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ちょっと入淫 第26話「夕景」

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夏の日曜午後、曇天の下 入院中の宮城一路(みやぎ・いちろ)を見舞った 4人は、大声では言えぬ事共を含め、約一時間半で 鵜方病院を辞す。階下に降り、駐車場に待つ 永野(ながの)の車に戻る途中「永ちゃん・・」 彼に続く中条が、後ろからそっと耳打ちをして来た。「はい、中条さん。夕方の会食後の事でしょうか?」当然の事だろうが、察しの良い彼は 中条の意図の相当な所まで把握していた。

「好い勘だな。それだよ・・」もう少し後から 由香、由紀の木下姉妹も続いて来る。中条は、彼女たちに悟られぬ様 永野に言った。「そう。つまり室(むろ)さんとこでの会食の後な。まあ訊かずもがなとも思ったんだが、俺んとこに顔位は出すんかなぁって思ったからだよ」 

聞いた永野「有難うございます。彼女たちも来られてる事だし、今夜は挨拶程度にしとこかなぁとも思ったんですが、中条さんがそういう事なら お言葉に甘えても良さそうですね・・」 この時中条は、永野夫人・真昼が 事情で翌日まで実家に戻る事を、彼から聞いていたのだ。

中条は続けた。「奇遇だなぁ、永ちゃん・・実はよ、俺の方の初ちゃん(交際相手・伊野初美の事)も、実家に戻ってる日なんだが・・」 永野「ハハハ、何だか『出来過ぎた偶然』みたいな感じもしますが、まあいいか。今日の仕事は 待ち合わせの前までですから、それなら割合ゆっくり飲めますねぇ」 「まぁ『その後』を含めてそんなとこだな。お互い『鬼の居ぬ間に』みてぇで恐縮だが、楽しみにしとるわ」 「ああ いやいや、こちらこそ『その後』を含め 楽しみにしてますよ。まあ気をつけて戻らないとね」 「それだよ。一番大事だよな!」 この間に永野は、中条に反応しながら 車を出す準備。

往路同様、後席に姉妹を迎え 一旦中条の居所に戻ったのが 4pm前。「ラッキーですよ。これから JR中央駅乗りで、本社近くまで行かれるお客がいらすんです。それと雑用で、今日は終了です!」中条の勤務先タクシー券で 精算を終えた永野が言った。「ああ、好いねえ。永ちゃん、この後もついてんじゃねぇか。まあ、そんな時は『問題』もそれなりだから、気をつけてな」 「有難うございます!お互いにですね・・」 「うん、それじゃ、直で室さんとこで 6pmに!」 「はい、では後程・・」居所(リヴィング)のある高層住宅の構内から公道へ出る 永野の車を見送ると、中条たち 3人は、再び部屋へ。斜め向かいの屋上に目を遣ると、丁度例の犬共 4匹がけたたましく駆け回り、転げ回っている所だった。

「まあ、あの『気狂い踊り』も せいぜい今の内に見といてくれると良いな。明日朝は 宮城さんが退院予定だからさ。或いは見られねぇかもってとこだからな」空調(エアコン)を入れ、姉妹に席を勧めた中条は アイス・コーヒーの準備をしに厨房へ。妹の由紀が TVを入れると、丁度プロ野球試合の中継をしていた。地元球団 NCドラゴンズと関西の雄 HEタイガースの 中京ドームが舞台の三連戦最終日。高校野球夏季大会の絡みで、夏は本拠地球場が使えず 遠征の多いタイガースだが、 この夏は頑張りが光り 今回の三連戦中の二戦でドラゴンズに勝利。この日の最終戦も、微妙な拮抗を見せる接戦、姉妹は気を良くしていた。

「ホンマ、この調子で 今日も頂きやで~!」と姉・由香が気張って言えば、妹・由紀も「せやで~!何たって 勝ち越しとるからな~!今日は正直、どないなっても安心やな~!」と応じ。画面に流れる野球試合の模様も、窓外で騒ぎ、駆け回る犬共の元気な姿も、姉妹の気分を昂揚し、心地よくするに十分だった。

中条「お待たせ。さぁ、クール・ダウンな・・」 姉妹「おおきに、有難うございます!」各自にアイス・コーヒーとその連れ合い「うなぎパイ」を配り終え 一旦厨房に戻った男は ほくそ笑んで呟く。「まぁ、今日までのドラゴンズの負けは『価値ある代償』だて。うんうん、タイガースに花持たせて正解や。俺と永ちゃんは、この後 頂くものをしっかり頂くって事でな・・」 そしてその後、何喰わぬ顔で 居間へ。

「どうだ。具合は?」中条が訊くと、TV画面をチェックしていた由香が「おおきに!アイス・コーヒー 今日のもバッチリ冴えてます。流石(さすが)伯父様やわ!」 妹の由紀も「うんうん、とてもグーですよ~!大声や言えへんけど、野球の方もね!」 聞いた中条は苦笑した。「まあ、仕様がねぇよ。こんな流れになる事だってある。むしろさ、タイガースが 夏場の遠征を頑張ってこなしとるって事やろう?」 「・・ですね。あたしたちも そう見とるんですよ~!」姉妹は、そう応じた。

野球試合の中継が終わって 5:30pm過ぎまで、居間にての談笑が続いた。TV画面の 試合の見せ場が映されるのと、窓外で騒ぐ犬共の「愚かな見所」が重なる事もあって、視線移動が忙しかったが、姉妹も中条も 結構楽しんだ。この時、TV画面から目を離した由紀が、窓外で晒された犬 2匹「マル」と「サンコ」の怪しげな交わり(犬の交合によくある後背位!)を目にしたのだが、TV画面に嵌(はま)っていた中条は 気がつかなかった。

「暫く 黙っとこうな。この事は・・」由紀は思った。曲がりなりにもスマホのカメラで捉えたこの光景、結構意味深だったのだが。とまれ、試合結果が分かるより先に TV中継が終わったのは反(かえ)って良かったかも知れなかった。5:30pmになると、中条が在宅時には必ず見るお笑い番組「笑点」が始まる。これを合図に 3人は出かける準備を始めた。

先刻、宮城の見舞いから戻ったままの服装で良く 用意にそれ程手間はかからない。それでも姉妹は、長めの髪型やブラウスの上方を直したりするのに、多少の時間を要した。空調も、早めの OFF。そうこうして、結局は「笑点」の「大喜利」パートまでほぼ見終わって部屋を施錠、例により EVで階下に降り立つと、丁度玄関傍に 徒歩で同じ場所へ向かう 普段着に替わった永野がさしかかる所であった。

「あは、永野さん 素敵!」 「いや~、ちと恥ずかしい・・なぁ」中条よりはあか抜けた 夏の上下に軽めのウォーキングを履く。「ホントは、草履かサンダルにしたいとこですが・・」と永野。中条が「永ちゃん、分かるよ。俺もホントはそうしてぇが、酒気入ると よく踏まれたりして危なねぇのも事実だしな」と応じると、彼は「ああ、そうそう・・それですよ。あれをされると不愉快は事実ですが、ああいうとこだと、予め分かってますもんねぇ」 「いや、それで正解だよ!」そう言い合ったりしながら、共通の知人でもある室 静男(むろ・しずお)の営む会食の場「居酒屋 MURO」へ。

「いらっしゃいませ。おー (中条)新さんに永ちゃん、暫く!凄いな。噂の美人姉妹さんもご一緒やね!」 「いらっしゃいませ。伯父さん方、ようこそ!」室と、この日出ていた阿久比 周(あぐい・あまね)が迎えてくれた。数少ない 水入らずの座敷。姉妹と周は、言葉抜き 目で会釈。この時は、由香と中条、永野が 初め生ビール、その後は由香がレモン・サワー、中条と永野が冷酒、酒気NGの由紀は、周の恋人花井 宙(はない・そら)が来店した時と同じく 初めペリエの後 烏龍茶の流れ。

食事の方は、中条の意向もあって、生ものが極力避けられた。もずく酢や海藻サラダ、冷奴(ひややっこ)の他は ばい貝を含む煮物や天ぷらなどの揚げ物、締めくくりの茶漬けと果物(フルーツ)などなど。室や周の腕を信じない訳ではないが、万一の場合を考えた選択(セレクト)だ。「この中の誰も『あの事』で寝込ます訳にはいかんからな。分かるだろ?」の中条の言葉に、後の 3人は静かに同意した。

酒食の席がはねたのは 8pm過ぎ。10pm過ぎまで店を守る 室と周に挨拶の後、揃って中条の居所へと戻る。「さて永ちゃん・・」彼は言った。「はい、何でしょう?」永野が返すと「今夜はさ、先にシャワー使ってくれんかな。俺、寝酒の用意もしてぇしな」 「いいんですか?」 「ああ、それでいい・・」 とりとめもない雑談を交わしながら 4人は EVで上階へ。

部屋へ戻り、空調を入れて窓外に目を遣ると、暗くなった斜め向かい家の屋上には、相変わらず 4匹の犬共が蠢(うごめ)く様子が認められた。「永ちゃん、まあ見たれや・・」 中条に促された彼は、その方を向く。そして・・「ああ、宮城社長の愛犬たちですね。暗いとこだと怪しいけど、お宅や公園で見るより元気そうですね」 「・・だろ。あれで朝昼なんかは盛大に吠えやがる。様子は分かるな・・」 「ええ、まあね。ですから『いつまでも』は具合が悪い訳・・か」 「そうそう。ただこれも、今夜までやろな。あの方 明日は退院やろうから、この光景も今夜までと思う訳よ」 「そうですか。ならばせいぜい目に焼き付けておきますか・・」 二人の男は、笑った。

傍らでは、姉妹も美しい顔を輝かせて見入る。「マルちゃんとお友だちの『元気会』も もうすぐ終わりらしいわ。せいぜい見とこや・・」 「せやな。又暫く見られへんし、ここへも来られへん事やし・・」 犬共の動きに気を取られている姉妹の様子を見て、永野は言った。「じゃ、中条さん。じゃなくて新さん・・」 中条「うん。あの事やろ?」 「ええ、先にちょっとトイレに寄ってから、シャワー使わしてもらいます」 「いいよ。そうおしよ・・」 会釈で応じた永野は、中条の居所に備える 己のタオルと線面具を携え、ひとまずトイレへ。すると・・「由紀、永野さん、トイレらしいで・・」 「んにゃ。ほなら、あたしたちも・・」示し合わせた姉妹は、窓側から向き直り、静かに後をつけ始めた。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 鳳かなめ
野呂一生さんの今回楽曲「サンセット・グロウ(Sunset Glow)」下記タイトルです。
Sunset Glow

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