パノラマカーと変な犬 第33話「代理」
- 2018/03/10
- 21:49
8/1の火曜、いよいよこの日から、由香・由紀の木下姉妹も出席して、A大学にての 学術交流行事の本編が始まる。初日の集合時刻は 9am。その為、この朝は 出勤する中条と同時に出かける事に決めていた。曇り空ながら、陽も射す事もある天気。晴れれば、日中は暑くなりそうだ。
6:30am少し前だろうか。前夜、例によって TV深夜番組を見ながら眠りに入った彼は、例によって 斜め向かい家屋上の、甲高い咆哮で目を覚ます。ここで起居し始めて初めて、姉妹揃って寝室で休んだのだが、同じ咆哮で目覚めた様だ。「お早うございます!」 「はい、お早う。今朝のアイツは、特にウルサ吠えしやがるな。どれ・・」そう言い、ヴェランダに出た中条の、次の瞬間 声が一変したのも もっともだった。
「うぉ~っ、こりゃ面白(おもろ)い!おい Kusoマル、お前 勝てるんか?」中条らが見下ろす、斜め向かい家屋上には、かなり大きな鴉(からす)が四羽飛来していた。犬(マル)が手出しできない、高い鉄柵(フェンス)の上端や、階段上がり口の屋根に、分かれて陣取る。それを目撃したマルが、中条も見た事がない程 俊敏に駆け回り、激しい高音の咆哮を見舞う。
こいつが屋上で暴れる間は、周囲の建物や電柱に飛び移るも、少しの間でも階下に下りると、直ちに舞い戻って来る。そして、再び現れたマルに吠え付かれ、又も周囲に移り・・暫くは、それの繰り返しが演じられる。マルは朝飯を邪魔されたらしく、頗(すこぶ)る機嫌が悪い様だ。
「ハハ・・」コーヒーを入れる手を休める事なく、男は 静かに呟いた。「バ鴉共が!四羽もおって、何やっとる?たまにゃ この脳足りぬのアホに、泡の一つや二つでも 吹かせたれや!」数だけなら、圧倒的に鴉が優位だが、かと言って 本気でマルと勝負する気があるや否やは、疑問符がつくのも事実だった。
「おおっ マルちゃん、囲まれとるな。頑張って~!」姉妹はあくまでも、犬(マル)を応援する。飛び去る風(ふう)を見せては戻り、又犬に威嚇されると飛んで遠ざかり・・が5~6回繰り返された末、鴉(からす)共は目標を変えたらしく、一羽、又一羽と 近所の城址公園の辺りを目指して飛び去って行く。或いは、好餌(こうじ)が見つかったのかも知れなかった。
「二度と来るな!アホバカ共め!」とでも言いたげに、屋上に残された犬は「ワォォ~ン!ワォォ~ン!」と勝鬨(かちどき)の様に、己の尻をグルグルと追い回しながら 遠吠えの様な咆哮を繰り返す。「マルちゃん、やったね。良かったよ~!」姉妹は、素直に大喜びだ。対する中条は、落ち着いていた・・と言うより白けていた。「所詮、茶番は茶番・・」だがしかし、それが又 理屈抜きで面白いのも事実。「何たって、動物の茶番程 面白(おもろ)いものはねぇな・・」彼は、折々周囲にそう語っていた。勿論、この朝 姉妹にも・・
到底「勝利」とは言えぬ結末を見届けて、姉妹と男は TV報道に目を遣りながら 朝食の卓を囲む。この朝も、温めたフランス・パンに茹で卵、野菜の浅漬けに プレイン・ヨーグルトと果物、ホット・コーヒーなどなど・・
「あは、確かにマルちゃんって面白(おもろ)いわあ。鴉が飛んで来たの、初めて見たせいもあるけど・・」由紀が言うと、由香も「ああ、そやなあ。ワンコ連れて散歩の方にも、似た様な事するけどな」と合わせ。中条も「まあ、散歩人は面倒な事になりそうやからって、避けて歩くけど、鴉は野生だしな。そりゃ 予期せん事もあるし・・」
「ふふ、彼 又やるかしらね?」と、姉妹に訊かれた彼は「まあ、後一回位あるかもな。ただ、奴らも野鳥やから、その時になってみにゃ、分からんとこもあるぞ」 「さよですか、まあ そないな風に思うとけば、間違いない訳ですね。」そうこうする内に 8amに。
「さてと・・」男が呟いた。「今日から、貴女たちも 俺と同時に出かけるんだったな?」と続けると、姉妹は「はい、その通り!あたしたちもそないしますんで」と返し。「OK 、それで進めるいう事で。俺、残業調整で 夕方早めに終わるから、外食にしようや」 「おおっ、それ よろしですね~、楽しみですう・・」
「じゃ、初めての道らしいから、せいぜい気を付けて・・」 「はい、おおきにです。伯父様も、ご安全に・・」各々正装を纏って玄関を施錠し、降りた階下で挨拶を交わすと、毎度の事で、中条は自転車で勤務先、姉妹は、最寄りの地下鉄駅 浅弦町から JR中央駅でりんかい線に乗り換えて A大学の最寄り駅へ。9amの集合には、勿論余裕で間に合った。
学術交流行事の初日は、開講式に続いて、指導陣代表の A大学経済学部の准教授と、由香・由紀の姉妹も学ぶ K大学社会学部の講師による記念講演が午前中に。学生食堂での昼食を鋏み 午後は、概ね学年別に三グループに別れての、ゼミナールの感じでの分科会となった。3:30pmで初日を終えると、参加の有志 10人程が、学内の喫茶室で 小一時間の茶話会。それを経て、姉妹が中条の居所に戻ったのが 5pm過ぎ。
「さて由紀・・」姉の由香が言った。「はい、何やろ?」妹が返すと 「そろそろ、伯父様も戻られるやろ。すぐ着替えて、又出かけられる様にしとこか」 「うん、そやな。余り遅くなってもあかんし・・」話の傍ら、由香は、帰宅を中条に LINEで伝える。案の定、彼からは「これから帰るので、用意をして待つ様に」との返事。
「それでな、お姉ちゃん・・」今度は 由紀が言った。「うん、何やろ?」由香が返すと、こう続けた。「伯父様、昨日やってないから、あの欲求 きっと溜まってはるやろな?」 「ハハ、アンタの想像は、直ぐそっちやな。でも、間違うてないで~!」姉は、苦笑で応じた。
「お帰りなさい!」 「二人も ご苦労やった!初日、順調そうで良かった」 「はい、おおきに。お蔭様で!」夕方の挨拶を経て、正装から平装に替えた三人は、再び施錠し、階下の駐車場に控える 中条の車に乗り、居所の北西にある商業施設(ショッピング・モール)へ。帰宅ラッシュの気になる時間も、思った程の混雑はなく、10分程後、到着。
夕食場所の 和食店の予約時刻には少し間があり、三人は、施設内のゲーム・コーナーで 暫しの間過ごす。中に、中条も気に入っている、クレーン・ゲームがあり、これを試す事に。初め、中々操作が難しかったが、500円程つぎ込んだ所で、当たりがあった。
我国伝統技術などを伝える 夜の TV 番組「和風総本家」のイメージ・キャラクター「豆助」に似た、唐草のクロスを纏った 小さめ犬の縫いぐるみが、中条の標的だ。しかし・・「よーし、何としても Kuso助を捕まえるぞ!」 人気のキャラ「豆助」も、中条にかかれば「kuso助」になり下がる。
時間にして十数分後、遂にゲーム・キャラを手中に収めた。「よしよし、Kuso助ゲット、ゲット~!」・・たく、首を揺らして苦笑する美人姉妹の出方を意にも介さず、好い齢をしてはしゃぐ中条であった。この「Kuso助」後で、とんでもない役を担うことになるのだが、それは次回辺りに触れたい。
(つづく 本稿はフィクションであります)
今回の人物壁紙 JULIA
中村由利子さんの今回楽曲「テイク・ミー・トゥ・ザ・ミッシング・アワーズ(Take Me to The Missing Hours)}下記タイトルです。
Take Me to The Missing Hours