パノラマカーと変な犬 第22話「始動」
- 2018/02/16
- 21:16

7/30の日曜。この日から、中条の居所に転がり込んだ由香、由紀姉妹の N市での行動が始まった。曇り空の朝に、例によって 斜め向かい家屋上に現れた、芳しからぬ犬の 甲高い咆哮で三人は目を覚ます。この朝の犬は、階下を通る 中年の女犬連れ散歩人に喧嘩を売っている最中であった。
「ハハ・・彼(やつ)の予定調和だな。由香ちゃんもお早う」 「はい、お早うございます」結局、上に姉が重なったまま、夜を明かした男は 笑いながら呟く。「ふふ・・でも、思うたより 好い仕事しますやん。彼・・」これも笑顔の、由香が返す。そして「さあ・・」と続け。 「うん、何かいな?」中条が返すと 「そろそろ、ショーツ着けて立ちまひょ。このままじゃ、又 由紀が文句言いますさかい・・」 「そうやな。さあ、俺も着替えよや」そう返し、男もソファを立った。
前夜、妹の由紀は、シャワーの後ベッドに臥すと、直ぐ眠りにおちた。由香と中条は、その後暫くは 重なり合って TVを見ていたのは既に述べたが、彼女はその最中 又も前後を入替え、男根(コック)に手を伸ばし、裏筋を摩(さす)って食らいつこうとするのだった。「まあまあ・・」優しく、男が制す。そして「まだ明日も明後日もある。由香ちゃん、焦るな・・」 「ふふ、そうは言うても たかだか一週間ですやんか。少しでも、伯父様の『男』を感じていたいんです。伯父様だって、そうでしょう・・」そう続ける由香の下方は、中条の眼前に向けられ、先刻に続き 又も視姦の悦楽に恵まれた事を、実は快く思ったものだ。
「ハハ、部屋の中でお月見か・・」の風情。前夜からこの日にかけては曇天。月が見えたとしても、上弦だったはずだ。そこをも由香が身体を張って フォローしてくれたと言う事だ。「いやいや、結構な月だったぜ。天のと違って、芯のとこは 赤く燃えとるしな・・」暫し見とれた記憶あるも、それは途中で朧(おぼろ)になり、遂には 上に由香を重ならせ、TVもONのまま、寝入ってしまった様だった。
「お早うございます!」寝室から居間に現れた 妹の由紀は、既に半袖上シャツにデニムの長パンツを纏う。「ああ、お早う・・」その時には、由香と中条も、同様に着替え。由紀「あたし、ちょっと敷布とかシーツを干しますね。その後で、お姉ちゃんの朝ご飯準備応援するさかい・・」と続けると、由香「ああ、宜しくです。じゃ、あたしは厨房行ってます」 中条「悪いな、コーヒーは俺が入れるから、二人は 他を宜しく・・」こう言って、一旦消したTVを、再びONに。
ヴェランダの手すりを簡単に清め、寝具干しを始める由紀の目には、当然 例の不良犬の行状が飛び込んで来る。先程の女犬連れ散歩人を「撃退」した犬は、勝ち誇り わざと見せる様に 己の尻を追って、時計方向にグルグルと回っている。由紀「あ、可愛い。童謡の歌詞にある通りの事してるわぁ!」と反応すれば、中条「ハハ、そうかぁ。俺はそうは思わんで、気狂い踊りかなぁ思ってたんだが・・」 「又また、伯父様の妄想が始まったわね!」 「妄想か。悪いな~!」二人は笑った。その一方で男は「・・たく、汚い面が、汚い尻を追い回してやがる・・」とも思ったが、それは口外しない事にした。
寝具干しが終わると、由紀は 姉の応援で厨房へ。中条は TV画面を追いながら、コーヒーの準備。夏場でも、朝の一杯は温製(ホット)とするのが、彼の習慣だった。前日の続きのフランス・パンを温め、胡瓜、人参、セロリの野菜スティックとカマンベール・チーズ、ゆで卵にブルー・ベリーのヨーグルトと言った 朝の顔ぶれであった。
初美が訪れた時に同じく、ヴェランダの際までテーブルを出し、椅子を寄せての朝食が始まった。皆 談笑の傍ら、目では TV番組をチラチラと追っている。ついでに言えば、中条は 斜め向かい家の屋上をうろつく 犬の様子も観察していた。向かい合って座る姉妹も、彼と同様の挙に。
「実はさ・・」男は言った。「俺は彼(あいつ)の本名を知ってるんだ」 「ああ、そうなんですか。あのワンちゃんですよね」由香が返すと「そうそう。あそこの家では『マル』って呼んでるみてぇでさ」 「ふぅん、マルちゃんか。いよいよ可愛い!パピヨンらしくて」由紀が、笑いながら応じ。「うーん。マルはマルでもってとこだが、それは追って話すわな・・」
この時、例の犬は、屋上の周りを「キョロキョロ」と 様子を窺う様に見回す仕草を見せ。これを見た男は「いいか二人、これは見ん方が良い」と制した。「え、何で?」姉妹が返すと 「それは・・」と言い 「粗相の前ぶれだからだ!」と、畳みかける様に続けた。
由香「ははぁ、それであの綽名(あだな)をつけられたんですね」 由紀「へえ、そないな経緯があったんですか」 中条「まあ、そんなとこだよ。ちょいとの間だが、まだ食事中やから、これ以上は思ってても言わんって事だが・・」 「思っててもですか。分ります」姉妹は、声を揃えて 笑って返した。
「さてと・・」小半時余りで食事を終えると、中条が言った。「二人には、片づけ願っても良いか?その間に、俺は居間を片づけて、出かけられる様にする。この後半日は、自習すると聞いてるが、どうだ?(佐分利)学院の校舎には、出入りできるのか?」 「はい。ええ、身分証さえ見せれば、学院の自習室も出入りできましてん」由香が返す。「それ、とても好いです。伯父様のお部屋だと、やっぱり集中できまへんで・・」少しバツが悪そうに、由紀も応じ。
中条は続ける。「ここからだと、県立図書館の学習室が至近なんだが、夏休みに入って、日曜なんかは 早い時間から行列ができるレベルの、席の奪い合いになるんだよな。遠くから来てるのに、貴女たちにそんな不便な目に遭わす訳にも行かんのでな」 「有難うございます。でも大丈夫。あたしたちは、そっちがありますから」又、笑って返す姉妹であった。
中条「じゃあ俺は、日中は西の方の実家へ、雑用に行って来る。途中 学院に周って進ぜるから、車で行こうや。どうせ日曜やから、学院にも夕方までしか居られんだろ。帰りも迎えに行ってやるから、その間 せいぜい集中しろよ!」 「おおきに、有難うございます!バリバリ進めますよ!」姉妹は、元気よく返す。「その代り、と言っちゃ何だが・・」 「はい・・」 「帰る途中で、ちと買い物をするから、それはつき合ってくれよな」 「ええ、勿論です!こちらのお店も覗けて、楽しみですわぁ~!」
食事の片づけが済んだのは、9am過ぎ。中条「確か 9:30amには、夏休みの日曜でも 学院校舎が開くはずや。二人の準備ができたら、出かけよや」「了解!速攻で用意しまっせ~!」姉妹はそう返し、持って来た 洒落た肩バッグに資料や筆記具 タブレットなどを入れて行く。施錠、そして階下へ。
下の駐車場に控える中条の愛車 紺のニッサン・ウィングロードは、少し前 修繕から上がって来た所。「うわ、綺麗に治ってる。良かったわぁ~!」「ホンマ、あたしたちのもそやけど、今の修理技術って、すんごいな~!」驚喜する姉妹。「そうやろう。あれだけボコっても、新車同様や。確かに凄いよな」中条も返した。由香「こないなの見てると、やっぱり気をつけんと思いますね」「んだんだ。分りゃ良い」中条もフォローした。
姉妹を後席に乗せ、中条は慎重に車を出す。居所の入るマンションの構内を出て、西行きの大通りに合流。日曜とあって、大きな渋滞はない。「ちょっと回り道して、県立図書館の様子を見せてやる」二度左折して向きを変え 東進。都市高速道の高架下を進んでもう一度の左折で、図書館の前へ。案の定、狭い駐車場は入場待ちの車列、玄関前は、学習席の順番を待つ行列が見られた。
由香は言った。「ああ、あれじゃあね・・」由紀も「この土地来て、ン時間待ちなんて、耐えられまへんわ~!」嘆く様に合わせ。中条「大丈夫、任せとけ。後10分もすりゃ、集中できるとこへ行けるって」実際、それ位の時間で、三人は 学院の階下に着く。
中条「まあ、頑張って来るべし。そして今夜も有意義にしようや」 「・・ですね。楽しみにしてます!」「OK。そいじゃ、夕方前に、由香ちゃん宛 LINE入れるわ。昼飯は適当に。周(あまね)君にも教えてもらってるだろうが」「はい、おおきに!そうですね。お昼は大丈夫。帰りは、宜しくお願いします!」下車した姉妹が、学院建物の玄関に吸い込まれて行く。見届けた中条、徐行で車を出しながら「さて・・」「初ちゃんに知れたら、どう言い訳するか、考えないかんな・・」
(つづく 本稿はフィクションであります)
今回の人物壁紙 黒木いくみ
中村由利子さんの今回楽曲「ウィスパーリング・アイズ(Whispering Eyes)」下記タイトルです。
Whispering Eyes