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パノラマカーと変な犬 第11話「一計」

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この年の 7月は、やや梅雨の時季が長かった。前半、一時夏らしい 暑く晴れた日々もあったが、後半に入ると、梅雨が戻った様な 雨がちの日が続く事もあった。が、それも月末頃 次第に解消へと向かい、気温の方は 真夏らしく昼夜共 気温高めの暑い日々が続く様になった。中条らの仕事の方も、中間決算を経て、忙しい日があるも、盆の時期へ向け 次第に一服と言う感じだった。

その様な中、7/28の金曜夜から翌29日土曜朝にかけ、大坂のすぐ東郊に位置する木下邸では、由香と由紀の姉妹が、中京地区の A大学と佐分利学院で催される、夏休みの学術交流行事向けの準備を進めている最中であった。由香は言った。「さあ、資料や筆記具、タブレットに着替えや洗面具も揃ったな。由紀の方も、ええやろうな?」 「ああ、そりゃもう万端やわ。いつでも 出発OKやで」

7/29の土曜当日。朝食を済ませた姉妹は、前夜からまとめていた手回り品を詰めたキャリー・バッグの中身をもう一度点検。10amには、出発準備を整えた。「二人、用意ができたら 俺の車に乗って待機しとれ」 「分りました。父さん」遅めの出勤となる、会社社長で姉妹の父 木下鉄之進(きのした・てつのしん)が、彼の愛車 レクサスLSで、乗換駅まで送る事となる。

帰った折 由香は、例の事故報告を 父に包み隠さず報告した。事故そのものは 厳しく叱責した父だったが、その後の適切な対応は称えてくれた。「人身でなくて良かったな。誰も怪我をさせなかったのは、お前の対応が適切だったからや。相手方の 中条さんの会社は、俺たちとも ずっとつき合いがあるさかい、そういうのはきちんと対処せなあかん。当たり前やが、お前はきちんとやった。それは褒めたるで!」 「はい、ご迷惑かけまして、済みまへんでした!」由香は、詫びの傍ら、謝意を返した。その上で この日・・

鉄之進「やっぱ~暫くは、お前 運転せん方がええやろな。お前の車は 母さんも乗るし、学術交流が済むまでは、ダメって事で」 「ああ、はい、分りました」 10:20am頃、正装の父と ジーンズを穿いた夏姿の姉妹は 近畿参宮電鉄の鶴橋駅へ向け、出発した。道中、親子は 先日までの前期試験の模様や、買い物などでよく出かける、大坂「キタ」の繁華街などの話で過ごした。約 25分で着く。

「N市の宿は確保したんか?」鉄之進が訊くと、由香「ああ、はい。N市の JR中央駅の近くにね。大学へも学院へも、歩いてけるとこが良いさかい・・」 「そうか、分った。それならまあ良いや。どうせ、俺も母さんも、お前か由紀の携帯しか連絡せんさかい。そいじゃ、せいぜい気をつけてな!」 「はい、有難と。ほな、行って来ます!」下車した姉妹を見届けて、鉄之進の車は ゆっくり遠ざかった。

父の車が視界から消えると、由香、由紀の姉妹は、顔を見合わせて笑った。「実は・・な!」と姉が切り出すと「あは、実は・・ね!」と、妹も まるで「阿吽(あうん)の呼吸でもする様に合せる。昼食の弁当は、母 由利が持たせてくれたが、日本茶やコーヒーなどは、自前で用意するつもりだ。

その缶コーヒーと、ペット・ボトルの日本茶を入手して、11am過ぎ、浪速を発って来た特急「アーバンライナー・プラス」に乗り込む。今回も二人は、普通席のレギュラー・シートである。ほぼ満席の賑やかさ。隣り合う席番に落ち着き 出発すると、由香が言った。「由紀ちゃん、分ってるな?」 「ああ、分ってるよ」妹も返す。「交流行事中は、中条の伯父様んとこに居候させてもらうのやろ?」 

由香「如何にも!そいでな、今日の 2pmに伯父様んとこ伺うのは、話を通してあるんや。ただ、とりあえずお顔出しってとこまでで、寝泊りまでは、あの方はご存じないはずやで」 由紀「ほう、さよか。ほな、伯父様はびっくりなはるやろな・・」 「まあ、そないなとこやな。でも大丈夫。その辺のお話は、あたしがちゃんとするさかい、由紀は安心しててOKや!」 「ほうか、有難と。まあ、オトンもオカンも、連絡は携帯やろうから、その辺はよろしな」 「ああ、大丈夫。ヘマはやらへんて!」列車は、大坂東郊の住宅地を抜け、古都の南側の、歴史を感じる地帯(エリア)へと進む。

車中昼食の傍ら、由香は続ける。「ところでさ・・」 「はい、何ぞ?」同様に食しながら、由紀が返すと「着るもんとか、交流行事に合った、改まったのを持って来たやろな。何か、アンタの持ち物チラ見したら、セクシー下着みたいなのも入ってた様なやけど・・」 「お姉ちゃんもスケベやなぁ。そんなとこばっか見てる様にも聞こえるけど・・」 

由香「ああ、いやいや、そればっかって事ないよ~。確かに、そないなのも少しはあるけどさ。どうせ一度は 伯父様を挑発するのやろ?あたしも大口利けへんけど」 由紀「まあな。それ、あたしも考えとるけど、あくまで『予定は未定にて、決定に非(あら)ず』て事やで。もしも、そんなんばっかやったら、交流行事に行く意味ないやんか!」 

由香「ハハ、それもそうやな。姉のあたしがこんな事訊くの、余り良くないよな」 由紀「まあ、そんなんでもないけどさ。まあこれから一週間、無難に過ごせると良いなって思う訳よ」 「そやそや、そりゃ あたしも同じ気持ちやで!」そう会話が盛り上がる頃には、列車は 青山高地を東へ越え、伊勢平野へと抜ける 長いトンネルを抜けて行く。

勢和中川と言う、田園地帯の駅構内で 列車の走る路線が変わり、北東に位置する N市へと頭を向ける。北へと向かう程、田園から市街地へ、車窓の様子が移り変わる。M県の勢和地区北部は、我国有数の工業地帯。以前程ではなくなったが、製紙工場や石油化学工場などからの 独特の臭いが解消した訳ではない。「やっぱ気になるなあ。この臭いは・・」姉妹は、そう言い合った。

工業都市 Y市を発って、広い木曾三川を長い鉄橋で越え、日本で一番標高の低い 輪中地帯を抜けると、中京圏の大都市 N市はもう直ぐだ。「段々市街地に入って来る。これ見ると、なんかホッとするなあ」由香が言った。「この街、お姉ちゃんと肌が合ってるのかもな・・」由紀も合せる。順調に走破し 1pm過ぎ、列車は JR中央駅下に着いた。

前後するが、この日の中条は、斜め向かいの、例の不良犬の咆哮で起床。朝食後、普段着で出社し、翌週の段取りをメインに所用をこなす。社長一家との昼食後 1pm前には帰着して、ほぼ一時間後の 姉妹の到着に備えて ざっと居所を掃除す。この時は「まあ、軽く挨拶程度だろう。適当にお茶して、預かり荷物を返して JR中央駅近くだろう宿まで送ってくとするか。場合によっちゃ、晩飯位一緒だろうが・・」この想いはこの後、予想外の展開となるのだが、その時 男はその事を知る由もなかった。

一通り、居所の掃除を終えた 2pm少し前の事。「そろそろ、来るだろう・・」と思った中条は、アイス・コーヒーを三人前準備。少しの茶菓も共に。区切りにヴェランダへ出た所、斜め向かいの屋上に姿を現していたパピヨン犬「Kuso犬」が、やおら激しく反応した。

「おいKuso犬、Kuso犬!落ち着けや!一体、何なんだよ?」そう声を上げながら、犬が反応する先を見ると、ジーンズにポロシャツを纏い、スニーカー履きの若い女二人が、男の居所の方向へと歩み寄って来る。各々の手は30~40L位の、やや大柄なキャリー・バッグを携えている。一人は桃色、もう一人は黄色。「姉妹だ!」余り感性が鋭いとはいえぬ中条も、流石(さすが)に直ぐ気が付いた。「それにしても・・」彼は想った。「初めの話より、かなりの大荷物だな・・て事は?」
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 高橋しょう子
中村由利子さんの今回楽曲「ワイルド・フラワー・ガーデン(Wild Flower Garden)下記タイトルです。
Wild Flower Garden

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