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南へ・・ 第15話「点検」

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夕方5:20pm過ぎの、JR紀勢東線 北紀長島(ほっき・ながしま)駅。熊野の有名な海岸 七里御浜から帰り、上り列車を降りた周(あまね)、豊(ゆたか)の若者二人を出迎えたのは、意外にも看護師 瀬野美波(せの・みなみ)だった。「二人、お帰り!」 「おー、これは美波さん、感謝ですぅ~!」出口で軽く一礼を経て、彼女の愛車、イエロー・カラーのスズキ・アルトに乗り込む。

「お前、前行けよ」周に促され「じゃ、お願いします」と、豊が前席に。「お願いします!」続いて周が後席に乗ったのを確かめ「じゃ、行くね」美波は、車を発進させる。豊の実家のある山手には、直ぐには行かず、一旦漁港の方角を目指す。「船の方ですね」と豊が言うと「そうそう、君の乗れる小さい方の船を、今日中にスタンバイしておいて欲しいの。明日朝、直ぐ乗れる様にね」 「かしこまりましてござる。笑」

長島駅から、ものの数分で長島漁港へ。この朝、彼たちが乗り組んだ、豊野家の漁船「第二樹洋丸」も係留中だ。明日は、この船の出漁予定がない。「さあ、着いたわ。ここで降りて」美波が言った。大小複数の漁船が休む、桟橋上だ。それに混じって、遊漁船位の小舟も、何隻か留まっている。その内の一隻が、豊野家の持つ「緑丸」だ。

「それじゃ」美波が言った。「豊は、船のエンジンとかを点検して。周さんは、あたしの持ち物を、船に積むのを応援してくれる?余り多くはないけど」 「かしこまりました。あ・・これですね」周は、美波の開けた、車のリア・ハッチの内側にあった、小さく畳まれたビニール・シートと合繊の肩バッグを取り出し、船へと移す。「これは明日、何かあるな」彼の脳裏に、ふと、そんな想いが過(よぎ)る。

周が、美波の持ち物を船に移す間に、豊は、船外機エンジンのテストや、燃料が十分かをチェック。約15分で用が済んだ。再び美波の車に乗り、豊野家の門をくぐったのが、6pm前。周٠豊「戻りました!」 緑「お帰り。熊野の海は良かったかい?」 周「ええ、お蔭様で、好い眺めでした。良い気分転換にもなりましたし」 「それは良かった。直ぐお風呂入れるからね」 「はい、有難うございます!」

周の、緑への一礼で、二人は入浴。「しかし・・」周が言う。「好い眺めって言や、あちらの方も・・なあ」 豊も応じ「はい~、海から流れた、美人さん姉妹の、ネカフェでの姿態(ポーズ)、マジ素敵だったですぅ~!」 「ハハハ、そうだな。ま、胸の双丘だけはシルエットだったのが、ちと残念・・かな」 「阿久比さん、期待し過ぎはいけません。下半身の全貌が拝めたし、それに、何と言っても、一本はヌいてもらってますからね~!笑」 「ハハハハ、それも事実だな。ま、昼間っから、好い夢見させてもらえましたっと!」二人は、声を合せて高笑いした。そこへ・・

「二人、一緒に入っていい?」浴室の出入口で、優れた女声がした。「あっ、美波さんだ!」豊、声を上げ。「どうした。何か拙い事でも?」周が訊くと、豊「いや、大丈夫です」と返して「OKです。どうぞ!」返事も終わらぬ内に、浴室の檜(ひのき)の扉が開かれ、魅惑のシルエットが現れる。紛れもない、瀬野美波の、生まれたままの姿である。

「ようこそ、俺たちのヴィーナス!」 「ふふ、有難う。君たちの憧れで、嬉しいわ」この挨拶の後、美波「ねえ、豊・・」 「はい・・」 「ちょっと、あたしの背中、流してくれる?」 「はい、喜んで!」豊はこう返し、檜の浴槽を出て、美波の希望に沿い。傍らの周「おい、豊・・」 「はい・・」 「良い心がけだな。美波さんも、日頃お疲れだろうから、しっかり癒して差し上げろ。俺はもそっと、この気持ち好い風呂を味わうわ」 「は~い、好きなだけどうぞ。のぼせない様に、そこだけはお気をつけて!」美波の背流しに入った豊が返すと、周は「有難うよ」と応じ、美波を交えた全員から、自然に笑いが起こる。その後、三人一緒に浴槽を使い、湯の中で、胸の双丘や股間への愛撫を試したのは勿論だ。「ふ・・んん。嫌らしいけど、好いわ、二人・・」美波は、低い喘ぎで応えてくれた。

檜風呂の、心地良い湯の感触を存分に味わった三人の入浴は、小半時ちょっと。7pm前から、夕食。例によって、未成年の周と豊には、儀礼的に、軽く一杯のビールのみ。大人たちに交じって杯を重ねる美波は「ご免ね二人、今夜はおつき合いなの」 「いやいや、お気になさらんとお飲みを。あっ・・て事は、今夜はここへお泊り?」 「ふふ、そうよ。良かったら、後で、いい事しようか?」聞いた二人の若者は、一瞬迷った様だ。

「美波さん・・」周が言った。「それ、食事の後の返事でいいですか?」 「勿論いいわ。何なら、今夜はお話だけでもいいのよ。まだ、明日があるからね」美波、笑いながらそう返す。「有難うございます。じゃ、美味の後で、よろしくお願いします!」二人の若者は、そう返した。

当然の事だが、この夕食の内容は、前夜とは少し違った。最初の昼餉(ひるげ)、周を驚かせたマンボウが、今度はフライ風の揚げ物で登場、鶏ささみのそれに似た、癖のない風味が、彼を魅了した。二日目と言う事で、鮪や鯛、伊勢海老の刺身や鮑の焼き物に加え、同じM県の誇りたる、和牛のシチューが振る舞われ、これも、周の心を奪った。更に・・

「周君、ちょっと見て欲しい」豊の父 樹(いつき)に促された周が、一見して驚嘆した一皿・・それは、西隣のW県産の、豚の角煮だった。デパ地下や、食品スーパーの惣菜売場でよく見るそれとは違い、日を跨ぐ、じっくり時間をかけた煮込みで、脂身が透き通って見える。こんな見事なのは、彼が生まれて以来、見た事がなかった。

周「これが、豚・・ですか?」 樹「ああ、そうだ。一度知ったら、忘れられん味じゃないか?」促されて、彼は一箸(はし)味を見る。それは、溶ける様に簡単にほぐれた。そして・・「何と・・」これも、口内で溶ける様な、奥深い香ばしい風味。「本当の美味って、こうなんだ」と彼は思った。和牛のシチューより、この味の方が上だったかも知れない。少なくとも、周の記憶には、強烈に残った。集まった一同の話題は、周の、この驚きをメインに進んだ様だった。

「有難うございます。ご馳走様でした!」想像を超えた、秀逸な肉料理、そして前日に続く、魅惑の海鮮を存分に味わった、周と豊は9pmを過ぎると、美波と目で挨拶して、離れに引き上げる。翌日は、漁の用事がない為、朝はゆっくり目で良い様だ。「さあ豊・・」周が言った。「はい、聞きましょう」豊が返すと「夕方の船の準備、あれ、明日どこかへ行く為・・だよな」 「まあ、そんなとこでしょう。で、明日は多分、俺の操船を見てもらえると思いますよ」 「そうか、そりゃ楽しみだ。まあ、無理はせん様にな」 「はい、ご心配有難うございます。そこは、万全で行きますよ」 と、言う所で、周のスマート・ホンにLINE着信。京都にいる宙(そら)からだ。

周、LINEで返す。「送信感謝。京都は、好い感じかね?」 宙「今晩は。うん、有難う。とても好い感じで、あちこち回ったよ。今度は、仲間内だけだから、余り気を遣う事もなくて、好いわ。周さんの方は?」 「ああ、ご心配なく。豊の故郷(ふるさと)だからさ。土地の事は良く知ってて、お蔭で退屈する暇なしってとこだな。ああ、ここは、海の幸が美味い。伊勢海老の刺身と、鮑の焼き物、それに、マンボウの揚げ物は、是非貴女と味わいたいな」 「ええっ?マンボウって、食べられるの?」 「そうだよ。俺は今朝、豊んちの船に乗せてもらったから、その時に詳しい事を聞いたんだ。昨日の昼食にも、出して下さってな」 「まあ、よかったじゃない。で、どんな味なの?」

周「ちょっとね、鶏(チキン)のささみに近い感じ・・かな。唐揚げとフライだったけど、どちらも好い味してた」 宙「そうかぁ~、あたしも、又行く楽しみができた様なだわ。さて、周さん」 「はい、何だろう?」 「気になる事を訊くわよ。豊君が、小さかった頃お世話になった、看護師の美波さんとは会ったの?」 「ああ、一度はお会いしたな。あ、勿論、挨拶程度だけどね」 「本当にそうか?」LINEでやり取りする、宙の脳裏に、そんな疑問符が灯った。
(つづく 本稿はフィクションであります。次回は7/22土曜以降に掲載予定です)

今回の人物壁紙 朝比奈あかり
東京スカ・パラダイス・オーケストラの今回楽曲「世界地図」下記タイトルです。
世界地図

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