理由づけで、実は総合駅近くの大手食品スーパーで夕食の買い物をするつもりだったが「そうだ!」一つ思いつきがあった。「日曜休みで申し訳ない所だが・・」折々 相談事で相手をしてもらっていた 巽 喜一(たつみ・きいち)弁護士の所だった。「電話が良いか、それとも SMSの方が・・かな?」迷った挙句に、電話を選んだ。直ぐ繋がり、巽本人が出た。「お休みのとこ、申し訳ありません!」 「いやいや、気にするなかれ。ウチだって年中無休みたいなもんだよ」 麗海との示談不要を伝えるだけのつもりだったが・・。
(つづく 本稿はフィクションであります)
今回の壁紙 雨の JR東海道線・清州駅付近。愛知県稲沢市 2020= R2,6 撮影、筆者
今回の「音」リンク 「キャンディ・レイン (Candy Rain)」 by Soul for Real (下記タイトルです)
Candy Rain