パノラマカーと変な犬 第10話「経過」
- 2018/01/23
- 15:41
芳しからぬ交通事故に遭遇した 6月後半の中京地方は、梅雨によくある 雨がちなるも、途中の何日かは曇りや薄日の射す事もある天気の日々であった。事故処理は順調に進み、翌週の初めには示談も成立。後は、彼と木下姉妹の愛車の修繕仕上がりを待つだけとなった。完成予定時期は、中条車が 6月末、木下姉妹のそれは 7月第2週辺りの見込みであった。
中条の義弟が社長を務める、勤務先決算は 12月末。よって 6月は、中間決算の時期に当たる。通常の業務に加え、在庫商品の棚卸や、前述の為の書類及びデータ処理などで、特に月末辺りは 遅くまで残る日々もあり、明けて7/1 曇り日の土曜も、午後早くまで処理が残り、対応に追われた。この日は、初美も月初めとあって勤務先業務を抱え、中条との夜の予定はない。
「さて、それじゃ・・」夕方近く、仕事の片付いた中条は言った。「久し振りで、室(むろ)さんとこでも、顔出すかな・・」会社と同じ敷地にある、社長一家の居宅にその旨を伝え、退出しようとすると、社長の義弟 白鳥雄人(しらとり・たけんど)から声がかかった。「兄者、室さんとこだったら、丁度良い。一緒に行こうや!」 対する中条「ああ、そりゃ良い。たまの事だからな。ただ、一旦俺んとこ帰って、雑用がしてぇ。それからで良けりゃ・・」 「ああ、それでOKよ!」 3pm過ぎ、中条は、一旦 勤務先近所の居所へ。
6pm過ぎ、中条は再び社長宅に赴き、これも至近の、室の店へと移動。席は、電話で押えたカウンターの奥の方だ。「白鳥社長、ようこそです!」 「いらっしゃいませ!」店主の室と、この日は出番の 周(あまね)が 満面の笑みで挨拶。雄人も「普段はねぇ、中々兄者とゆっくり飲む機会もないって事で・・」と苦笑しながら返す。定員 20人余りの店内は、後少しで満席の風情だ。
室は、中条と雄人が、時折彼の店で酒食を共にする事を知っており、その事は 周にも教えていた。時には、企業秘密に関わる隠密話もあり、そんな場合は 普段は開放しない小座敷に招いたりする事もあったが、この日はカウンター指定。大事な話は、多分ないだろう。
「室さん、ホントにさあ・・」最初に現れた ヱビス・ビールを義弟と酌み交わし、枝豆をつまみながら 中条が言った。
「はい、聞きましょう!新(しん)さん、続きをどうぞ!」受注した造りを切り盛りしながら、室が返すと「先月末は、お蔭で忙しかった。中間決算の数字も一応固まって、やれやれってとこだね」 「そりゃ良かった。雄さんとこは、何かと引き立てて下さるんで、あしも、いつも御社の業績は気になるんだよね」 「うん、心配有難う。まあ、その辺は、社長の雄ちゃんから話すわ。んじゃ、宜しく・・」
「仕様がねぇなあ、兄者も役員の端くれなんだから、直(ちょく)で話してくれりゃ良いのに・・」一瞬、渋面を作りながらも 雄人は、ここ 1~2年は、国の経済政策「アベノミクス」の 一定の効果もあってか、売上が順調に伸び、今回の中間決算も 一安心できる数値を残せた事、主力の 各種建物内装材需要が、住宅向け、店舗向けのいずれも上向きで、かつデザイン的な所も多様化、細分化して来ているので、より柔軟に対応して行きたい事 などを語った。この間に、鮪と鯛の造り、野菜の天ぷら、海草サラダなどが 二人の眼前に現れた。
「ああ、そりゃ、ウチと似た様なとこがあるね」聞いていた室は、こう返した。「一応『お品書き』は用意してるんだけど、やっぱり それに載ってないものを食したくなる事ってあるじゃない。ウチでも他店でもそうだけど、日替わりのお勧めとか、特別入荷とか言う奴ね。やっぱり、内装の世界も同じかって思いますよ」
聞いた雄人「室さん、ご理解有難とね。このお店の中も、ウチのデザイン連中がさせてもらったけど、お互い、又良いネタが入ったら、教え合いましょうね!」 「それ、こちらこそ お願いしたいですよ。どうか宜しくです!」暫くぶりで、義兄との酒食が叶い、又 店主の室とも話ができて、この夜の雄人は 満足そうだった。来客多い土曜の夜、忙しい室だったが、彼も又 忙しい仕事をこなしながらの、雄人との会話を 心底楽しんでいる風であった。
「さあ、雄ちゃん。後暫く、室さんと話をしててくれ。俺、今日 これまで余り 周君の相手ができなんだから、ちょっと 話して来るわ」「ああ、勿論 OKよ。どうぞ!」結構な長居となった 8pm過ぎ、中条は、店内隅の 二人卓の空席に、周を招いた。「今夜は酒気が許されんから、これでいいな」ジンジャー・エールをグラスに注いで差し出す。「有難うございます!頂きます」周が手に取ったのを見て、中条が切り出した。
「ホント、先月の事故の事は、心配かけたな。でも、もう大丈夫だ。処理の話はついたし、保険とかの示談も済んだ。後は、車が治れば全てOKだ」 周「本当に、お疲れ様でした。事故の第一報を伺った時は、お怪我がなくてホッとしました。後、お車がどうなるかと思ったけど、ぶつかった二台共治るそうで、ホント良かったですね」
中条「ああ、まあな。ホント 有難う。それでな、事故った美人姉妹さん。実は、親御さんに内緒で、大坂辺りからドライブして来てたらしいんだと」 周「あっ、それ 自分も聞きました。先月の事故の頃、夏休み序盤の、特別学術交流行事の事前説明があって、それを聞くのと、会場の下見の目的もあったらしいですね」
中条は続けた。「それでさ、今の大学って 俺たちが通ってた頃よりは、夏休みの入りが遅いみてぇなんだが、何?7月末近くからなのかね?」 周「はい、確か 7月下旬に、春季の期末試験がありまして、その明けからですから、7/28の金曜辺りからだと思います。これ、由香さんや由紀ちゃんの通われる、大坂の K大学も ほぼ同じだったと思いますね」
中条「そうか。そうしたら、まだ邪(よこしま)な考えはいかんが、彼女たちも交えて、又 楽しい昂奮の 夜の行事(イヴェント)が開けるかもってとこだな!」 周「ハハ、伯父さん、奇遇ですねぇ」 「うん、何かな?」 「自分も、同じ事考えてたんですよ!」 「ハハ、周君。やっぱり若いなぁ!」 「うーん、そんなですかねぇ?」
中条「そうだよ。この前の新潟方面旅行の後、初ちゃんに宙(そら)姫交えて、四人で『夜の復習会』みてぇな事やったが、今度はそれに、美人姉妹さんを招いて 一緒にできればって思う訳よ」 周「ああ、それ良いですねぇ。自分も、喜んで協力しますよ」 「ハハ、有難う。宜しくな」小一時間、この企(たくら)みの打ち合わせが続いた。その後飲み直し、中条と雄人が、室の店を辞したのが 10pm過ぎ。久々の長居だった。
その夜、バイトを終えた周は、中条の招きで、彼の居所に投宿。かの「おスケベ行事」の、もう少し踏み込んだ所の打ち合わせをひとしきり。翌朝は、中条馴染みの店での朝食を嗜(たしな)んだり、斜め向かい家の「屋上の主」不良犬のアホーマンスに苦笑するなどして、栄町にて昼食後解散。翌週初、修繕に出ていた、中条の愛車が戻る。やや大きなダメージの、由香・由紀姉妹の北欧車も、7月第2週には仕上がり、トランス・ポーター車による陸送で、大坂府下の木下邸に戻された旨 業者から報告を受けたのであった。「後は・・」彼は呟く。「美人姉妹さん、親御さんから それなりの目玉を食らうだうが、何とか凌いでくれると良いな。これからの為にも・・」
(つづく 本稿はフィクションであります)
今回の人物壁紙 鈴村あいり
中村由利子さんの今回楽曲「風紀行 (Sunset Fright)」下記タイトルです。
Sunset Fright