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交感旅情 第34話「餐席」

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復路の、蒸機の列車が順調に走ったお蔭もあって、中条たち四人の宿入りは、予定通りの 7:10pm過ぎだった。先着の由香、由紀に姉妹には、近づく話し声と、荷物を揚げて来る音で 何となくそれと分かったが、中条が、自室に内線連絡をくれたので、確認ができた。「俺たちは、荷物の整理がつき次第、下に降りる。良ければ、先にロビーに降りていてくれ」彼の促しに、姉妹は「分りました。それじゃ、下で・・」と返し、又 衣服を上シャツにジーンズ、スニーカーとかの平装に戻し、部屋を施錠し、階下へ。

10分程後「お待たせっ!」 「お疲れ様でした!」広めのロビーにて、六人全員が合流。色合いこそ違え、皆、姉妹と似た風の、普段着に履物だ。夕食場所の和食処「N,K亭」は、徒歩で数分も要しない、至近にある。「いらっしゃいませ、今晩は!」若い、元気な挨拶複数に迎えられ、幹事役の中条が、予約の旨を告げ、少し奥の、六人用個室に通される。堀炬燵(ほりごたつ)の様な造作で、日本情緒を残しながら、テーブル席に近い 脚部の寛ぎが得られる、秀逸な造りだ。

前夜と、品書きは大きく違わない。中条以下 飲酒できる四人は、生ビールの出だし、彼と周(あまね)は、銘酒「麒麟山(きりんざん)」を冷(ひや)で、初美と由香は、この後の予定も考え、カシス・ソーダでやめておく事に。因みに彼女たち、男二人に「今夜のお酒も、程ほどにね!」と釘を刺す。飲酒不可の、宙(そら)と由紀は、初めはペリエ、次は烏龍茶であった。

料理の方は、もう和食の定番でもある、海老、帆立などから一品選べる突出しに続き、烏賊(いか)を含む 造りが数種と、ノドグロの焼き物、鮑のグリル、郷土料理「のっぺ」、もずくと海草サラダ・・などなど。終盤向けに、炊き込み五目飯やお茶漬けなどのメニューも選べる。

「周君、ほれ・・」中条が、隣席の若者に、この日お勧めの品書きを差し出す。「これ、欲しかろう・・」と促すと、周は「いや~、見られてますね~。嘘はつけないなぁ~」観念した様に返し。「・・で、勿論、注文だよな」男が続けると「はい・・ですね」と応じ。それは、昨日も餐席に現れた、村上和牛の極上石焼サーロイン霜降りであった。

「よしよし、決まり!」中条、こう言って笑う。次いで女たち向けに「俺たちはさあ、和牛の部位違いが三つある、この『食べ比べ』を試そうじゃんか。二人一皿で、どうだ?」 「好い選択(チョイス)ですねぇ!賛成です!」 「ウチらも!」宙と木下姉妹から、直ちに賛同の声上がる。初美も、笑顔で頷き返した。かくして、石焼き和牛の四点が追加された。

飲み物が行き渡り、乾杯。突出しやもずく、枝豆などが真っ先に現れ、食事を始めながら、中条は姉妹に訊く。「ここまでは、順調に着けたかい?」 姉の由香「ええ、ご案内有難うございます。尾登(おのぼり)も、日出谷(ひでや)も素敵やったし、お蔭で、そう迷わずに来れました。山間の、磐越道の津川 I.Cまでが、初めてなのでちょっと不安やったけど、後はスイスイ!今は、カーナビの機能も進んでいますからね」と返す。

中条が続ける。「成る程な。津川から新潟東まで磐越道か。正解だ!誉めて進ぜる!」 由香「ああ、有難うございます!伯父様も、お昼ご飯からお茶の間で、給油されたの 見事なタイミングでしたね!」 「有難よ。あれ、ボツボツかなって、漠然と思っただけだったんだが。ただね・・」 「はい・・」 「今日みてぇな山間の行程じゃ、ちょっと街中に出た折には、必ず給油しとく様、心がけんとって、改めて思ったな」

聞いた由香「ああ、それ大事ですよね。変に大丈夫と思って、そのまま山間へ行ったら、途中でガス欠して大変・・て事もありそうですから」更に、傍らで聞いていた由紀も「ホンマ、それ大変や!熊とか猪のいるとこでそうなったら、マジで危ないかも・・」今度は中条が「由紀ちゃん。好~いとこ見てるなあ!マジでその通りやよ。アイツらがエンコしてるとこに出て来たら・・だな。マジで命までヤバくなるぞ!」 「・・ですよねぇ」 「そうそう。今日のその事は、デカい学習だ。よく覚えとこうな!」 「はい、分りました!」これには、全員同意して頷いた。

少し遅れて登場の 村上和牛は、周向けのサーロイン以外は、肩ロース、バラ、モモの三種類。三皿中、脂身の少ないモモと肩ロースは、女たちの所へ行き、中条が食し得たのは、結局 バラ肉ばかり。「まあええわ。これ、最初じゃねぇし、今度一回限りって娘(コ)もいるだろうから、好きにすりゃ良いんだ」その辺は、快く許し。すると、サーロインを大事に嗜んでいた周が「伯父さん、一個だけ交換したいですねぇ」と申し出。これは嬉しかった。「ああ、良いよ。どうぞ!」中条、期せずして、一口ながら、極上の霜降りを味わえた。

それにしても、銘酒「麒麟山」は海鮮のみならず、和牛とかの肉料理とも、良く合った。中条は、初美と由香にも一杯だけ勧めたが、反応は上々。「うんうん、凄く美味しいわ!」とりあえず 4合のつもりが、更に進みそうなのが怖い位だった。が、そこは締め上手な初美。少し残った酒瓶を取り上げて、こう言った。「新さん、周君も、これ以上はダメよ!」 「了解。これ以上は飲みやせん!」何故か?その理由は、男たちにも分っていた。

一時間程の夕餉。さて、ご飯ものどうする?の刻に至って、女たちは、誰からともなく「お寿司がいいわねぇ」と言い出し。中条も、察知していたらしく「寿司か、いいね。俺たちも便乗するか」と言う事で、初美の好物、烏賊と蛸のネタを少し多めにしてもらい、おまかせ握りで落ち着く。最後の、果物と柚子シャーベット、日本茶に至った所で、中条は、周を促す。「じゃあ、例の事やろうか」 「はい。・・ですね」

彼はそう返し「王様ゲーム」の時使う様な、番号と『キン肉大王』の肖像入り、割箸を使ったくじを用意する。そして「王様誰だ?」の一声で、抽選開始。最初に引いた由香、全員に一人ずつ、「この旅で一番良かった所は?」の問いをして回る。答えは、宙が、前夜の宿の部屋、由紀が「伯父様たち、ご免なさいね」と前置きの上、金曜日の初日夕方、中条たちと合流の前に、姉妹だけで覗いた、新潟中心部の商業エリア、初美が、この日朝乗った、阿賀野川の川船、周が、同日の午後乗った、蒸機の列車、そして中条は、前夜とこの夜に出た、極上日本酒を嗜んだ場所であった。「皆さん、有難うござます!」由香は、こう区切った。

次いで、初美が『大王』を引く。彼女の問いは「一番、気持ちの良かった事を教えて」てあった。「えっ?」宙と由香、由紀の姉妹は、一瞬戸惑った様だった。「初美先生、それは・・」控えめに、宙が訊く。「はい、何かしら?」彼女が返すと「特に夕べ、寝る前の絶頂とかも、話さないとダメですか?」それを聞いた初美は、思わず失笑。そして「バカねぇ!他のお客様にも聞こえるとこで、誰も、そんな事を話せなんて言ってないわよ。あくまでも、旅する途中の事よ」と、笑いながら続ける。宙「ああ、良かった。それじゃ、お答えします。やはり、夕べのお宿の、貸切の、水入らずのお風呂がとても良かったです」その答え、全員笑顔で迎えるも、男二人は「それに、彼女たちの、魅惑の裸体も拝めたしな・・」と、心底ではニヤリとしたのも、事実だった。 

初美「有難う。由香ちゃんは?」 由香「はい、あたしは、R49や磐越道、山間の県道とか、とに角快適なドライヴができたのが、とても心地良いですね。あっ、勿論、お湯もお宿も素敵でしたし、お食事も、とても良かったです」と、付け加えた。「次に、由紀ちゃんかな?」 由紀「はい、初めての土地だったですけど、出会う方たちが、皆魅力的ないい方ばかりでした。鉄道ファンの人たちも、評判が良くないとこもあるらしいけど、昨日と今日会った方たちは、皆良くして下さって、快かったです」 「ああ、それ、いいわねぇ。運が悪いと、変な人たちに当たって気が滅入るってのもあるみたいよ」 「そうですか。じゃ、あたしたち、運も良かったんですね。感謝です」 「うんうん、そう言う様に思えば、次も、きっといい感じよ」

その後の周は、由香の質問に続き、昨日と今日の、蒸機列車の写真撮影と、復路の乗車、中条も、宿、そして列車内の酒気と、道の駅各所での買い物ができた事などを挙げた。ゲームも一巡した 9pm少し前、店の者に会計を願い、そろそろ引き揚げようとしたその時、急に、木下姉妹の妹 由紀が、中条にそっと寄って来た。「伯父様、ちょっと・・」 「うん、何かな?」彼が返すと「ちょっと、お耳に入れたい事があるの」 「今から会計だ。行きながら、聞こうか」 「はい・・」会計台に向かう為、彼と由紀は、続いて席を立った。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の壁紙 JR磐越西線 馬下(まおろし)駅西詰 新潟県あがの市 2010=H22,4 撮影 筆者
「海鮮家 葱ぼうず」(物語中「N,K亭」のモデル)紹介サイト、下記タイトルです。
海鮮家 葱ぼうず

葉加瀬太郎さんの今回楽曲「コリン・ヴァイオレット(Collines Viollets、クレモンティーヌ[Clementine]さんとの共演)」下記タイトルです。
Coline Viollets


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