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情事の時刻表 第11話「予後」

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「おいおい初ちゃん、見ねぇ方が良いぞ」との牽制も、余り意味がなかったかも知れない。「あは『オマル』君、またやっちゃったね」ホット・コーヒーのカップを携え、窓際に立った初美は、斜め向かい家の屋上で晒される 不良犬「マル」の「アホーマンス」を結構楽しんでいる風情。朝食をほぼ終わるも、前夜の「ノーパン状態」が解消されたかは定かでない。

「あれなぁ・・」諦め顔で、やはりコーヒー・カップを手に 並んで立った中条が言った。「今朝なんかは晴れだからまだ良いんだが、雨の日なんかは更に質が悪い。アイツ、わざわざ降りの強い日に出てきやがる事があってさ」 初美が「まあ、雨でも出て来る事があるの?」と訊けば 「そうなんだよな。梅雨の頃の土曜にさ 一人で外見てたら、結構な雨降りなのに、屋上やなしに 直ぐ下のヴェランダに出て来やがったんだ。それも欠伸(あくび)しながら・・な」 「ハハ、面白い。彼の欠伸は、あたしはまだ見てないし。一度 機会ないかな?」

聞いた中条は続けた。「そりゃ又近く 有りだよ。誰でもそうだろうが、この天気で 一体何晒す気だ?て嫌でも思ったよ。そしたらどうだ?いきなり片足上げたもんだから『あ、これはやるな!』て咄嗟に思った訳よ。後はそう、言わんでも分かる『予定調和』だな。悪い頭でさ『ど~せ 雨が流してくれるから良いや』位に思ってたんだろうが!」 「ふむ。・・で、その時も 小水の粗相をした訳ね」 「その通り!しかもだぞ、さっきみたく 不潔な股間をこっちへ向けての放出と来たもんだ!」 「ふふ、確信犯かしらね。彼も貴方の事は、知ってるんでしょ?」 「ああ、まぁな。時々 散歩とかで下へ行くと、直ぐに飛び出して来て、例の咆哮って事だ。全くこっちは 屁でもぶっかけられてるみてぇで、余り好い気はしねぇんだが・・」

限りなく愚痴に近い、男の話を聞いた女は「ふふ・・でもそれ、半分は貴方が仕向けた事でしょ。それじゃ『オマル』君のせいにばかりもできないじゃないの。それにさ ご親族のお話じゃ、彼が吠えてくれるお蔭で いつも遅刻を免れてるらしいし。全部が全部、悪い事ばかりじゃないんじゃなくって?」

中条「ハハハハ、遂に初ちゃんまでそう言う様になったか・・?」 彼女の そんな言葉を聞いた時、本気で「立つ瀬がない」様に思ったものだ。が、それもほんの一時。数十秒も経てば、又いつもの通りに戻るのであった。「まあ、事実は認めるしかねぇかな。確かに彼(アイツ)は、全部邪魔って訳じゃねぇし、遅刻回避に一定貢献してくれてるのも事実だな。去年の夏 初めて屋上に出てるの見たんだが、初めの『邪魔』とか『迷惑』て心情が段々退いてってな。『今みてぇなバカをやってくれるなら、長生きして良いぞ』位ぇの気持ちにはなって来てるとこだった。しか~し!」と、大袈裟に話を区切った。

「はい新(しん)さん、聞きましょう」ニヤリと美しく笑った初美が、続きを促す。中条も応じ「それにしても、あのアホが近く親父になるってのが、どうも受け入れられなくてさ・・」 「まあ、それは『成り行き』でそうなったんだから、余り考えずに受け入れたら良いんじゃない。あたしは女だから、余り抵抗ないってのもあるかもだけど・・」 「確かにな。そう受け取れりゃ良いんだが、あの不潔な股間を見せつけられるとだな、孕まされた『サンコ』が不憫でならんのだわ。あ~、可愛そ!」話を区切った男は、本気で半泣きになっていた。

見た初美「まあまあ、そんなに熱くならないで。貴方が泣くのって、春に新潟の山間行った時、JRの蒸機機関車を見て感涙した時以来位だわ。『C57』とかいう車名だったわね。まあそのお蔭で、あたしが電気機関車の汽笛を聴くと泣いちゃう所を分かってもらえる様になったんだけどね」 「そう、それはくれぐれも気に留めておこうぞ!」気を取り直した風の男は、力を込めて返した。

中条は続けた。「まあ、飼い主の宮城さんも喜んでくれとるし、獣医の先生とも まめに相談とかしながら見守ってる様だから、心配はしてねぇよ。たださ『アホの子』てイメージは、やっぱり付き纏うかなって事だ。あくまで俺の私見だが・・」 「ふふ、随分歪んだ『私見』だこと。宮城さんも、余り好感じゃないかもね」 「ああ、まあ分かってるよ。しか~し、事実だ!」 再び「マル」が階下に身を隠した所で、彼の悪口の様な会話は区切られた。

「さて初ちゃん・・」中条は、話題を変えるべく言った。「貴女がいるからって訳でもねぇが、午前中掃除の応援とかしてもらえると有難ぇな。何、ほんの一時間強位で片付くから、それからゆっくり栄町辺りへ行けば良いだろう。勿論どうするかは、貴女に任せるが・・」 聞いた初美は「その事だけどさ・・」と返し 「さっき浴室をチラ見したら、結構洗濯物溜まってるじゃないの。あたし それ片付けるから、貴方はお掃除をできる所までしたら?午後はあたしも雑事があるから、お昼を挟んで栄町界隈ってのが良いわね。所で貴方、まだ下半身はバスタオル巻いてるだけでしょ?」 言われた中条「ああ、いかにも!そう言う貴女も、まだノーパンじゃねぇのか?」とやり返し、二人は目を合わせて笑った。

朝食を終えた中条は、洗濯を初美の好意に甘え、自らは食器の片づけと掃除をできるだけ。10am過ぎから (勿論着衣の上)N市営地下鉄で栄町へ。ほぼ半日、昼食を挟んで 二人で各所を見て回り、夕方前に 初美の居所前で解散。これ以後、翌 11月の初めまで、二人が深い交わりをする機会はなかった。

初美と中条の 前述の逢瀬から 10日程後。中条の学生時代の先輩 宮城一路(みやぎ・いちろ)は、夏以来続く 月に一度の鵜方病院への通院日を迎えていた。10/20の金曜、曇りの朝。午後は降雨の予報が出ていた。「まあいいや。どうせ今日は、余り仕事にならなさそうだし。せいぜい本荘(小町)先生と、経過を見ながら近況の話でもするか・・」位の気持ちでいた。

採血など検体提出の必要もあって、朝食は抜き。朝方 1H程仕事の段取りや 複数の顧客との連絡を終えると 9am過ぎ、予約の Sタクシーに乗って病院へ。車は例によって主任運転手 永野 光(ながの・ひかる)駆るトヨタ・カムリである。「お早うございます。お待たせしました!」「ああお早う。今日も宜しくな」10分程の短い行程たが、宮城と永野は一通りの会話をした。

「最近、お具合は如何ですか?」と永野が訊けば、宮城「ああ、お蔭でボチボチ良くなって来てるってとこだな。それだし、まぁ本荘(小町)先生との とりとめのねぇ雑談がさ、結構ストレスの解消に効く様なとこがあって好い感じってのが正直なとこやね」「有難うございます。なる程、お医者様だから、普段のお話の肝とかツボも心得てられるでしょうね」

宮城「うん、まぁそんなとこだ。しかし、永野君も好いとこを突くなあ。いつもながら、聞いてて感心するわ。まあプロはそれで普通かもだが・・」永野「何と言っても まだ自分も修行中ですからね。その一方で、後輩の指導もしないとってとこですから そうですね、日々精進って感じでしょうか」 「そうか、そりゃ良いな。話が面白(おもろ)いってのは、プロもだが それ以上に人として期待できるんでな」「有難うございます。言えますね~!」

病院まで後僅の所で、宮城はこっそりと声をかけた。「実はな、永野君・・」「はい・・」永野が返すと 「ここ一連の通院で感じたんだが、本荘先生は 何か俺に他意みてぇなもんも感じる訳よ」「ああ社長、何か覚えがありまして。この夏 ご入院の折にちょっと出来事があった様なのを伺った記憶がありますね」

宮城「その事よ。詳しくは言わんが あの時、入院に絡んで濃い事態が一度はあったのは認めざるを得ねぇって事だ。これからの診察の折。その手に出るかもってかのは考えてといた方が良い様な気もしてるとこだよ」「そうですね。残念な所かもですが、例の事態の可能性も視野に入れるに越した事はありませんからね」「そう、正にそれだよ」会話が区切られて間もなく、車は病院構内に入った。

「毎度有難うございます!」「こちらこそ お世話サマー!」精算を経て 次の現場へ向こう永野と分かれ、宮城は病院受付へ。診察はそう混んでおらず 10分余りで宮城の番になった。「暫くでした」 「宜しくお願い致します!」最初の診察、採血など検体の提出を経て もう一度診察。僅かだが 前回の時より症状、数値共改善され、引き続き経過観察となった。少し変わった感じがしたのは終わり間際。女医・小町が「ところで宮城さん・・」と声をかけた時だった。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 小倉由菜
今回の「音」リンク 「ストローク・オブ・フェイト(Stroke of Fate) by東京スカ・パラダイスオーケストラ(下記タイトル)」
Syroke of Fate

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