2ntブログ

記事一覧

情事の時刻表 第3話「痕跡」

29daa68b.jpg
宮城、そして彼を送る永野と別れた中条は、勤務先トップの実妹夫婦から頼まれていた買い物を済ますと、そのまま車を交際相手 伊野初美(いの・はつみ)の居所へと走らせた。日中降りしきっていた雨も、少し弱まる気配を見せる。「悪い、待たせた!」 「いえ、大丈夫よ」少し遅れるも、彼女はそう気にしていない様だ。

「暫くだったな。夕飯どうする?」 「うん。久しぶりで内飲みしたいな」 「そか、分かった・・」大き目の肩バッグを携え、まだ薄目の上衣にゆったり目の長パンツ、ウォーキング履きという平装備の初美を助手席に迎え、ひとまず居所北方の商業施設(ショッピング・モール)へ。雨天のせいもあってか、普段の土曜日程には混雑していない。「良かったわね。こんな風じゃないかって思ったりしたのよ」 「おー、そうか。初ちゃんの勘、相変わらず冴えとるなー!」中条は、お世辞抜きで感銘を表した。

ワイン好きな初美に合わせたミート・ローフやスモーク・サーモン、セロリとかの野菜や果物が何種か、それに絶対落とせぬブルー・チーズなどなど。チーズと言えば勿論、中条好みのブラックペッパー・チーズも買った。赤ワイン「十勝トカップ」は、既に彼の手元にある。居所に着く頃には、雨脚はかなり弱まっていた。

初美が食材や飲み物の下準備などをする間に、中条が入浴の用意。湯が整うまでの半時程 居間(リヴィング)で TV番組などチェックしていると、窓外の斜め向かい 商家「松乃家」屋上に、あの「不埒者」が姿を現した。この「不埒」とは あくまで中条の視点なのだが、一般の視点からも一定はそうなのかも知れない。

「又・・欠伸(あくび)しやがって!」だらしない様子で口を開け、鉄筋コンクリ建物屋上で徘徊する犬を 男はこう罵った。その上で「宮城さん、『サンコ』に子が授かって良かった・・幸せかもなんて言ってたが、俺に言わせりゃ『これの何が幸せだ!?』て事だよ。いいか、その子の親父はこのバカ犬の『オマル』だぞ。こんな奴に犯され孕まされて、よくまあそんな呑気な事が言えるもんだ。彼も何かい・・『幸せ』の意味を取り違えとる様に思えてならんわ。所謂『倒錯』て奴さね!」

ブツブツとその様な事を、喚(わめ)き気味に呟いている所へ、夕食の下準備を区切った初美が顔出し。「新(しん)さん・・」の呼びかけに、中条「ああ悪い、気にせんでくれ。又あのアホが上に出て来て 芳しくねぇ『晒し』をしたもんでな・・」 「ふふ、それって『オマル君』の事かしら?」 「その通り!まあ見たってくれ。今もさっきからあのザマだ。あれでもうすぐ親父だっていうんだから、呆れるよな」 「でも、未だに『不発』の貴方と どっちが立派かって言えば、難しいわね」 「ああ、難しい・・な。まぁまぁ・・」と宥(なだ)め気味に返した中条だったが、今の「通い婚」状態に 彼女が痺れを切らしているらしい事も、薄々承知はしていた。

「もう、二年目になるかな・・」渋面を作る一方で、男は思い返していた。そう、前年の初夏 北隣の F県下の取引先都合で車での外出ができず、やむなく乗った JR中央西線・復路の列車が、偶然に二人を引き合わせたのだった。「あの時、車で往来してたら・・」の想いは、それは今でも 脳裏の片隅にあった。勤務先にあっても、経営陣の親族・・特に専務の実妹、陽乃(ひろの)からは「いつまでも『煮え切らん』ではあかんで!」と、糾されている折でもあった。

「初ちゃん、話の意味は分かるよ・・」中条は、少し湿っぽく反応した。「早くそうなる様に、俺も努めとる所だて。齢の事もあるし。しか~し!」 「しか~し!何なの?」初美が返すと、彼は「それにしても、ちょこっとで良い。焦らさんで欲しいって事だよ」 「その『ちょこっと』が曲者なのよね。まあつき合い出して二年目に入ったとこだしさ、もう少しだけ 時間あげてもそりゃ良いけどさ・・」 「ご理解有難と。恩に着ます。しか~し!」 「はい・・」 「俺は絶対、貴女から逃げやせん。これは確約するわ」 「分かった。まあ信じましょう。その姿勢を見たいんだけどさ・・」 「はい、何ぞ?」 「久しぶりで、お風呂一緒にしようよ」 「いいでしょう・・」

施錠を確かめ、脱衣し生まれたままの姿になると、初美と中条は浴室へ。少し時間を要する初美が 洗髪とボディ洗いの間に、中条はかけ湯の上 浴槽へ。「好い眺めだ・・」既に三十路を少し過ぎたとはいえ、初美の女体は 好ましい線を維持していた。際立って豊かではないが、好ましい形の 程好い中庸の「胸の双丘」。その頂に、これも程好い色づきの乳頭が聳える。腰上の縊(くび)れは 中条の好みの締り具合を見せ、その下は胸周りより少しだけ目立つ これも好ましいカーヴの臀丘だ。

「初ちゃん・・」男は、呟く様に声をかけた。「はい、何?」返事を得ると、一言「綺麗だね・・」 「有難う。でも何が?」 「何が・・か。そりゃ全部だよ!」男の語尾は、やや取ってつけた様な所があるも、女は素直に受け取った様だ。「どもども。貴方の心がけで、もっと綺麗になれるかもよ」 「ハハ、言うと思った。善処しやしょう!」暫くは、他愛もない会話が交わされる。

中条は続けた。「何年か前、週刊誌の記事で読んだんだが・・」 「はい、何?」 「新婚でさ、風呂場で『あの事』が好きな夫婦がおってな、入浴の折に何度か実行したんだが、やっぱり不具合があったんだって。何だか分かるよな・・」 聞いた初美は笑いながら「ふふ・・うんうん、分かる分かる。実行して燃え上がりゃ、あの好い喘ぎ声が 近隣にタダ漏れだもんね。結局それが、周りに筒抜けに聴こえちゃったんでしょ?」と応じた。

中条「初美先生・・」 「はい・・」 「その説明、お見事です!」 「ハハ、やっぱり。・・でその後、どうなったの?」 「その後はもう分かるだろうけど、そりゃもう不良な展開だよな。近隣で評判になっちゃってさ、はっきりした話じゃねぇけど 盗聴しようとした輩もいたらしいな。で 結局は転居しましたってさ」 「ふぅん、やっぱりね。場所はここみたいなマンションだったの?」 「そうだな、間取りこそ違え 似た感じの住まいだったらしいよ」 「ハハ、そりゃ NGだわ。お風呂でそんな事しちゃ、大きな音がして拙いって 分からなかったのかしらね?」 「それ、意外に難しいかも。だってその時、貴女の言う「燃え上がる」状況じゃ あれこれ考える余裕なんかねぇだろうし・・」浴槽の中と洗い場で、二人は目を合わせて笑った。

「所で・・」洗い終わった初美が言った。「ああ、分かるよ。『浴槽替われ』だろ?」中条が返すと 「それもだけど、ちょっと貴方に試したい事があるの。ちょっと堅いけど、ここに腹這いになって」と指図。「了解。あの事を試す気だな・・」呟きながら、男が応じた。それを見て女は、男の背後からボディ・ソープをその身体に塗り付けて行く。「ほう、泡姫ごっこかね。久しぶりだなぁ・・」中条、感慨深そうに反応す。「たまには、気分転換にもなって良いかなって・・」 「好いとこに気がついたな。その通りやよ」男は、女の機転を褒め称えた。

うつ伏せになった中条の背後に 初美が跨(またが)り、プロの風俗嬢にも劣らぬ、濃厚な泡踊りが披歴された。「初ちゃん、上手だ。続けてくれるか?」 「有難うね。誤解しないで欲しいけど、こんな技も、貴方だけに仕掛けるんだからね。これ、ネットで調べたら出て来たのよ」 「そうらしいな。風俗関係しか知らん様な、濃厚な技法も載っとるらしいし。しかし・・ああ、好い感じだ」背後からの愉悦に、男は暫し身を任せる事にした。

「新さん、所でね・・」初美が、言葉を継いだ。「はい、何ぞ?」彼が返すと 「お風呂もそうだけど、特に居間と寝室で感じたんだけどさ」 「はい・・」男の返事が、やや堅さを帯びた。初美「この夏終わってから、一度や二度 ここへ来たけど、どうもあたしの使うのとは違う香水の匂いがしたの。気のせいかしらね?」 「ああ、いや。あれから一度は本荘(小町)先生も覗きに来られてるし。勿論昼間な。俺、それ以外は 特に覚えはないんだが・・」中条は、とぼけた様に返した。

初美、更に続けた。「新さんは、あたしの使う香水が C社の〇番だっての、知ってるでしょ。当たり前だけど、ブランドによって、香り方が微妙に違うのよね。・・で、因みに ここの居間や寝室で感じたのは B社の※番って種類なの。これ確か、小町先生の使われてるのとも違うのよね」 「ああ、それな・・」初美の話を聞きながら、ようやく気持ちが整理できた中条は、言葉を返した。

「この夏、大坂にいる T&K建装の 木下さんちの由香ちゃんと由紀ちゃん姉妹が、この辺へ来た挨拶兼ねて 二度位立ち寄ったんだ。勿論、した事は『茶話会』程度な。一度だけは食事もした。その事は、同席した Sタクシーの永(なが)ちゃんも知ってるよ。まあ、香水ってのは 座っただけで香りが乗り移る事もあるらしいから、それは俺の注意が足りなんだかも知れん。許せ」

初美「仕様がないわね。まあ、その申告通りと理解しておくわ。所で新さん、下の『男』は、ちゃんと熱くなってくれてるかしら?」 中条「そりゃ勿論。もうどうか・・制御(コントロール)が怪しくなる位ぇのレベルでね。でも、さっきの新婚さんの真似はいかん。ちゃんと風呂上がって一発・・じゃなかった失礼!一杯やってからの話って事だよ」 「ふふ・・そうよね。もう十代とかの若造とは違うんだからさ、新さんはその位の抑えは利くと思ったのよ」 「分かってくれて、有難う。あ・・マッサージもな。俺、先に上がって酒食の用意してっから、ゆっくりお入りよ」 「有難う・・でも」返事をしつつ、初美は呟く。「まだまだよ。もう少し追及するわ。貴方の弱い『挑発』かたがたね・・」
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 裕木まゆ
今回の「音」リンク「帰らざる日々(The Begone Days)」 by久石 譲(下記タイトル)
The Begone Days

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

hakase32

Author:hakase32
愛知県在住の後半生男です。恐れながら、主に18歳以上限定内容を記して参ります。

お手数ですが、拙各稿を初めからお読み下さる場合は、下方にあります月間アーカイブ他のご利用をお願い致します。
他ブログを含め、拙記事の無断転用及び引用は ご遠慮下さい。

下記ランキングに参加しております。
クリックをお願いできれば幸いです。

官能小説ランキング

アクセスカウンター

愛と官能の美学

Shyrockさんの R18読み物集。他の作者各位も多数リンクされています。入口は、下記タイトルです。

赤星直也のエロ小説

赤星直也さんの R18読み物集。入口は、下記タイトルです。

未知の星

赤星直也さんの R18読み物集もう一つ。他の各位の作品も収録されます。

Mikiko's Room

Mikikoさんの、カテゴリー豊富な R18読み物集。独自視点の旅日記も好感です。

Adult Novels Search

R18 読み物の検索サイトです。

ブロとも一覧

拙バナーです

知人様より、優れたバナーを賜りました。必要時はご利用を Produced by Shyrock

もう一つの 拙バナーです

知人様ご厚意により、拙バナー追加編も賜りました。必要時はご利用を。 Produced by Shyrock

清き一票を(笑)

下記ランキングに参加しております。

日本ブログ村バナー


にほんブログ村 →できますれば、こちらも応援を・・

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

月別アーカイブ

これまでの拙連載「想いでの山峡(やまかい)~林間学級の秘密(2016=H28,9~10)」と「轍(わだち)~それから(2016=H28,11~2017=H29,2)」  「母娘(ははこ)御膳(2017=H29,3~6)」  「南へ・・(2017=H29,6~8)」 「交感旅情(2017=H29,9~12)」 「パノラマカーと変な犬(2018=H30,1~5)」  「ちょっと入淫(2018=H30,6~10)」 「情事の時刻表(2018=H30,11~2019=R1,6)」 「レディオ・アンカーの幻影(2019=R1,11~2020=R2,5)」 「この雨は こんな風に聴こえる(2020=R2,6~2021=R3,3)」も お読み頂けます。