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ちょっと入淫 第1話「対面」

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「あぁ、バカだなぁ・・」至近のコイン駐車場(パーキング)に車を停め、公園に現れた中条 新(なかじょう・しん)は 目にした光景に、呟いて反応す。場所は N市中心部の金盛(かなもり)公園。JR東海道線や中央西線、名豊電鉄本線沿いに 東西に数十m、南北に数百mに渡って広がる、細長い敷地の公園だ。多くの桜並木も整備され、春の見頃には N市屈指の名所としても賑わう。

時季は 曇天の真夏の盆明け午後。花の後、これも鮮やかさを誇った葉桜も、秋へ向けて その容色の盛りを過ぎる頃だった。その公園に足を踏み入れた男は、視線の先のベンチに座る もう一人の男の姿を追っていた。右の傍らに、古びた婦人自転車 所謂「ママチャリ」を置き、対する左の傍らには、連れて来たらしい三匹の小型犬が控える。自転車には、どうやら一定量の空き缶が入った 大き目のビニール袋が括り付けられているらしい。背格好は、身長は 中条とほぼ同じ 170cm位だが、やや格闘家の様な貫禄を備える。一見浮浪者(ホームレス)の様な風情だが、夏の着衣と履物は 中条同様 小奇麗だ。

「宮城さん・・」背後で見ていた男、呟く様に声かける。「おー、中条じゃねぇか。暫くだったな」座っていた男は、気が付いて振り返り、こう返した。男の名は 宮城一路(みやぎ・いちろ)。中条も通った、私立中学・高校一貫校の一年先輩。両時代に亘り、「競歩部」に在籍したサークル・メイトでもあった。今は 金盛公園から少し離れた下町で、父親から継いだリサイクル関連企業を営んでいるはずであった。つまり 曲がりなりにも「会社々長」なのだが、仕事の合間に 愛犬たちを従えては 個人的に空き缶回収とかをやっている。彼は、この行為が好きなのだ。

宮城を取り巻く三匹の犬共の行動は、全く統率が執(と)れていなかった。彼のすぐ横にいる 外来種「パピヨン」らしい一匹は、図々しくも 主の男の傍らに陣取ったまま動かず、他の二匹(これも外来種「ポメラニアン」らしい)は、繋いでいる手綱(リード)が長めなのを良い事に 男から少し離れた木陰まで往復したり、はた又ベンチ上で、己の尻を追い回す「グルグル踊り」に興じたりしている。

「呆れたぜ・・」中条は思った。「世に『バカ汁三杯』てな言葉があるらしいが、宮城さんは『バカ犬三匹』てとこだな・・」そう心に描きながら「お変わりねぇ様で、何よりです」 宮城「ああ、有難とよ。お蔭でボチボチやっとるわ。これはまぁ、気分転換と健康保持の為の余興ってとこかな・・」と返す。中条「ハハ、ご健康の為なら結構な事ですな。じゃあ、お会社は普段通りですかい?」

宮城「ああ、それな。今日までは盆休みな。明日から普段通りの予定だが・・」 中条「そうですか。俺んとこと同じだな。道理でゆっくりされてたんだ・・」と応じ。この間、宮城の周りをうろついていた犬二匹が、中条に気が付き「ワン!」と短く啼きながら 彼の足元に纏わりつき始める。宮城の知人らしいと分かると、妙に馴れ馴れしくなった。

「利口なワンコですね」中条が(世辞で)反応すると、宮城「有難とよ。こいつらチンケなのは事実だが、番犬としちゃ優秀だ。一緒に出掛けても、他人(ひと)様に危険を及ぼす様な事ぁせん。まあ安心だ」 中条「そんなら良いですね。見かけによらず頼もしい・・か。あ、ご免なせぇ。これ、あくまで一般論ですから・・」 宮城は笑って「ああ、分かってるよ。そう気を遣う必要ねぇってば・・」

暫く、肩の力を抜いた様な談笑が続いた所へ、Sタクシーの空車が着いた。中条の甥も通う総合予備校「佐分利学院」や、そこの元講師で、中条と交際する伊野初美(いの・はつみ)の現勤務先 情報関連企業 F・I・T(株)他とも法人契約を持つ、主任運転手 永野 光(ながの・ひかる)が駆る車だ。身長は、宮城や中条より数cm高く、知人の大学生 阿久比 周(あぐい・あまね)に近い雰囲気の好男子。軽快な、夏の制服(ユニフォ)上下姿だ。

「中条さん、お疲れ様です。日頃は、有難うございます!」 「ああ永ちゃん、お疲れ様!休憩かい?」 「ええ、早朝から主なのだけで 3件、他に小口幾つかこなして 今昼飯が終わったとこでして」 「おー、そうか。ちょっと位話せるよな。俺 盆休の続きなんだ。忙しそうで 何よりだな」 「ええ、お蔭様で。所でお車は?」 「対面のコイン駐車場(パーキング)の中さね。まあ居てもせいぜい小一時間だし、その間の駐車代なんて 知れてるからな」 「・・ですね。自分たちは、余程横着でなければ 警察さんからも大目に見られてるけど、路上でレッカー移動食らうよりは まだ率が良いでしょう」 「そうそう、そういう事だな・・」

中条との会話を区切った永野は、ベンチに座り続ける宮城に向け一礼。「初めまして。Sタクシーの永野でございます」 「おー、永野君か、ご苦労様。中条とは知り合いみてぇだな」宮城、一旦立って永野の方へ向け、返す。「はい、お陰様で 今は随分お世話になってますね」 「そうかぁ、そりゃ良い。昼勤務の時は、よく休憩に来るんかね?」 「ええ、ここは立ち寄り易いですから。狭いながらも トイレもありますし・・」 「ああ、それ、大事だな。道路って どこで渋滞するか分からんから、トイレの在処(ありか)は予め知っとかないかん。交通安全の為の嗜(たしな)みでもあるしな」 「・・ですね。ホント、心得とかんといけません」暫し談笑が続いた後・・

永野「ところで皆さん・・」 「はい、何だろ?」宮城と中条が返すと、彼は「あのトイレ、実はちょいと曰(いわ)くつきなんですよ」 宮城「ほう、そうか!?」 中条も「初耳だな。是非聞かせろや!」 永野「はい、それでは・・」と続けた。「自分が まだ駆け出しの 10年は前だったんですが、あのトイレで ちと出来事(ハプニング)がありまして・・」 宮城「面白(おもろ)いな。続きを聞かせろ」傍らで、中条も縦に頷く。永野「では続けます。自分ちとは別会社だったんですが、休憩中の運転手の一人が、たまたま巡回してた 清掃管理の女性と『大』の個室にしけ込んだんです」 

宮城「ハハ、昼間からかよ?」 永野「はい、その通り!まあ無理やりでなしに、なりゆきで どちらからともなくだったらしいんですが、その男、年長の管理の女性に、暫し尺ってもらったって話ですよ」 今度は中条が「ハハ、そりゃ凄いな。白昼堂々たぁ気に入った。まあ『本番行為』は場所と女性の年齢から無理筋としても、そう悪い話じゃねぇな。ねぇ、宮城さん」 聞いた彼「ああ、まあ『女なら何でも良い』て条件付きならな。所で 達して発射したかまでは知らんかね?」と薄笑いを浮かべ、反応す。「ああ、ご免なさい。そこは聞き漏らしましたですが・・」申し訳なさそうに返す永野。その頃には、中条、永野・両名の足元に ポメラニアンが一匹ずつ座り込みを決め込んでいた。

「ああ、いやいや・・ここのトイレにゃ そんなエピソードがあるんだ。良い初耳やったよ。ホント面白(おもろ)いわー!」宮城はこの逸話を聞き、かなり満足した風情だった。中条も「そうか。いや、俺も初耳だった。あの狭さじゃ無理だって初めからそんな印象があったしな。いや、永ちゃん 有難う!」 永野「こちらこそ、お粗末様です。さて、もう少ししたら 自分は出撃をと・・」その時、彼の言葉尻を掴む様に 宮城が言った。

「皆、丁度良かった。この話はしといた方が良さそうだな」 「はい、そう言うお話なら伺いましょう」中条と永野が 声を揃えて反応すると、宮城は「実は俺、ちょっと入院する事になってな・・」 「何と!肝臓とかの不調ですか?」 「うん。まあ短期で済みそうなんだが、速やかな入院を、とお医者さんに指示されてんだよ」 「分かりました。いつ頃からでしょう?」 「明日の午後からだ」 

永野「ありゃりゃ、随分急ですね。入院中、お会社は大丈夫なんですか?」 「うん、それも一定段取りつけて、一応安心レベルにはしたんだよ。ほれ、娘さんが佐分利学院で講師やってる、山音エコロジー社の社長にかけ合って、留守中を一定見守ってもらう事にしてな」 中条「山音エコロジー社ね。分かります。あそこの令嬢は、初美の親友でして。その絡みで、良く存じてる訳で・・」 

宮城「そうか。中条のよく知ってる先なら 尚良いな。・・で今日帰ったら、早速準備って訳よ」 永野「宮城社長。恐れながら ご入院先伺っても良いですか?」 中条「更に恐縮。主治医の先生のお名前も訊いちゃいけませんか?」 「ああ、それな・・」宮城は曖昧に返しながら「二人、近う寄れ・・」中条と永野を招き寄せる。そして、各々の耳にひそひそと 病院と主治医の名を告げた。その瞬間・・「!」聞いた二人の顔に、緊張が走った。(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 天使(あまつか)もえ
今回作の音楽リンクは、バンド「カシオペア(Casiopea)」のリーダーでもある 
野呂一生(のろ・いっせい)さんの諸作を取り上げて参ります。
初回は「インフィニット・フライ(Infinite Fly)」下記タイトルです。
Infinite Fly

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