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母娘(ははこ)御膳 第44話「階段」

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3/26の日曜、雨の朝。ここ暫くでも特によく眠れた周(あまね)には、夢を見たかどうかも分らなかった。ただ、妖艶な薄物を纏った、結(ゆい)、宙(そら)の姉妹と、熱い夜を共にした事は「正夢」と言って良かった。朝、目を覚ますと、降り続く雨音と共に、遠くで犬の咆哮が聴こえた。

「お早う!」 「お早うごさいます!」まだ昨夜の続きの薄物を纏い、ショーツも脱いだままの姉妹と、ゆっくり目の朝の挨拶を交わす。「まだ雨よ。出かけたくないわね。朝ご飯、あたしに任せて!」結が、周に声かけ。「有難うございます。じゃ、俺は風呂場の片づけでも」彼は、浴室の整理に。残った宙は、心得た様に、ベッド上など、寝室を整えにかかる。用を終えた周は、コーヒーを入れに。

スクランブル・エッグに近い、甘口の卵焼きとトースト、茹でたブロッコリーにアスパラ、バナナとヨーグルト、コーヒーで朝兼昼食と言う事に。「周、悪いわね。野菜とかが殆どないから、買い物お願いね」 「あ、そうですか。まあ好いでしょう」結と周の会話。次いで、朝のTV報道番組を見ながらの談笑が進み。彼、新聞は購読していない。主に自習の折、図書館やN市国際センターの資料室で読んでいたのである。

トレーナーの上衣のみ着、下方は薄着で戯れたりの内、午後に入り、暫くして降雨が止んだ。「じゃ、結さん、宙ちゃんも、有難うございました!」 「あたしたちこそ、ご馳走様!」トレーナー上下姿に戻った姉妹は、顔を見合せて笑った。2pm過ぎ、買い物を兼ね、周は、最寄りの地下鉄駅まで、そのまま帰宅の二人を見送った。一度居所へ戻った後、バイト先へ出勤。その日が終わった。

日付が変わり、居所へ戻ると、シャワーを経て、気になっていた下級生 豊(ゆたか)にLINEを送る。「遅くに悪い。あれからどうだった?」 「阿久比(あぐい)さん今晩は。いやいや、有難うございます。大声じゃ言えませんけど、妙(たえ)・小町の両先生から、ホント有意義なレッスンを賜りまして」 「ハハ、そりゃ良かった。随分濃い、奥のとこまで教えて下さったって事だな」

豊 「ええ・・まあそうですね。阿久比さんもご存じの、女性の方に重なっての正常位や後ろからの『バック』って言うんですか。それと、小町先生が『燕返し』って、横から高め合う姿態(ポーズ)を、初めて教えて下さったんです」 周「そうか。その体位は良かったか?」 

豊「はい、中々好い感じだったですね。妙先生も、阿久比さんもご存じの、指とか筆で悪戯する方法を、丁寧に指導して下さいました」 周「なる程。あのさ、繋がってるとことか、菊の花(つまり肛門な)の撫で方も、深く分ったろう」 「はい、そうですね。ホント、為になりました。それと、妙先生の浴衣、小町先生の白衣・・もう最高だったですよ!マジで燃えました!」 「おめでとう!そりゃ良かった」

豊「阿久比さんも、結先生と宙さんで、好いお時間でしたか?」 周「うん。まあそんなとこだな。俺んち帰って、シャワー浴びたら目隠しされて、ベッドで気がついたら、目の上で、彼女たちの素敵な臀丘(ヒップ)が、フレア・ミニと『T』を着けてさ、熱~いダンスを見せてくれたわ!」 「おー、羨ましい!それも好いですね。『火傷(やけど)』は大丈夫でしたか?」 「どもども有難う!いやいや、お蔭で心配なし。とても好い感じだった。夢が一つ、現実になったかなってとこでさ!」画面を介し、二人は笑った。 

豊「そりゃ良かった。俺も、同じ様な風でして」 周「うんうん、分る。後は・・」 「はい・・」 「小町先生の指図をよく理解して、外に漏れん様 気をつけてな」 「そのお言葉、分ります!大丈夫、抜かりなくやりますよ」 「宜しくな。お前はまだ、U18なんだからさ」 「はい。こちらこそ、ご心配有難うございます」 「さ、遅くなってもいかん。これにて。又、来月な!」 「はい、分りました。来月も、宜しくお願いします!」交信ここまで。

3月末から4月初にかけては、入学準備や、親族や関係先への挨拶などで、宙と周は、夜 会う機会が持てなかった。ただ、その様な合間を縫い、4/2の日曜午前は、周の念願だった、宙、そして結の亡父 花井 実(はない・みのる)の墓参を果たした。

亡き花井家の主人 実の墓所は、屋外ではなく、N市東部の 某寺院の屋内霊園に、仏式で葬られていた。雨の日も、落ち着いた参拝と、霊との向き合いができる。又、高僧による、永代供養も叶っていた。今から話題にすべきでないが、母 妙も、老いた末は、この墓所を目指す事となるのだろうか。宙と周は、入学式にも就活にも通用する、濃色のスーツで墓参に臨んだ。宙はパンツ・スーツに同じ濃色のパンプス、半コート、周も、ネービーと呼ばれる濃色のスーツ上下に、紐なし黒革の短靴。ネクタイも、勿論揃いの濃色とした。

「一つ、大事な挨拶ができたな」墓参を終え、周が言うと「ええ、有難うね。父も、きっと喜んでるわ」宙も、こう返した。墓参を終えると昼時。二人は、中心部の混雑を避けて、寺院近くの、宙の知る欧風の飲食店で食事の後、入学式での再会を約して、帰途に。「じゃ、式の日は宜しく」 「有難う、貴方もね」周の地下鉄下車駅で、解散。

4/4の火曜、宙と周は、遂にA大学 経済学部入学の日を迎えた。気温低めも、穏やかな晴天。周はこの朝、6:30amに起床。きっかけは、前月下旬の雨の朝、遠くで吠えていた、同じらしい犬の声だ。それは、遠くない所に住む、下級生 健(たける)の伯父 中条 新(なかじょう・しん)の居所傍らに出没する、躾の悪い「Kuso犬」の話を想起させた。「面白い・・でも、大勢のとこで話したら、放送事故だよな・・」笑いながら、彼は、そう呟いた。この日、バイト先の飲食店は、定休日である。

茹で卵やトースト、野菜の浅漬け、バナナ、ヨーグルトとコーヒーの朝食をとりながら、TV報道を見ていた 7:30am頃。不意に、玄関のインター・ホンが反応す。「ん?早いな。誰だろう?」普段なら、来訪者の全くない時間帯。周は、インター・ホンに応答せず、直に玄関へ行き、アイ・スコープで相手を見る事に決めた。覗いた先にいた人物、それは・・

「はい・・おー、宙ちゃん!」直ちにチェーン・ロックを外して招じ入れる。「お早う!」 「ああ、お早う。マジ早いな」 「ふふ・・早く目が覚めちゃってね」 「まあ上がれ。奥で聞こう」先日、彼女の亡父の墓参の時と同じ、凛とした濃色のパンツ・スーツに半コート姿なるも、微かにピンク色を帯びたブラウスが、丁度到来した、桜の時季を告げている。「そのブラウス、好いじゃないか」周が語ると「分る?今の時季に合わせたのよ」宙も、笑ってそう返し。ただ、彼女が携えていた、大き目の肩バッグが、少しく気になる周ではあった。

「貴女も飲むか?」周は、二杯目のコーヒーを、宙の分も含め、多めに入れる。「有難う」コーヒーと、茶菓子代わりのバナナを嗜みながら、暫し会話。周「式の受付が9:30amからだから、9am前に出ようと思ったんだが、少し早めようかな」と言えば、宙も「あたしは良いよ。まあ、朝のラッシュの最中だから、少しゆっくり目の方が良いのも分るけどね」と返し。

周「今日は、結構忙しいな。人数多いんで、入学式は、大宝(だいほう)の国際会議場なんだが、経済学部とかは、午後 新校舎で、オリエンテーション(新入生を、新しい環境に早く慣れさせる為の指導行事。受講学科の選択なども行われる)の初日なんだと。その間に、昼ご飯も済まさんといかんらしい」 宙「ハハ、なる程ね。まあいいわ。先週末も、入学前の説明会で、学生証の交付とかもあったしね」宙はそう言い、周に「ねえねえ、ちょっと、学生証見せてよ」 「ああ、いいよ・・」周も、入手したばかりの学生証を、宙に見せる。

その学生証、周の学籍番号は、末尾が「0235」、宙のを見ると、何と、一番違いの「0236」であった。「わっ!」驚いたのは、周の方だ。「まさかの連番!何か、あったのか?」対する宙は、落ち着いていた。「もしかすると・・だけど」 「うん、何かな?」 「学院の理事長辺りが、大学に働きかけて下さったのかもね」 「うん。それもありそう。でも・・」 「はい、何かしら?」 「それはまあ、余計な詮索をしない方がいいかもな」 「そうだね・・」 

とは言え、連番なら、学内の色んな行事で同席できる機会も多そうだ。会話が区切られると、それが当然の様に、二人は寄り添い、唇を重ねた。「続きは、夜な。今までの良かった事も、その時に・・」 「ええ、きっとよ。楽しみにしてるわ・・」

片付けも終わった8:30am過ぎ。「行くか?」 「うん!」タイのみ、明るいベージュに替え、正装の二人は、連れ立って居所を発つ。ここから、最寄の地下鉄駅までは、数分を要しない。どうしてもなら、母の愛車 アウディA6を、会社の関係者に運転してもらい、送迎を頼む事もできた訳だが、この日の宙は、周と地下鉄で式場へ向かいたかった。9am前の、港町方面への、N市営地下鉄2号線はまだかなり混み合っていたが、首都圏で見られる、恐れをなすレベルでないのも事実だった。

とりあえず、乗降扉から近くの通路に、二人は並んで立つ。半年程前、周が、宙に例の問題を仕掛けた地点の近くになると、彼女はニヤリと笑い「この辺だったね!」と、目で合図。「ああ・・まあな」周、苦笑して返す。あの日、少女に悪戯を働いた若者が、今は身体を張って、その彼女を護る立場にある。栄町からは、並んで座れた。

9am少し過ぎ、国際会議場最寄りの 大宝着。式場までは、ものの数分である。周囲には、主にスーツや濃色のジャケット、ワン・ピースなどを纏う、新入生らしい若い群像が、同じ場所を目指す。歩く道中、周は、その右腕を、宙に委ねた。「もう、悪戯はしないよ」との宣言のつもりだ。彼女も、それが分っていて、直ぐに左腕を絡めて来た。同様に、男女で歩む者たちも、結構いるみたいだ。

「宙ちゃん、お早う。おめでとう!」 「はい、お早う、貴女もね!」一浪をした事もあり、同期の顔見知りが少ない周と違って、現役で入試を突破した宙には、同期の学生も多かった。「やっぱり・・」女子にありがちな、立ち話でしばしば立ち止まり。「これだよ!」周は思う。「これを見込んで、早めに出たのさ」大きな国際会議場の中、入学式場が眼前に迫り、受付をする若者たちの行列ができ始める。その中に、次第に合流して行く、宙と周。それは、集まった大勢の者たちが、希望と不安の入り混じる階段の、一つの大きな一段(ステップ)を登ろうとする図なのだろう。

曲折を経て、恋仲となった彼たち二人の間柄も、新しい時空を経てみなければ分らない所も、それはある事だろう。だが周は「とに角、やってみよう」と心に誓っていた。それは、宙の母 妙に対する想いとの、完全な訣別でもあった。傍らの宙、こう呟く。「おめでとう、貴方とあたし。一つの終わりは、次の は・じ・ま・り・・」
(おわり 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 美咲結衣
久石 譲さんの今回楽曲「ふたたび(Riprise/Again)」下記タイトルです。
Reprise/Again

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