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南へ・・ 第6話「見参」

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「頂きます!」 「お上がり!」豊野(とよの)一家五人と、阿久比 周(あぐい・あまね)、計六人の、賑やかな昼食の席となった。長男 豊(ゆたか)の言葉通り、この時は地元の海産物、魚介の揚げ物や干物、鰯(いわし)のマリネ、海草サラダ、ひじき煮や貝汁などが、米飯と共に振る舞われた。特に貝汁の美味は、周の感銘を呼び、以後毎食、卓に上る事になる。そして、一つ引っかかるのが、揚げ物であった。

「阿久比さん」豊が言った。「これが何か、分りますか?」 「う~ん」周は一時、言葉を失い、唸ってしまった。「魚にゃ違いないけど、何か鶏に近いとこもあるな。特に『ささみ』とか・・」 豊「ああ、いいとこ行ってますね。鶏に近いかもだけど、魚で正解です。詳しくは、母から話しましょう」 「周君、それはね」後を受け、母の緑が続ける。「マンボウですよ」 「何と!」周、この日二度目の感銘だ。

周「マンボウって言うと、あの、平べったい感じの、デカい魚ですよね。そうだなあ、あれは、たまに行く水族館でしか見た事ないけど、チラッと耳にした、これを食べる地方があるらしいって話、この辺だったんですね」 緑「まあ、日本全国に何ヶ所かあるみたいだけど、貴方や豊が普段暮らす中京圏から一番近いのが、ここって事かしらね」 「でも、好い味してますね。チキンみたいな食感も好いですよ」 豊「今日のは唐揚げだから、初めての人にはお勧めかも。後は、カツみたいに揚げたり、煮たり焼いたりってメニューもあるみたいですよ」 「おお、そうか。これは好いよ」この地、北紀(ほっき)町の「普段着の海の幸」は、幸い、周の好みに近い様だ。

豊のきょうだいたちとも一通り会話、区切りの頃を見計らって、豊の父 樹(いつき)が言った。「夕方前、4pmから一時間、明朝の漁の準備をする。豊と邁(すすむ)は、遅れんように桟橋へ来る様に。周君も、来る早々悪いが、参加してくれんかな?」 聞いた周「かしこまりました。自分は船の事とか、余り分りませんが、いいんですか?」 樹「大丈夫。俺や漁師仲間が教えるから、君はその通りにすれば良い」 周「有難うございます!」 「後さ。豊に邁と俺が、明朝、飯の前に 5amから船でちょっと出漁するんだ。これ、周君にも乗ってもらうからね」 「有難うございます。望む所です!」苦手な早起きも何のその、もう一つの期待に、胸躍らせる彼であった。

父と周の会話を聞いていた豊「父さん、ちょっと話に割り込んでいい?」 樹「ああ、いいよ」これを受け「それじゃ阿久比さん、食後済みませんが、ちょっと忙しくなりそうですね。さっき、親父に確認したら、造船所の中が見られるそうです。叔父貴が幹部やってるんで、これから訪ねればOKです」 周「おお、そうか。有難う!」 豊「その後で、高台の中央病院へ行って、美波さんと面会しましょうか」 「うん、それ、いいね!」そう返事した周、忘れない内にと、豊の両親、樹と緑に、彼の両親から託された手土産を渡す。中京圏の麺類代表「きしめん」と、香料の山椒だ。「遅れましたが、こちらの親たちからです」 「おお、好いね。有難う!」これで、正式に訪問挨拶が済んだ。

食後の一息が入った 1pm、周と豊は、腹ごなしも兼ね、徒歩で眼下の造船所へ向かう。豊の父 樹から「周君は、普通免許があるんだったな。よけりゃ、ウチの軽トラ乗ってくか?」とも勧められたが、慣れぬ海辺のワインディングと、万一の事故とかを考え、それは気持ちのみ受け取って辞退した。北紀長島駅への徒歩より、やや短い10分強で、現場へ着く。

若い二人は、樹の弟 隼(はやと)を訪ね、その案内で、暫く構内を見て歩く。クレーンの釣り荷とかもあるので、当然ヘルメット着用だ。大都市圏と違って、決して広大とは行かず、建造中の中小型漁船二隻と、同じく修繕中の二隻、それに、船体から下ろして整備中のディーゼル・エンジンの様子、それに施工の後ろを支える事務方などなど。約、一時間に亘る見学であった。

「いやー、これも好いですね。船がどう手入れされるかなんて、初めて見ましたわ」周が言うと、隼「ホント、思ったより手間なんだよね。特に船の底は、貝殻とかが付き易くて、放っておくと、スピードも燃費も落ちてしまうんだ」 周「やはり大変ですね。ドック入りの時なんて、気が気じゃないのでは?」 「正にその通り!船が海から戻ると、まず底を見る訳よ」この会話を聞いていた豊「叔父さん、ご免。俺が船出す時も、その辺気をつけんといけないね」 隼「そうだよ。お前、進学希望で、この所余り乗ってないから、余計気をつけんといかん」 

それを聞いた周「叔父さん、自分、ちょっと彼と話していいですか?」 「ああ、どうぞ」隼の返事を受け「豊、お前、船乗れるのか?」 豊、笑いながら「ええ、まあね。と言いましても、5総トンまでの、ボートに毛の生えた様な小型船だけですけど。あの免許は16歳から受けられるんで、去年の夏、取ったんです。漁師を継いでも困らない様にね。船は、親父のですよ」 周「そうかぁ、お前にそんな特技があったとはな。ここにいる間に、お前の操船見られると良いな」 豊「そうですね、なるべく見てもらえる様、都合しましょう」

「お忙しいとこ、お邪魔しました!」一礼と共に造船所を辞す時、隼から「明日朝、兄者の船に乗るらしいな。まあ気をつけて!」と言われ 「はい、有難うございます!」二人はこれから、海沿いから高台の、中央病院を目指す。小半時、登り一方でちと難儀だが、まあ仕方がない。

病院へ着いたのは、2pm代も後半だった。事前に連絡をつけていたので、看護師 瀬野美波(せの・みなみ)との面会は、割合すんなりと行った。「豊君、久しぶり!」 「美波さんも、元気そうで何より!」目立つ長身と言う訳ではないが、執務のため纏(まと)めた、ストレートの黒髪、スラリとした体躯の、癖のない美貌の女。年齢は、まず二十代半ば。若い二人が、深く濃い年始に行った、花井家の姉妹中、姉の結(ゆい)とほぼ同じ位だろう。

「どうも、初めまして。阿久比です」続いて、周も挨拶。「阿久比さん、ようこそ!豊野 豊がいつもお世話になってます!」白衣にローヒールの美波、まるで実の姉の様に、彼に一礼す。周「豊、ここは懐かしいとこか?」 豊「そうですね。さっきお話した通り、小学校の終わり頃、病気で十日程ここへ入院した事がありまして。その時世話になったのが、当時まだ新人だった美波さんなんですよ」 「なるほどな。そりゃ好い思い出だわ。まあ、美波さんもお忙しそうだから、程ほどにしとくか。続きもある事だし」

豊も快く応じ「そうですね。夜もお目にかかれるし、続きが今から楽しみですわ」聞いた美波「豊君、ちょっと・・」と、彼に耳を向ける様指図。「はい、何でしょう?応じると、直ぐにヒソヒソと耳打ち。「・・ですね、その通りです」豊が返すと、周にも笑顔を向け「じゃ、続きは夜ね。豊君とこで会いましょう!」 「はい、宜しくお願いします!」

3pmを回った。医療事務をも担う美波を、今はこれ以上引っ張らない方が良い。周と豊も、明朝の船の準備が控える。「さ、それじゃ、海沿いを見て歩きながら、桟橋行きましょう」 「そうするか。良いな」病院を辞し、海沿いへと下る二人。しかしその道中も、周は、一旦の別れ際の、美波の意味ありげな笑顔が気になった。多分それは、豊も同様だろう。若者二人は想う。「今夜は、どうなる・・?」
(つづく 本稿はフィクションであります。地名共)

今回の人物壁紙 花鳥レイ
東京スカ・パラダイス・オーケストラの今回楽曲「愛があるかい?」下記タイトルです。
愛があるかい?

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