母娘(ははこ)御膳 第30話「雨声(あまごえ)」
- 2017/05/16
- 10:29
「一体、何だろう?」学院近所での夕食を挟み、9pm頃まで受験対策の後、居所へと帰った阿久比 周(あぐい・あまね)の脳裏には、夕方の終講時、講師の花井 結(はない・ゆい)の、彼に対する不可解な出方への、複雑な想いが渦巻いていた。勿論、こんな事で乱調になってはならない所だが。入浴を挟み、日付が変わって暫くまで自習の後、実質は仮眠と言うべき 就寝。
翌 23日木曜は、雨の一日。朝方の冷え込みは緩く、日中は寒さ応える、雨の冬日によくある気象。少し着重ねをした周は、朝方、徒歩で覗きに行った、A県立図書館の自習ブースが確保できたので、夕方前まで、ここで集中する事に。4pm過ぎに、N市営地下鉄で佐分利学院へと移動。彼は、学院自習室へは入らず、階下ロビーのテーブル席で、参考文献の読み返しなどをする。そこへ・・
「阿久比君・・」上階への、EVホールの方から声かかる。最終日の教鞭を執った、女講師 結だ。凛とした、スーツ姿。「ああ、花井先生、昨日までお世話様でした」周は、直ちに一礼。「こちらこそ、お疲れ様ね。もう暫くで空けられると思うから、それまで待ってくれるかな?」 「勿論です。先生のご都合次第って事で」 「OK。LINEで知らせた方がいいかしら」 「有難うございます。・・ですね。その方が良いでしょう」一旦解散。結は、上階の職員フロアへ戻り、周は引き続き、同じ席で文献のチェックを続け。更に、小半時後。
周のスマート・ホンにLINE連絡。「花井です。阿久比君、ちょっと職員フロアまで」 「かしこまりました。伺います」直ちに、最上階一つ下の職員フロアへ赴く。一礼の後、入室して結の席へ。そこで・・
結は言った。「阿久比君、ちょっと、応接席へ・・」 「はい」促される周、結に従い、応接席へ。「お茶、要りますよね」 「有難う。お願いするわ」周、これを受け、セルフ・サービスの給湯器から、紙コップに日本茶二杯を用意して戻る。この様子を見て、結は続ける。「阿久比君も、修了おめでとう。ここで、証書を渡したかったのよ」 「有難うございます!」拝受する周。しかし、この瞬間「俺だけ、特別なのか?」との、疑念の様な想いが過ったのも事実だった。
「阿久比君・・」結、更に続け。「実はね、この後、本荘先生とお食事のつもりなの。君も、一緒に来ない?」 「は・・マジで良いんですか?」まだ、師の言葉の意味が呑み込めない周、こう返し。「勿論よ。本荘先生も、もうすぐお仕事が退けて、ここへお越しのはずだから、それまでゆっくりするがいいわ」 「はい、有難うございます」周はこう返すも、セーター越しの、師の胸の双丘が、何か彼を挑発している様に思えてならなかった、結は、その教え子の視線を理解していた。
「お待たせ!」6pm過ぎだろうか。これもスーツ姿の、女医でもある、学院の養護主任 本荘小町(ほんじょう・こまち)が応接フロアに現れた。「本荘先生も、これまでお世話様でした!」周は、直ちに起立して一礼。「うんうん。修了お疲れサマー。今夜は、とりあえず食事でもしようよ」小町は、師弟を促して、まだ降雨の続く街へと出る。
結、そして宙(そら)の母 妙(たえ)の馴染みの洋食店からも近い、小町馴染みの和食処で、天ぷらや煮物、造りなどを交えたコースの夕食を囲み「まずは、阿久比君の修了お疲れサマー!」との意で、彼も最初の一杯のみ、冷酒の杯を受ける。小町は言った。「実はね、君が A大と J大に通ったの、知ってるんだ」 「わっ、マジですか。情報が早いですね」周、驚いてそう返す。情報経路を知りたい所だが・・
「ふふ・・あたしたち、講師だから、その辺のお話も抜かりなく入って来るって事よ」結が笑って、こう応じ。そして、二女講師がこう声を揃えた。「阿久比君、おめでとう!」 「有難うございます!ただ、自分は、まだ公立大入試がありますから、もう一頑張りしないとってとこですが・・」周が返すと、小町が「まあ、それもそうだけど、適度の息抜きって必要だわ。今夜は少し位、いいじゃん」と応じ、結も 「そうよ。学院の教科修了って、良い節目じゃない。明日から又、気分切り替えて臨戦態勢になればいいわ」と合せる。
周、ようやく頭が落ち着き「分りました。それじゃ今夜は、合間の息抜きをさせてもらいましょう。次は、どこかへ流れるのかな?」訊かれた小町「いやいや、又養護室で、もう少し喋ろうよ。遅くなったら、三人仲良くタクシーで帰ればいいの。まだ雨も止んでないしさ」 「小町先生、そうして頂ければ嬉しいわ」と結も話に乗って来る。一時間強程で食事は終了。三人は、再び学院の養護室へ戻る。
まだ、相当数の教室で、夜間の教科が進行中なので、階下のロビーを進む時も、EVに乗る時も、皆、なるべく相談事でもある様に装っていた。夜間担当の保安係は、或いは気付いている者もありはしたが、心得たもので、挨拶の時も「ああ、受験相談ですね。阿久比さん、頑張って」と、さり気なくフォローしてくれるのが喜ばしくもあった。
8pmに近い養護室。雨滴に濡れた窓から見下ろす、N市中心部の夜景は、晴れの夜とは違った、しっとりと落ち着いた風情があった。前年の暮れから続く電飾も、少し艶っぽく光り、JR中央駅に出入りする東海道新幹線列車や、その西玄関に出入りする人々や車、大型バスなどの動きも、心なしかスローに見える。
「さてと・・」レディス・スーツから白衣に戻った小町は言った。「阿久比君は、シャワー行っといでよ。その間に、花井さんとあたしで、お話の席を作っておくからさ」 「そうそう、行ってらっしゃい」結も合せるので「有難うございます。それでは・・」と応じ、周は、歯磨きを兼ね浴室へ・・が、しかし・・
十数分程して、下着にバス・ローブ姿の周が部屋に戻ると、小町だけでなく、結も白衣姿に替えていた。「先生方、これ、一体どうなってるんですか?」周が訝(いぶか)る様に訊くと、結は「周・・今夜これからは、名前で呼び合おうよ。自分の事を『俺』って言ってもよしよ。着替え・・?そんな事、どうだっていいじゃないの」こう言って笑った。「ああ・・はい。それじゃ、そうしましょう・・」まだ、合点できない周。それを見て、小町が言う。「周、ここは貴方にとって、とても懐かしいとこじゃないかしら?」そう語る白衣の襟は微妙に開けられ、胸の双丘が、わざと見られ易い様仕向けられている様にも感じられた。
「そう・・ここは・・!」周は、ハッとし、我に返った。この部屋こそ、この夜から三年前の初夏、小町に童貞を献上し、その生で初めての、大人の交わりを学んだ、思い出の場所だったのだ。「まさか・・」彼は言った。「あの時と同じ事が、再びって事でしょうか?」
「ハハ、周・・」小町は続ける。「当たらずと言えども、遠からじね。今夜は、結ちゃんにも応援してもらえるから、心強いわ。これから周の、本当の修了式の始まりよ。さあ、ここへ来て!」こう言われて直ぐは、行動が伴わなかったのも事実だが、次の瞬間、周は、事態を察知して、小町の横に座り、両の腕を、彼女の前後に回す。「ああ・・好い感じだわ。さあ周、夜の挨拶しよ!」
「はい、宜しくお願いします!」まだ受験途中につき、応じない様にしたい彼だったが、やはりそこは下品男(しも・しなお)。女医と抱き合い、それが流れである様に、唇を重ねて行く。「ああ・・小町さん、や・・やっぱり素敵だ」 「周も有難う。変わらぬ想い・・だね」交わした唇は、やがて舌技を交えた、熱く激しいそれに変わる。下着の向うで、周の下方は熱を帯び、否応なく勃起する。カウパーと呼ばれる「我慢液」も、次第に滲む量を増して行く。
「ふふ・・好い感じだわ。さあ周、あたしとも挨拶ね。とても敏感そう。期待できるわ」傍らでニヤリと笑った結、小町から、周の唇を奪う。「ああ、済みません。ご挨拶遅れですね。宜しくお願いします」 「うんうん、分ってる。丁寧でなくていいわ。さあ、今夜は好い夢 見られるわよ」小町のそれと同じ熱さで、周、今度は結と唇を重ね。激しい舌技。その先端が、容赦なく周の口腔を攻める。
「うっ・・うっ・・ふ・・ふぅぅ~ん!」呻く教え子。聞いた師は「ああ、夜らしくて好い声よ。もっと、聞かせてくれる?」挑発の様な出方で、舌先で、更に口内をかき回す。「う・・うぅ~ん!ふっ・・はっ・・ああ、でもとても、好い感じっす!」トロリとした表情に変わった周、結にこう言い。見ていた小町「さあ、今度はあたしが高めてあげるね。周、まず貴方が見たいのって、これだよね」こう言って、白衣の胸をはだけ、黒いブラを見せる。「さあ、これを剝ぎとってご覧よ!」更なる挑発に。「はい、只今!」応じる周、小町の黒ブラを、ゆっくりと下方に下げ、現れた中庸の双丘に、じっと見入るのであった。
(つづく 本稿はフィクションであります)
今回の人物壁紙 高橋しょう子
久石 譲さんの今回楽曲「雨(The Rain)」下記タイトルです。
The Rain