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交感旅情 第14話「西下」

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「シーッ!続きは車内で・・な!」 「はい、了解です!」持ち帰りと発送、両方の買い物を終えた、周(あまね)と中条は、女たちの知らせに応じ、道の駅の商業施設を後に。ここから、JR磐越西線・野沢駅までは、徒歩でも10分余りで到達できるが「まだ時間に余裕があるから、見送りますわ」との、由香、由紀姉妹の好意に甘え、車で送ってもらう事にした。時に、3pm過ぎ。

JR野沢駅も、上野尻同様の業務委託駅。同様に日中のみ詰める、既婚女性の駅員から、姉妹の入場券二枚を買い、構内へ。帰りの下り列車と行き違う、この駅が始発の上り列車が、既に奥のプラット・フォーム 3番に待機中だ。「まあ、これも経済協力だよ。駅の方は、無料で良いと言われたが、そうは行かねぇ」入場券を渡しながら、中条が言う。「・・ですよね」 「やっぱり、きちんとしないと・・」姉妹はこう応じた。

3:20pm、旧国鉄のディーゼル気動車 二両編成の下り便が、ほぼ定時でやって来た。「おー、懐かしの国鉄型!」到着シーンを撮影すべく、プラット・フォームの端で一眼デジカメを構えていた中条、こう呟く。「往きに乗った、対向にいる 110型より、何かこう、暖かい雰囲気ですね」周も応じた。かつては全国で活躍も、先年から、一部地域での引退が始まった、40代と呼ばれる、旧世代型の車両である。四人用のボックス席は、結構空席があり、中条たちは、トイレのある二両目に陣取った。

「じゃ、伯父様、ひとまずご馳走様でした!」 「あ、いや、とんでもねぇ!鹿瀬(かのせ)じゃ頑張れよ!間に合えば、又咲花(さきはな)でな。LINEで知らせ合おうや!」軽い会釈と共に、列車は野沢を後に。ここから暫くは、広がる田園と点在する集落が続く、長閑(のどか)な車窓。

隣の上野尻を出、昼間 花見と撮影をした公園脇を経て少し行くと、急峻な渓谷に差し掛かる。福島・新潟の県境辺りの名勝「銚子之口」である。これを境に、線路は深い山間に分け入って行く。カーヴは厳しくも、勾配は、意外に緩いアップ・ダウンだ。旧世代の 40代車は、エンジン性能が低め(アンダー)で、高速域は好調だが、やはり加速の鋭さには欠ける様だ。しかし足回りは空気ばね採用のエアサスで、心配された、不快な揺れとは無縁の様だ。

初美と宙(そら)は、昼の食事や道の駅商業施設の事、それに普段馴染みのない、山河に寄り添う車窓風景などの話題で、さほど退屈した様子ではなさそうだ。出発から小半時、山間に付きものの、トンネルへの出入りが多くなった所で、中条は、周を促して、トイレ脇のボックス空席に移る。

「さて・・周君」缶コーヒーを勧めながら、中条は切り出した。周「はい・・」 「ちょっと、先月の、君と美人姉妹さんの出会いが気になってさ。嫌ならいいんだが、もしできるなら、その辺りの話が聞きてぇんだが、どうかな?」 「いや、いいですよ。できるだけ詳しく、お話しする様にしますわ」周は応じ、続けた。

「豊(ゆたか)の親許に世話になって、二日目だったと思います。未明の内に起きて、少し沖の定置網漁の応援をして、朝風呂と食事を済ませ、JR紀勢東線で向かいました。早めの昼食の後、二人で有名な七里御浜の海岸へ行ったんです。景観の面白い、鬼ヶ城を見られる所まで見て、海岸に戻った所で、やはり食後の、木下さん姉妹と遭って、少しの写真撮りを頼まれた。それがきっかけです」

中条「なるほどな。ああ言う所で、女性たちからシャッターを頼まれる事って、よくあるよな。それで何、近くへお茶しに行ったとか?」 周「はい。それで、彼女たちは、少し南の山間にある、川湯温泉に泊まってたんですが、七里御浜からの帰り道に自信がなかった様で、あの辺の事を割合知ってる豊と、落ち着ける場所で案内しようって事になって、あの女性(ひと)たちの車に相乗りして、少し南方に新しくオープンした、ネカフェに向かったんです」

中条「ネカフェか、そうか・・。最近じゃ、結構な地方都市にもあるもんな。そこで何、18禁も含めたネット・サーフィンやってる内に『期待の出来事』があったって寸法かい?」 周「はい・・まあ、そんなとこですね。ですが・・」 「うん、ですが・・何かな?」 「ご存じの様に、豊はまだ U18なんですよ。ですから・・」 「ですから・・か。続けてくれ」 「はい、当然の事ですが、行く所まで行くのは拙いです。特に、木下さん姉妹は、まだ初対面ですからね。そこで、お互いの核心見せ合って、手指と口で高め合おうって事になりまして。つまり『手マン』とか『指マン』て奴ですね。まあ、フェラとかクンニも少しはありましたが(苦笑)」

「ハハ、上手い安全策だな。そうだよなぁ、のっけから食っちまうのも、ちと危険な感じだし・・」と、中条は反応す。「有難うございます。分って下さり、マジで嬉しいです」 「うんうん。その時のその対処は正しかった。認めるわ。しかしだぞ、周君!」 「はい・・」

誉め称えた周の表情が、さほど曇らなかったのを確かめて、中条は続ける。「今夜からは、木下『美人』姉妹と、君との間柄は、もう初対面じゃねぇんだ。恋人の宙ちゃんとの事は、それは考えにゃいかんが、もしかしてあの姉妹、君との言わば『途中まで』になってる、あの方の間柄を進めよう・・なんて意図はねぇのだろうか?」 「ああ、それか・・」些か鈍感な周も、流石(さすが)に気付いた様だった。

彼は続ける。「そうですね。その可能性は、自分も考えるべきって感じますね。特に、今度は夜ですし・・」 「まあそうだ。由香ちゃん、由紀ちゃんと、どんな間柄になるかは、君自身の『大人の事情』もあるから、まあ考える事な。しかーし!」 「はい、伺います」 「昼間も言ったが、着衣越しと言ったって、あの胸やお尻の線は、是非一度味わいてぇって想いがあるのも事実だよな。君もそんな事、言ってたろ?」 「はい、確かにね。これ、どうなんでしょう。例えば、既婚の人なら奥さんとか、自分みたいに『彼女』がいる身でも、是非一度って思うもんでしょうか?」

「多分だが・・」中条は答える。「その想いは、大抵の男が抱くと思うよ。ただ問題は、たった一度だけで終わらせられるかどうかだが・・『彼女』なら、俺にもいるしな (苦笑)」 「ハハ、やっぱりそこが大きなポイントみたいですね。ホント、言われてみると、大冒険みたいな気がします」 「そうそう、大冒険って言葉、かなり当たってるぞ。まあ、今夜は締まって行った方が良いかもだ」 「ただ、又酒気(アルコール)が入りますよね。実際、どうなるのかなぁ?」 「そう悩まずに、楽観視してても良いんじゃね?・・とも思うけどな。何せ、開けてみんと分らんとこもあるし」

周「・・ですよね。余り悩まないって事で。所で、これは出番がありそうですか?」と言って、自身のリュックから取り出したのは、割箸を使ったくじ番号だった。中条の目論む「王様ゲーム」の時に使う予定の道具(ツール)だ。王様のそれは、細密画に少し覚えのある周が巧みに描いた、スポーツ・アニメ「キン肉マン」の一キャラ、キン肉大王の顔である。

中条「ハハ、こんな所によく上手く描いたな。有難う。おお、額の『王』マークも、バッチリじゃんか!」 周「有難うございます。彼女たちを、ちと驚かそうかな、なんて思いまして」 「うんうん、上手く行くと思うよ。いやー、今夜の宿が面白くなって来たな!」 「そうですね~」所へ、初美との会話を区切った宙がやって来た。

彼女は言った。「まあまあ、男同士で随分盛り上がってたわね。ちと気持ち悪いわ。何だったの?」 対する周「いやー、ご免ご免。今まで伯父さんと、今夜の宿での出し物の話をしてた訳よ」 宙「ふーん、そっか。・・で、今、周さんのとこにある、番号振った割箸が使われるって訳かぁ?」 「うんうん。まあそう思っててくれ」そうこうする内、下車駅が近づく。「間もなく、咲花、咲花に着きます。お降りのお客様は、お忘れ物ございませぬ様、お支度をお願い致します」車内放送が流れ、中条たち四人は、示し合せて準備。山間が少し開けた4:30pm過ぎ、一時間余りの道中が終わった。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の壁紙 JR磐越西線 徳沢~上野尻間 福島県西会津町 2017=H29,4 撮影 筆者
葉加瀬太郎さんの今回楽曲「ワイルド・スタリオンズ(Wild Stallions)」下記タイトルです。
Wild Stallions

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