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パノラマカーと変な犬 第6話「導通」


土曜の夕方近く 一時間余りで、初美は、訪れた中条の居所を清め終え、この間 買い物に出かけていた彼も 戻った。暫く後、ラジオ中継されていた プロ野球試合か終り、NCドラゴンズの勝利が告げられた。「良かった。今日は勝てたか・・」そう中条は呟(つぶや)いた。

「ふふ・・これで今夜は、お酒が美味しくなりそうね」買い物袋の中身を整理しながら、笑顔の初美が言った。「今日のセロリは、好い感じだわ。ああ、ブルー・チーズもあたしの馴染みのメーカーね。有難う・・」 中条「ああ、いやいや。うろ覚えだから、ちと不安だったんだが、それなら良かったよ。ワインはどうする?冷やすのか?」 「暫く、冷蔵庫に入れるだけでイケそうな気がするの。もう入れてるわ。グラスは 冷やさなくてもいいでしょ?」 「そうだな。そこまでは必要なかろう」中条はこう答え、スマート・フォンに備えた 宅配ピザの注文アプリを操作する。

彼は続けた。「土曜の夕方だからさ。注文が混んでるらしくて、小一時間かかるってよ」 初美「まあ、仕方がないわね。チーズや野菜のスティックとかで、ボツボツと始めてればいいわ。あたし、準備ができたら、先にシャワー使っていいかしら?」 「ああ、どうぞ・・」 「有難う・・」交代で入浴、後の中条のそれが終わる頃、注文したピザが届いた。

まだ明るい、初夏の夕刻。ヴェランダの出窓を開け、その際にテーブルとチェアを持ち出し、少しだけアウトドアの感覚が味わえる風情の下、バス・ローブを羽織った 初美と中条の、山梨産赤ワインを嗜みながらの夕餉(ゆうげ)が始まった。斜め下の、某商家の屋上には、夕方の日課でもあるかの様に、留守中 初美が掃除に勤しんでいた時から、外来種の「パピヨン」らしい不良犬が姿を現し続ける。中条が、興に任せてサンダルを履き ヴェランダへ出て行くと、直ぐに反応して咆哮した。

「ハハハハ、相変わらずだな。あの吠え声!」男は、笑いながら反応した。「ホント、どう聴いても、吠えとるのか屁~こいとるのか、よう分らんわ」 これを見た初美「まあ、余り好い匂いを嗅がせない方がいいかもよ。彼、晩ご飯 まだなんでしょ?」 中条「ああ、多分な。でも、彼(あいつ)は そういうとこだけ敏感だから、飯時(めしどき)と分れば、直ぐ下へすっ飛んで行くわさ!」失笑を伴い 返した。

7pmを過ぎ、ようやく辺りが暗くなった。中条から「Kuso犬」と揶揄される 前出の不良犬も、ようやく階下へ姿を消した。「さてと・・」食事が終わり、まずは TV報道番組をチェックしながら、男が言った。「実はさ・・」 「うん。何かしら?」女が返すと「周(あまね)君ちへも、今夜は宙(そら)姫が訪ねて来るとか言う話だな」 「ああ、そうなんだ。彼、それで今日は早めに帰ったのね」 

中条「多分それだろうな。それでさ・・」 初美「はい、何?」 「今夜この後、どうなるかは 貴女にも想像つくだろうけど、そんな状況になったら、彼と俺とで LINEとかで連絡し合おうか、なんて話をしてるんだよ」 「ふふ・・それ、面白いけど、上手く行くかしらね。丁度 男女で一つになって、頂上へ昇る時なんて、もうそんな余裕なんかないんじゃない?」女は、微笑みながら そう返した。失笑かも知れないが。

彼女は続ける。「新(しん)さん、あたしも 話していい?」 「いいよ。どうぞ」中条が返すと「今夜はさ、もしも・・もしもよ、この後の夏休みに、由香ちゃんたちがここへ泊まり込んだ場合の事を想像して、この後の事をしてみたいわね。これ、そうなった場合に、貴方の方も、きっといい具合になると思うんだけどなぁ」 「ハハ、それはそうだろうな。俺はいいよ。ただ、貴女はちと引っかかるかな、と思って 今まで遠慮してたんだが・・」

「あは・・そんな気遣いするんなら、初めから 彼女たちの持ち物預かったりしちゃダメよ!」初美、嗜(たしな)める様に言った。「ハハ・・ご免ご免、そう来ると思った。やっぱり、怒ってる・・か?」 「多少はね。でも・・」 「はい、続きを聞こう」 「既にもう預かってるんだから、仕方がないわよ。だから・・」 「うんうん、そうなった時にどうするか考えて、今夜は あの事をしようって事で・・」 「そうそう・・」もう暫くの談笑を経て、女は 食後酒の用意に立った。

「新さんは、ブランデーでいいかしら?」 「はいはい、いいですよ」 「後さ、冷蔵庫のグレープ・フルーツって 食べて良いんだよね?」 「勿論!それはな・・」 「はい・・」 「何を隠そう、貴女の末永い美しさの為に、買っといたものだよ!」 「まあ、冗談でも嬉しいわ。有難う!」 「いいえ、こちらこそ。これ、冗談じゃねぇぞ!」二人は笑った。

中条は、一度 厨房(キッチン)へ立ち、冷蔵庫にあったグレープ・フルーツを、流しの引き出しにあったナイフで半分にし、二皿に分け 先割れスプーンを添え、居間(リヴィング)卓上へ。その間に初美が「マーテル・コニャック・スリースター」と 己が嗜む甘口リキュール「グラン・マルニエ」それに、冷水二杯を用意す。

放映の続く TVの前に戻り、改めて乾杯。夜間は気温が一定下がり、まだ冷房を要する風ではない。勿論、扇風機は回されているが。中条、ソファに収まって TV画面をチェックするも、横目では 初美のバスローブを纏った、胸の双丘を追う。「新さん・・」 「はい・・」 「嫌らしいわね。TVを観るふりして、あたしの乳房(おっぱい)に目をやってるでしょ!?」 「ああ悪い。分りますかな?」 「そらしてても、ちゃんと分りますわ!」 「悪いですね!まだ早い・・のは分ってるんだが・・」今度は、苦笑の波が 二人を見舞った。

そろそろ 9pm。寝酒も一区切りとなり、中条は 空いた皿とグラスの下げと洗浄にかかる。その間に初美は、居間の卓上を拭き清め、次いで寝室の様子をチラ見すべく、席を立つ。「うんうん、ベッドは準備OKね」ニヤリと微笑を見せた女は、居間に戻ると、バス・ローブを脱ぎにかかる。その下には、抜群に中条が好感する、艶姿(あですがた)が隠されているのだ。

「今晩は。そろそろ深い時間になりそうだ」合間に、若い周に 短いLINEを送り、食器の手入れと整理を終えた男が居間に戻ると「!」の光景が待ち受けていた。純白のバス・ローブの下は、肌色がかったベージュ系の、タンク・トップとフレア・ミニのアンダー、それに 近いトーンのメッシュの二ーハイを纏った、刺激的を通り過ぎ、挑発的とも言える、女の佇まいだった。「今晩は。又 あの日へ戻ったわね・・」

「いやいや、何度拝んでも素晴らしいわ。悪い、又また、股が熱くなり出したわ」下着調の、妖艶な姿を認めた中条は、本当に勃起し始めていた。しかし・・「い・・いかん。いきなり押し倒し・・なんてのは本望じゃねぇんだ。こ・・ここはさ、やっぱり、回りくどくても、遠巻きに進めんと・・な!」男は、そう己に言い聞かせ、突き上げる欲情を抑えきった。それに・・「そも彼女、今夜は安全期だったか?」

前年の同じ頃、彼女との深い交際が始まった頃から、中条は、その「危険な時期」には、自らゴムを使う様心がけていた。ここの所は、その把握が曖昧になり、念の為 訊く必要があったのだ。懸念を抱く男に、初美は言った。「あたしは大丈夫。心配な時期は、もう少し後よ」 「有難と。そういう事なら・・」中条はその言葉を受け、初美を ぐっと己の傍に抱き寄せ、ゆっくりと唇を奪う。濃厚な接吻が、一分以上続いた。

口唇での挨拶が区切られると、中条は「さて、反省の意味で・・」と、初美の背後に回していた右手指を、タンク・トップの胸周りに這わせる。「ちょっと嫌らしい。でも・・ちょっと嬉しい」彼女は、そう呟いた。「今までが、お尻ばっかり。それが、チョイと不満だったのよ・・」それが聞こえたらしく、男は「ああ悪い。今夜からは、もう少し 胸周りのマッサージを念入りにするかな・・」 「忘れないで。ずっとだよ・・」 「ああ、確(しか)と理解しやした」二人は、今暫く口唇を交わし、胸周りの愛撫に勤しんだ。女はそれを称え、男の下方に手を伸ばし、トランクス越しに、男根(コック)の愛撫を始める。「ゆっくりとな。俺も、暴発は嫌だから」 「ええ、分るわ・・」

「さあ、それじゃ・・」暫く後、中条は いよいよ寝室へ移動しようと、心に決めた。「初ちゃん、そろそろ寝室へ移るでな・・」 「ふふ・・分ったわ。・・で、あの事をしてくれる?」 「ああ、あの事な。分ります・・」男はそう答えると、右隣に座る女の背後と膝の裏側辺りに両腕を添え、ゆっくりと抱き上げる。そう「お姫様抱っこ」だ。「さあ、もっと深いとこへ、一緒に行こうや・・」中条はそう言い、ゆっくりソファから立ち上がると、静かに 寝室の方へと歩を進める。その腕の中で、初美が微笑んでいた。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 大橋未久
中村由利子さんの今回楽曲「ジェット・ストリーム~アイ・ウィシュ(Jet Stream~I Wish)」下記タイトルです。
Jet Stream~I Wish

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