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交感旅情 第8話「早暁」

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新潟へ向け、夜行高速バスの行程もほぼ半分に達した。2am少し過ぎ、先程まで、階下のトイレにて「あの行為」に耽っていた宙(そら)と周(あまね)は、それぞれの席に戻って、熱い余韻に浸っていた。「ああ、熱かった。でも、スリリングで素敵だった・・」若い二人に、共通の想いだったかも知れない。射出された、周の男精を分かち合っての口づけが叶わなかった事が、宙には少し不満が残る様な。

「まあ、仕方ないわね・・」そう呟き、座席(シート)下の前方にある、カップ・ホルダーに干したショーツを再び着ける前に、立膝で席に着いた宙は、左中指で、まだ周の男精が僅かに残る、己の秘溝をそっとなぞり、口へと運ぶ。「ふふ・・ほんのちょっとだけど、美味しいわ・・」薄笑いを浮かべ、続ける。「さあ、そろそろ素敵な景色の見える所だわ・・」後席にいた若い女客が一人、空いたトイレへと向かう。

左隣に座る、初美が目を覚ました。「宙ちゃん、起きてる?」 「ええ、さっきからちょっとね・・」宙は、そう返す。「まあ、中々上手くは眠れないわね・・」ボヤく様に続ける初美だったが、その一方で「嘘つけ!」との想いもありはした。実は彼女は、若い二人が席を立ち、静々とトイレへ向かった頃から目を覚まし、小一時間に亘る行為の間中、眠ったふりをしていたのだ。その間、何があったか位は、三十路に入った初美には、全て見通せた。勿論この時は「思っていても」彼たちを追及する事はなかったのだが。トイレへと向かう階段を、休憩を終えた交代運転手が上り、前方へと向かう。

2:10am、二台のバスは、G県の県都を見下ろす、某S.Aで、ちょっとの間の運転停車。後半の行程を担う、交代運転手が一旦車外に降り、バス車体の周囲や、タイヤの状態などを目視確認。前半の行程を終えた当番運転手と交代して運転席へ。再びの発車まで、計器類や自動車電話などを点検し、異常なしを確かめる。離席した当番運転手は、客席の状況を一通り確認の後「こちら異常なし。じゃ、次の休憩まで、宜しくです」一声かけ、休憩入り。「了解です。お疲れ様!」乗降扉が閉まり、約十分で、再び出発。

「本線に合流して、直ぐの所らしいわ」自席を立ち、宙の傍らに寄り添う初美が言った。「そうですね、何とか夜景が取れるといいわ」宙はそう返し、持参のコンパクト・デジカメを、開かない側窓に押し付ける様にして、絶景の出現を待つ。初美は、宙の上体を固める様に支える。少しでも手ブレが抑えられる様に。暫くして・・

進行方向右下に広がり出した夜景は、中条が言った通りの見事なものだった。当の本人、そして周は夢の中の様だが。それは、満天の星空を、そのまま逆さにした様な、ワイドで幻想的な光景だ。「やっぱり・・」撮影した女二人は呟く。「嘘じゃなかった。これが見られたのは、大きな収穫よね」絶景は、僅か数分間の事ではあったが。

行程後半、四人はまずよく眠れた様だ。4am過ぎに、上越地区、日本海沿いの「米山(よねやま)」と言う所のS.Aで休憩をしたはずだが、一人も気がつかなかった様だ。後で休憩に入った当番運転手も既に戻り、もうJR新潟駅まで途中休憩がない事を確かめた初美は、トイレへと向かう。

5amを過ぎると、辺りは徐々に明るくなって来る。追越車線を、サイド・カーを伴った、大型バイクがパスして行く。米国の名車 ハーレイ・ダビッドソンらしい。「お早うございます!」気付いた周、前席の中条に挨拶。「ああ、お早う。聴いてたか?ハーレイは、好い音しとるなあ」 「・・ですね。自分は大型バイクにゃ乗れなかったけど、あのライダー心理は、分る気がしますね」周は、こう返した。

中条は応じ「ほう、自動二輪免許は取らなかったのか?」 周「ホントは憧れたんですが、ご想像の様に、親たちの反対に遭いまして。転倒の恐怖が頭にあったんでしょう。結局、実家の仕事にも使える普免になった訳でして・・」 「ああ、そう言うのよく聞くなぁ。俺と同じだ。 まあ『音』聴くだけでも面白いけどな」 「まあ、それもありですね・・」 「ところで・・」 「はい・・」

中条は、窓際の方から後ろの周の方を向き、続ける。「俺たちが学生だった頃、悪い冗談を言い合ってた事があってさ。あんな好い音してるんだから、きっと、乗ってる奴は、シートにバイブを仕掛けて、気持ち良く乗ってるんじゃね?って言う・・」 「ハハ、事実なら『変態』ですね」 「まあ、そうなるだろうな。大声じゃ言えんが、乗ってる方も、そんな目で見られても、一定は仕方ねぇんじゃ・・って思うんだが」 「う~ん、微妙なとこですね。でも、深夜帯はやめとけって、自分も言いたいですが・・」 「・・でよ。その冗談は『バイブ・バイク』て言った訳よ!」 「ハハ・・『バイブ・バイク』ですか。上手い表現してますね。・・で、もし交通違反とかやったら、スピードの反則以外で挙げられるんですね?」

「ふふ・・」笑いを噛み殺しながら、中条は返す。「その通りやよ。ホンダの大型白バイに追っかけられて、捕えてみれば『シートにバイブ』と来たもんだ!交機隊も唖然だぜ。『貴方、一体何入れて走っとるんですか?』てな。女は収まるべき定位置、男の場合は『菊門』な。本人はいい気持ちだろうけど、事実なら、こりゃ検証と取り調べが厄介だぜ!」 「ハハハハ。いや~、ちょっとグロっぽくなって来たから、これ以上はやめましょう。あ、初美先生のお戻りだ!」 「よしっ、分った。聞いてくれて有難よ!」階下から戻った初美は、この下劣な会話が一部聞こえたらしく、着席の時、中条の方を、怪訝そうに一瞥した。

北陸道を降り、5:30amを回ると、もう真昼と変わらない位の明るさだ。まだ早朝の新潟市内は、中庸の交通量。市街地も順調に流し、予定通りの5:40am、二台のバスは、整然と JR新潟駅前の乗降場に着いた。

「有難うこざいました!」 「お二人も、お疲れ様でした!」乗換時間は十分にあり、急ぐ必要はない。床下トランクに預けていた手荷物を戻すと、四人はひとまず駅構内へ。中条が、二日用の新潟周辺のフリー切符を入手し、各自で保管を指示。「とりあえず、左手のファミレスが 6amからオープンだ。そこで落ち着いてから、今日の予定を説明するからな」 「了解しました。宜しくです」

ひとまず改札を通って、待合室で時間調整を。宙と周は、早速、スマート・ホン画面を。LINEのメッセージなどがないかをチェックする為だ。必要な返信などで、そうこうする内、6amが近づく。前述のファミレスへ向け、移動する四人。店内に落ち着くと、思い思いに朝食メニューを決めて注文、フリーのドリンクバーから好みの飲料を持ち寄って、中条の説明を聞く。

彼は言った。「朝の内、少し時間があるから、信濃川沿いの公園辺りを歩いてみるかな。山間へ向かうのは 8am過ぎの快速な。それで『咲花』てとこの、今夜の宿に寄って荷物を預ける。着いて一時間位で、次の各停が来るから、それに乗って、福島との県境を目指すんだ。上手くすれば、まだ桜が見られるかもな」 「わ、桜ですか。楽しみだわ~!」宙が、驚いた様に反応。「うんうん。まだお花があったら、ゆっくり観たいね」初美も合せる。「そうだな。割合ゆっくりできると思うよ。その間に、俺と周君は、蒸機の列車撮影だ」 「分りました。抜かりなく撮りたいですね」周も、笑って返した。

料理も出揃い、半分位進行した 6:30am少し前だろうか。周のスマート・ホンにLINE着信。前夜既に新潟入りしていた、木下由香(きのした・ゆか)からだ。「周君、お早う!」 「お早うございます。お蔭様で、無事新潟入りしましたよ!」 「そうか。良かった!今、朝ご飯かしら?」 「そうです。これから、駅近くをざっと見してから、今夜の宿に、一旦寄る事になりまして」 「あたしたちも、今朝を食べてる所よ。奥へは JRで行くの?」 「そうですね。これから JR磐越西線でって事になりそうです」 「分った。あたしたちは車だから、奥で会える様にしたいね」 「・・ですね。降りる場所が決まったら、又お知らせしますよ」 「了解、お願いね!」何となく、面白い日になりそうだ。
(つづく 本稿はフィクションであります。次回は 9/19 火曜以降に掲載予定です)

今回の人物壁紙 吉崎直緒
葉加瀬太郎さんの今回楽曲「Morning Show」下記タイトルです。
Morning Show

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