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パノラマカーと変な犬 第5話「露見」

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6月半ばの土曜日、先日の追突事故後 一旦大坂へと帰った、木下姉妹を見送った周(あまね)と中条は、彼の居所近くの 馴染みの喫茶店に立ち寄り、暫し談笑。この後 それぞれ交際中の 初美、そして宙(そら)と会う予定なので、夕方前には解散と言う事で、とりとめもない話をしていたのだ。

中条は言った。「そうか、この後 宙姫と会うのやな。まあ、今日一日か 明日までかは訊かんが、一つ宜しく言っといてくれよ」 「分りました。多分、日を跨ぐ様な気もかするんですが、よく伝えておきます。それでですね・・」 「うん、何かな?」 「初美先生のご都合もあるでしょうけど、夜 深い展開になったら、合間に LINEでやり取りするってのはどうでしょう?」 「ハハ・・面白い事を言うなぁ。まあ、良いだろう。そういう展開になれば・・な」 「はい、こちらからもお伝えしますから」 「分った。心づもりしとくよ」その後、暫くは 地元のチュウキョウ・ドームで行われる、プロ野球セントラル、パシフィック両リーグ交流戦の話題などして、一時間程で別れた。

中条が、居所へ戻ったのが 3pm過ぎ。掃除などの雑用をこなす為 ラジオを入れた所、丁度 件の試合が進行中。地元セ・リーグ NCドラゴンズは、首都圏郊外のパ・リーグ SSライオンズとの一戦だ。前日は惜敗したが、この日は優勢な様だ。掃除の準備で、雑物を少し片付けた所で、インター・ホンが反応。応答して玄関へ。初美がやって来たのだ。

「ああ、これはこれは、ご苦労様!」 「新さん、暫く。今 何してた?」 「ああ、貴女が来ても恥ずかしくない様に、掃除でもと思ってな。でも、まあいいや。とりあえず一服してくれ。コーヒーでも入れるわ」淡色の上シャツに、先の旅行で 宙が着ていた様な、ジーンズのゆったり目スカートを纏い、紐なしのカジュアル靴と言う出で立ちだ。

「さっきまで、周君とお茶してたんだよ」中条は、又もコーヒーを嗜む破目になった。「ああ、そう・・惜しいわね。もう少し早く片付けば、あたしも、彼と話がしたかったけど、仕方ないわね」初美、こう返す。そして「事故の方は、ご苦労様でした。ほぼ、片付いたのかしら?」 中条「有難うよ、心配かけた。警察の方も、事故証明が下りたし、示談も進んで 後は車の修理が上がるのを待つだけだ」 初美「あらまあ、治せるんだ。聞いた所じゃ、貴方の車は、治るか廃車か、ギリギリのとこみたいだったけど・・」

「その事だが・・」女にコーヒーを勧めながら、男は続けた。「今日、由香ちゃんたちを見送って、周君と喋ってる合間に 工場に聞いたんだが、俺の車は、リアドアとバンパーが、どちらも中古部品が確保できるんだと。リア車体(ボディー)もボコられはしたが、鈑金で治せるって話でさ。実費だと 70万円位だって話だが、これ、由香ちゃんの方の保険から出るから、俺の方は一切出費なしだよ」笑いながら言った。

初美「そうかぁ。そりゃ良かった。新さん、折角だから、この夏の車検 通そうよ。そうすれば、後二年は乗れるし、浮いたお金は、あたしたちのこれからの足しにできるしさ」と言い。聞いた男も「ああ、言うと思った。実際に、どの位回せるかは分らんが、新車に替えるの延期すりゃ、それなりの額にはなるな」 「うんうん。それ、大きいかもよ。所で・・」 「うん、何かいな?」 

初美は続ける。「由香ちゃんたちの車は、どうなるの?高そうな輸入車らしいけど・・」 中条「ご心配なく。彼女たちの愛車も、ちゃんと治る。ただ、前方のボコりが大きいのと、エンジン関連の部材が一部イッちゃったから、その交換をせんとってとこらしいが。実費だと、俺の車の倍近いらしいから、しめて大体 200万円ってとこかな」と返した。

初美「そうかぁ、ほぼ、小型の新車一台分ね。でもホント、誰も怪我しなかったのが、不幸中の幸いだわ」 中条「そうだよ。そう思わんといかん。今日 見送る時もさ、彼女たちにそう言ってやったんだ。『よくある事だからって受け止めも必要』てな。でもそれ『物損』だから言えるんだよな」 「そうよね。もしも『人身』まで行ってたら、こんなに落ち着いてなんかいられないって・・」暫くは、事故処理の話が続いた。

中条「そんなこんなで、今日 一旦帰したんだが、実は彼女たち、この夏休みに予定の 交流行事の下見で来てたんだってさ」 初美「なる程。それで、車で来てたのは、親御さんには内緒だったって事?」 「まあ、それっぽいな。さっきも、帰りの列車が出る間際、必ず言っとく様に 諭しはしたけどな」 「まあ、少し位叱られるのは、仕方がないわね。黙っといて、状況が悪くなるよりは良いわ」 「そう言う事。それで・・」 「はい・・」 「俺も、もしかすると、貴女から叱られるかもだが」 「いいわ。聞きましょう」

「有難う。それじゃ・・」男は続ける。「実はさ・・由香ちゃんから、夏休みの行事まで 一ヵ月半位、彼女の私物を預かる様頼まれたんだ。ホントは良かねぇのは分るんだが。勿論、貴重品以外って事で応じたって訳」 聞いた初美「ああ、貴方のPCとかや、クローゼットのある部屋の、スポーツ・バッグでしょ。それは良いけど、預かる以上は、一度位 中身を見ておいた方が良いんじゃなくって?」

「う~ん、そう来たか・・」中条は、こう呟いた。「でも、衣類とかだったらさ、バレて彼女たちが不愉快になる・・なんて事は?」と訊くと、初美は「それは大丈夫よ。あたしは、バッグの中身がどんな風に入ってたかを把握するの 自信あるから、きちんと戻しとば、バレやしないわ」 「分った!そう言う事なら・・」中条は、初美が由香のスポーツ・バッグの中身を改める事を、許可した。

これを受け、彼女は、件のバッグのファスナーを慎重に開け、一部は ネット袋に整理された中身を 順に取り出し見て行く。薄々予想はしていたのだが、中身は、いかにも中条の喜びそうな、チア・ダンス用 或いはアニメーション・キャラ的なフレア・ミニコスが複数、これも何点かあるストッキングは、多くが二ーハイの様だ。後、ブラとショーツが同数位。後者の多くが、露出の大きい『T』らしい。ヘアバンドも少し。これらを目の当たりにした初美は、思わず「ふふ・・」と低く笑った。

「新さん・・」彼女は、中条を呼んだ。「これ見て。これさぁ、何か、貴方の趣味に合わせたみたいなとこがある様なだけど、どう思う?」 対する男は「あは・・そう言われると、弱いなあ。確かにこう言うの、俺の趣味に近くてさ・・」 「近くて・・て言うより、そのもの・・でしょ!」 「ハハ、ご免ご免・・確かに、そのもの・・かな」バツが悪そうに、彼は返した。

「これから 分る事は・・さ」初美が続けた。「彼女たち、もしかすると 夏休みの行事の間、ここへ転がり込むってつもりじゃないかしら?」 聞いた中条「う~ん・・まさか、それはねぇとは思うんだが・・貴女は、そう感じるかね?」 「いや、あたしだって 考えたくはないわよ。でも・・」 「でも・・か。続きを聞こうか」 「でも、この中身を見ると、ちょっとそっちの線もありかな・・なんて思う訳」 「そうか・・それなら、そっちの線も考えとくべきって事だな・・」

中条「初ちゃん、悪かったな。俺、ホントは断るべきだったかもだが・・」 初美「あ、いやいや・・もう預かったものは仕方がないわ。でも、夏休みの行事の間、ちょっと面白くなりそうなのも事実ね」 「分ってくれて 有難う。俺も、これ以上の間違いには気をつけるわ。さあ、ちと掃除とかがあるんで・・」 「新さん、その事だけど・・」 「はい・・」 

初美「掃除はあたしがしとくから、今から夕食の買い物 行って来てくれない?野菜やチーズとか、ハムなんかも要りそうだし・・」 中条「OK。簡単な事さ。車は使えんから、自転車(チャリ)で行って来るわな。ああ、赤ワインが下の戸棚に入ってるから、必要なら冷やしといてくれるか?」 「分った。任しといて!」 「宜しく。行って来る!」 「気をつけて・・」袋を携え、中条は出かけた。

部屋に残った初美は、上方の埃払いから、順に掃除に入る。少し位散らかっていても、そこは「勝手知ったる他人の家」 流れる様に進めて行く。途中からは、掃除機で床掃除に移る。窓の外、斜め向かいの下方では、犬連れの散歩人が、例の屋上に現れる 不良犬の攻勢の標的となっている。遠吠えを交えた、甲高い咆哮。日頃 男が「吠えてるのか、屁をしてるのか分らん」と揶揄する、あの声だ。「今日も元気だ。Kuso犬君・・」掃除の手を休める事なく、女はそう呟いた。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 天海つばさ
中村由利子さんの今回楽曲「エターナル・フィールド(Etarnal Field)」下記タイトルです。
Etarnal Field

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