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この雨は こんな風に聴こえる 第63話「冒険」

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「見えたか?」流石(さすが)の黒木も、もう余り落ち着かない風情だった。己の本命ともいえる宥海(ゆうみ)が、実弟とはいえ「他の男」と交わっていたのだから無理もないといえうなくもなかった。いや「交わった」のでなく、彼自身も承知の上で 侵させたのかも知れなかったが。

それにしても、傍らの麗海(れいみ)は、その事を知っていて冷静に傍観している風なのも事実だった。「ふふ、恆(ひさし)お兄さん・・」囁きかけるのを 「良いから!」と 静かに、しかし強く手を牽(ひ)く様に 浴室へと向かった。「シャワーを使いながら聞いてやる」と、諭す様に囁き返した。さしもの麗海も、これにはただ頷いて応じるしかなかった。

「あぁ、良かったぁ・・」行為を終え、再びベッドに横たわった宥海が言った。「俺もですよ。宥海お姉さんと 初めてでこう上手く行くとは・・なぁんて思いまして」存(たつる)も笑って返した。「所でさぁ・・」少しおいて、宥海。 そして「さっき、寝室のドアが少し開いた様な気がするんだけど・・」 存「あぁ、アハハ、そりゃ気のせいでしょう。麗海さんと兄者は さっきからシャワーみたいだし、誰も入って来る訳ないと思うけどなぁ・・」 「ふぅん。存君がそう言うなら、信じるしかないわね」ここは宥海も、収めようとする風情だった。

一方の麗海と黒木、シャワーの合間にも言葉を交わしていた。「それにしても・・」彼は言った。些か呆れていたのだが、それはまぁ表にしない事にして。「貴女、ホントは覗くの好きなんかなぁ?」 麗海「それはたまたま対象が姉だったからよ。誰彼となくって訳じゃないわ」 「マジで?」 「ええ、ホントよ。一応年上だから、妹としては どんな風に事に及ぶか、ちょっと興味があってね」 「・・て事はつまり、そっちの事を学んでみたいってな意図からかね?」 「それもあるわ・・」

「本当に、それだけか?」内心黒木は、そう思っていた。「もしかして・・」 「このまま宥海さんと俺の仲を壊すつもりで、こんな出方をしてる可能性はないんかな。これ、そうは考えたくないんだが・・」そう思いながらも、それを直に麗海に質(ただ)す事ができ難いのも事実だった。そして「やはり、初めの意図からか?」とも思ったものだ。

「とりあえず、出よう。宥海さんと存(タツ)にも、早めに使わさんといかん・・」 そして「麗海さん、終わったかな?」と訊いてみた。「うん、後二人入るから・・でしょ」との答えが返ってきた。「いかにも」そう返しながら 浴室から居間へ戻ろうとすると、寝室から話し声が聞こえてきた。一応ノックし「お先に・・」と声かけ。「おー早いな。兄者、もう良いのか?」 返事は 存からだった。「あぁ。麗海さんも出てきてるし、入るが良い。宥海さんも、その方が良く眠れるだろ?」 「それもそうだな・・」

浴室から時折、宥海と存が談笑しているらしい声が聴こえる。それを聞き流すそぶりで、黒木は 4人分の冷茶と 席の用意を進める。「貴女は座ってりゃ良いから・・」の言葉に甘え、麗海は「これ、要るんでしょ?」と黒木に返された Tバックを再び着け、先程からのミニコス上下のまま TV番組をチェックしていた。勿論ソファで立膝の姿態(ポーズ)を取って、しきりに黒木を挑発しもしたが。そうこうする内、てんでにバス・ローブを纏った宥海と存も浴室から出て来た。全員が席に落ち着くと、誰からともなく労いの言葉が交わされた。

「兄者は何、こんなコスが好みなんだな?」冷茶をチビリと嗜みながら、存が言った。「あぁ、麗海ちゃんの今夜の恰好ね。まぁ、趣味っちゃあ趣味だが・・」黒木が曖昧に返すと、すかさず麗海が横から「そうそう、彼の趣味そのものよ!」と優れた笑顔で応じた。

「ハハ、やっぱり・・」それに応じる 存も笑顔だ。そして「その辺が、宥海さんにはやり難いのかも知れないな。まぁ兄者も、余り無理は言わん事だよ。それと・・」と言葉を継ぐ前に、一つ深呼吸をした。それを宥海が、興味を持って聞いているらしい事を知っていたからだ。そして彼は「お姉さんも、少しで良いから 兄者の望みを叶えてやる日を作ってもらえると良いなって思うんですがね」

「あぁ、その事ね・・」控え目に、宥海が返した。一方で、麗海の反応を窺っている風もある様に感じられもしたが。少し間を置き「うん、彼の望みを全否定する訳じゃないわ。でも、毎回はちょっとって事よ・・」 聞いた黒木「あぁ、毎回はちょっと・・ね。分かります」 存「だからね、その辺はよく話し合ったりするが良かろう。その辺はそれ、兄者のセンスにかかってますぞえ」 「あぁ分かる。そこは何とかしようと思うぞ」 「宜しくです・・」 「ああ・・」

半時程の雑談を経て、4人は「行為」の時と同じ組み合わせで就寝。宥海と存が 寝室で枕を並べ、居間の長手ソファ上では 仰向けに臥した黒木の上に麗海が重なっての眠りとなった。翌朝は通り雨。それをやり過ごすべく ゆっくり目に起床し、黒木馴染みの店での遅い朝食を経て、ひとまずの解散。

その間際に黒木の居所を辞す時、宥海が言った。「ちょっと、近く夕べの復習がしたいわね」 聞いた黒木「復習ですか。そうだね、近々その機会を作りますよ。麗海さんの出方がどうかってとこも、一度話したいしね」 「うんうん。彼女(アイツ)は、恆さんとあたしの仲を壊すまでの事は考えてない風に思えるの」 「それは、俺も感じますよ。正直、今も 俺の本命は貴女です。それは、信じて欲しい」 「本音はあたし・・分かります。その事の確認も含めて、又近く・・ね!」 「勿論、約束しますよ」

一方の麗海は、存と共に 先に EVで階下へ。その道すがら「夕べはお互い盛り上がったみたいね」 「あぁ、そうですね。お姉さん、とても素敵だったなぁ」 「正直さぁ、お竿は存さんの方が立派だから、姉はそれだけでも良かったって思ってるんじゃない?」 「そうですねぇ、そう思ってくれりゃ、俺も嬉しいな」

麗海は続けた。「恆お兄さんと存さんのお竿って、大きくなった時なんか 兄弟だから近い感じなんだけど、やっぱり微妙に違う『素敵』なのよね。手で摩ったり、口に入れて味見してもそう思うのよ。だからもう暫く、両方のお竿を味わしたいって想いがあるのよね」 「俺は良いですよ。麗海さんの『女性』は最高に良いし、俺の竿を是非ピッタリ合わせたいって想いもあるけど、お姉さんの『女性』も少し違う『素敵』が感じられて、何か怖いんだよね」 「ふふ・・やっぱり、やめられない?」 「う~ん、直ぐには無理・・かな」

兄弟は、少し分りかけてきていた。麗海は、宥海と黒木が仲を深めるのを 本当は良く思わない訳ではない事を。しかしながら 黒木とその弟・存の肉体を、もう少しだけ味わいたいとの 云わば冒険心の様な気持ちを抱いており、その熱気が下降するまで見届けるべきではないか・・との考えだ。存の方も 似た様な感情を抱きつつあり、麗海との仲を進めようとしながらも、姉・宥海の「女」の魅力にも抗えず、つい寝てしまったという所だという事を。

「しかしだ・・」一方で、宥海と存は 冷静でもあった。熱く交わりながらも、本命の事も 頭の片隅にあったのだ。「あたしや麗海との間柄は、恆さんの気持ち次第よ」 「何だかだと言っても、兄者次第だぜ。この事は・・」 2人の認識は不思議に一致していた。それとなく伝えられた黒木は「そういう事か・・」と頭では分かっていながら、中々に踏み切れなかったという所だが。

「だから、必要なのよ」この時の別れ際に、宥海は念を押す様に言った。「この件は、復習が必要なの。貴方とあたしが実際に交わってのそれがね。その時に、麗海や存君の姿勢がどうかって事も、話したいって事・・」 「分かりやした。俺もそのつもりで復習に臨みますよ。それも近く・・ね」 同じ 8月の半ば、その時は訪れた。4人で共有した熱い夜から 1週間程後の事だった。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 楓カレン
今回の「音」リンク 「ハナミズキ」 by一青窈 (下記タイトルです)
Hanamizuki

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