交感旅情 第33話「意企」
- 2017/11/08
- 12:19
夕闇近づく、静かな山河に囲まれた田舎駅に、蒸機の列車「SLばんえつ物語」は暫し停車する。先頭の機関車 C57では、乗務員複数が、続く炭水車(テンダー)に積んだ燃料の石炭を整理して、焚き易くしたり、ボイラーの火の具合を見て、燃焼に偏りが出ない様調整する「火床整理」と呼ばれる作業や、足回りに異常がないかの点検、それに最も大事な、水の補給などが、短時間に矢継ぎ早に行われ。その合間に、希望する乗客たちは「キャブ」...
交感旅情 第32話「戻路(れいろ)」
- 2017/11/06
- 19:09
「昇りたい!達したい!」のは山々だった。が、しかし、すんでの所で、周(あまね)は思い留まった。「簡単にイけば、後悔するかもな・・」の想いがあるのも、事実だった。男根(コック)の勃起が治まるのを待って、彼は何食わぬ顔で、トイレから席へと戻った。今度は、中条の姿が消えていた。「周さん、気分でも悪いの?」首を傾げながら、由紀が訊く。傍らで、宙(そら)と由香も、耳を傾け。「悪いなあ、心配かけて。何でもないから、...
交感旅情 第31話「追尾」
- 2017/11/04
- 19:23
「このまま行けば・・」些(いささ)か似合わない、エア・イエローのトヨタ・シエンタを駆る中条は、ステアリングを操りながら呟いた。「ギリで、何とかなりそうだな・・」 R49から東へ分れ、山都(やまと)を経て、喜多方へと向かう県道は、そう険しい道ではなく、一部を除いて、黄線のある上下二車線である。カーヴやアップ・ダウンも思ったより緩く、黄線のある二車線の所は 60km/h位、それ以下の狭い所は 45km/h位で走る。隣の助手...
交感旅情 第30話「小声」
- 2017/11/02
- 14:18
11am過ぎ、JR磐越西線 上り普通列車で東上して来た中条たち四人は、一日前にも訪れた、西会津の街に入っていた。前日は、由香、由紀の姉妹の車に同乗しての入り込みだったが、この日は、初めてこの街の玄関 JR野沢駅に降り立った。磐越自動車道が通る前、まだこの路線に急行列車が通っていた頃は、勿論 停車駅だった所だ。今は、日中のみ、地元の既婚女性が切符の扱いをするだけの、業務委託駅である。「この駅、昔はもっとずっ...