母娘(ははこ)御膳 第2話「引鉄(ひきがね)」
- 2017/03/09
- 21:37
中京圏の、N市中心部 栄町の某喫茶店での、Chikan行為に遭った少女の母で会社々長の花井 妙(はない・たえ)と当事者の予備校生 阿久比 周(あぐい・あまね)の会見が続く。形ばかりの示談を担った、巽 喜一(たつみ・きいち)と巴 二郎(ともえ・じろう)の二弁護士も同席だ。妙は、凛々しくも艶めかしいタイト・スカートの濃色ビジネス・スーツ上下、周も茶系のジャケットと同様のロング・パンツにネクタイの装い。巽、巴の二弁護士も勿論正装である。示談そのものは既にまとまり、少しの雑談に入っていた。
「それはね・・」妙が切り出したのを見て「それじゃ、我々は別件がありますんで、今日はこれで失礼します。社長も、阿久比さんも何かあったらすぐお知らせ下さいね」二弁護士はこう言い、席を立つ。
「ああ、今日はお世話様でした」妙、返す。「ご面倒をかけました」周も応じ。「巽さん、巴さん、お会計の分は置いて行って」妙は再び声をかける。「はい、有難うございます。今日はお言葉に甘えます。では、失礼します」二弁護士はこう返すと、二人に向けて一礼の後、凛とした足取りで、店外へ。
「お気をつけてどうぞ」どちらからともなく、答礼。そして「今の続きよ。近く、この件じゃない事で、一度会いたいわね。できれば夜が好いわ」妙は続ける。「そうですか、有難うございます。余り遅くなければ、僕は夜でも大丈夫です」周も返す。「ただ・・」
「ただ・・何かしら。話を聞かせて」妙が促すと、周は「実は、今月の下旬に、学院最後の模擬試験がありまして。終わるのが24日木曜ですから、その後ならもっと有難いです」こう返し。「そうなんだ。じゃあ、頑張って。25日の金曜辺りはどうかしら?」 「有難うございます。その日ならOKですね」こうして、夜会う約束が交わされる。実際は、逢瀬に近いものだったが。
冒頭の問題を起こしてほぼ二週間後、周は、二日に亘る模擬試験を終えた。彼は、A県東三河の出身。実家は武道着や用具などの製造卸と並行して、スポーツ用品の卸売をする自営業で、経済面はまあ恵まれていた。しかし、自己鍛錬の意味も兼ね、週三日位は、現居所のある黒川辺りの飲食店で、日に三時間程アルバイトもしていた。店主も受験生である事が分っていて、深夜に及ぶ勤務は、基本的に外してくれていた。ただ、緊急に人手を要する場合は別で、日付が変わるまで勤めた事も三・四度位はあった。
日中は、勿論学院の教科と受験勉強に当てていたが、特に夜間眠れない時などに、集中して進める様心がけていた。その方が捗るからである。合間の時々は、ネット・カフェ巡りや買い物、それに鉄道や船舶などの乗り物写真の撮影をする事もあった。話を戻すが、25日金曜夜は、予定が入っていなかった。
その11/25金曜夕方、佐分利学院の教科と自習をこなした周は、6pmに近所の都市ホテルのロビーで、妙と待ち合わせ。僅かに早着だ。仕事に左右される事もあろうし、少し遅れかなと思いきや、時間丁度に、彼女が現れた。
「阿久比君、今晩は!」 「こちらこそ、宜しくお願いします!」会社で着替えたのだろうか、妙はベージュ系のセーターに羽織物、茶のロング・パンツで現る。周も、事前に言われた通り、紫系のセーターに上着、ジーンズの下方と言う装い。靴はどちらも、普段用のウォーキングだ。
「まずは食事しようよ。君も空腹でしょう」妙が言うと「はい、有難うございます。正直・・そうですね」周も応じ。昭和中期、新幹線の開通後 急速に開けたN市中央駅の西側の一角に、妙行きつけの洋食店があった。この日のメニューは、彼女がミックス・フライ、周がハンバーグの各セット。妙は白のグラス・ワインを二杯あおり、酒気の許されない周は、ジンジャー・エールであった。
「じゃ、模擬試験終了を祝って、乾杯!」一方は酒気、もう一方はノン・アルコールのグラスを合せ。「先日は、どうも済みませんでした」一言、改めての謝罪後、周は妙に、自身の生い立ちや実家の事、その年の受験に失敗して浪人中の事や、黒川辺りのワン・ルームマンションに独居している事などを語った。対する妙も、黒川東方の自宅や家族の事、夫君が三年前に病没して、今は自身が彼の会社を引き継いで経営している事などを聞かせたのだった。
「そうなんだ。お父様は亡くなられてたんですね。知らなかった。一言、ご冥福をお祈りしないと・・」周はそう反応す。「有難う。初めは、それは落ち込んだし、戸惑いもしたけど、もう今は大丈夫。この辺の様子も分ったし、お客様方とも、もう気心も知れた仲ね。まあ、新しい所には、気を遣うけど」 「なる程。やはり、会社に勤めるのと、ご自分で会社を経営するのって、随分違うでしょうね」
「まあそうね。銀行とのお付き合いとか大変なとこもあるけど、努力すれば、それは素敵な事もあるしね」 「何となく分ります。実は、僕も受験勉強と並行して、少しバイトをしてまして・・」 「ああ、それは好い。無理がなければ、是非すべきだわ。社会人になる為の鍛錬も、それは必要だし」 「有難うございます。まあ親たちには内緒ですけど」 「それ分るわ。その内、大っぴらに話せる様になると良いわね」 「そうなれる様にしないといけませんね」約一時間強、当たり障りのない会話が続いた。
食後のデザートとコーヒーの段になった所で、妙「所で阿久比君、今夜は遅くまで良いの?」 「ああ、はい。お母さん・・いや、社長さんがお望みなら、僕は良いですよ」 「ふふ、阿久比君、迷ったわね。可愛いわ。ねえ、これから、夜会う時は、あたしを名前で呼んでくれない?」 「お名前ですか。はい・・ああ、それ好いですね。それじゃ、妙さん・・でも抵抗あるなあ。先生じゃいけませんか?」 「ハハ、先生か。まあ好いわ。あたし、経営士の免許もあるし、そうね、先生で行きましょう」 「はい、分りました。先生、僕の方も、下の名前で宜しくお願いします。受験勉強とかの相談もして良いですか?」 「うんうん。答えられる所でね。あたしは私立大の文系だったから、英語に国語、歴史辺りなら、お話が合うかもよ」 「そうですか。有難うございます!僕も頑張れそうですわ」
8pm近く、食事を終えた二人は、近所のホテルへ移動。ちょっと意外。ツイン室のチェック・インを終え、部屋入りした所で妙「あたしね、お仕事が遅くなったりすると、この近くの会社の休憩室で泊まったりするの。セキュリティの都合で今夜は案内できないけど、近く見てもらえる様にしたいと思うわ」 「ああ、やっぱり大変なんですね。情報関連は忙しいって聞いてたけど、本当なんだなあ」周も返す。
妙は続ける。「まあ、種類に関係なく、プロのお仕事は大変だけどね。君も、アルバイトで少しは分るでしょ?」 「そうですね。少し前のTVで劇団四季の特集やってまして、そこの俳優さんが『演劇は見て天国、やって地獄』て言われてまして。やっぱり何でも同じかな、てふと感じたんですね」 妙「ああ、劇団四季ね。あたしも折に見に行くの。一応、四季の会の会員でもあるし」 「うわ、マジですか?僕も一度ゆっくり観てみたいんですよ。大学が決まったら、是非にとも思いますね」 「そうだね。その時は、一緒に観に行こう!」 「はいっ、お約束します」妙は今夜は泊まりらしい。周も、むげに一人帰る訳にも行かず、最後まで付き合うつもりでいる。
「さあ、周君」 「はい・・」 「シャワーを浴びておいでよ」 「僕が先で良いんですか」 「良いわよ。何なら、二人で一緒に行こうか」
「おお、それ素敵ですね。お願いして良いですか?」 「ふふ、スケベね。まあ、何度もないだろうから、一緒に入ろうか」 「はい、お願いします」かくして、二人は一糸纏わぬ姿で浴室へ。
妙の生れたままの姿は、四十路半ばの齢を感じさせぬ若さがあった。ブラ・カップはD位だが、下垂は少なく、肌の艶や張りも魅力的だった。身長も160cmはあり、3サイズも、まずは大抵の男が心騒ぐレベル。「綺麗な肌ですね」時折、周の褒め言葉や彼女の笑い声を挟みながら、浴室での短い時間は楽しく過ぎた。
「さあ、周君」妙は言った。「あたし、ちょっと髪洗うから、君は先に部屋戻ってくれるかな?」 「はい、心得ました。浴衣の先生も、きっと魅力有ですよね」 「まあ、嫌らしいわね。でも、期待してて」 「了解です」周は、先に部屋へ戻り、TV番組のチェックなどする。
十数分の後、ロングの黒髪を洗った妙が、同じ浴衣姿で部屋へ戻り。「さあ、周君」 「はい」 「素敵な夜景ね。これから、負けない位好い事が始まるわよ」妙の言葉に「ああ、やっぱりアレか・・」と思いながらも「好い事ですか。僕も良くなる様にしないといけませんね」 「そうよ。今夜、君とあたしは『男と女』になるの。そうしないと、素敵な夜にする事はできないのよ」 「ああ、何となく分って来ました。そうか、女性と協力し合わないと手にできない歓びって・・」 「言葉は要らない。あたしが少しずつ教えるわ」 「あ、はい・・て事は・・」周の言葉が終わらぬ内に、妙は彼の前に寄り添い、背後に手を回して抱き着く。そして・・「周君、行くわよ・・」の呟きと共に、彼の唇を奪う。
「せ・・先生、好き・・です・・」周、呻く様に反応す。「あたしもよ。さあ、これからもっと濃くて深い事が始まるわ。もしかすると、君はもう知ってるかも知れないけど」 「ああ、何か分る様な・・」言葉に酔う様に、周は妙の愛撫に応じて行く。双方の手指が蠢き、互いの身体を求めて行く。彼の下方は、興奮して熱くなり、礼儀を正して行く。勃起の始まり。そしてそれは、これから起きる事共全ての引鉄(ひきがね)となって行くのだった。
(つづく 本稿はフィクションであります)
今回の人物壁紙 葵
久石 譲さんの今回楽曲「初恋(First Love)」下記タイトルです。
First Love