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情事の時刻表 第18話「報告」

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「ハハハハ、あ・・いやいや おめでとうございます!」 10月のこの所は、毎週土曜に降雨という気象パターンが続いた。この日 10/21の土曜も、例外に漏れず 降られた。尤も 雨量はそう多くはなかったが。この日 午前で仕事を切り上げた中条は、愛犬サンコが出産を遂げた 宮城宅を訪れて 犬の母子たちと対面の後、連れ立って 例の古風な喫茶店へと流れていた。いつも通り、ホット・コーヒーと豆チャームをお伴に まずは、中条の祝辞からだ。それに、宮城が返す。

「有難とよ。まあまだ一昨日生まれたばかりでさ、目も見えねぇ風だから、暫くは授乳かたがた サンコの傍で育てる事になるだろうが。だけどよ・・」 「はい・・」 「学校が冬休みに入る頃にゃ、一応離乳もできるだろう。その頃見計らって、希望がありゃ、一部譲っても良いかな・・なんて思う訳よ」 「なる程ね。確か 生まれたのは 4匹でしたな」 「そうそう。雌雄各 2匹な。サンコもマルも、一応血統はとちゃんとしてるから、その方は間違ぇねぇぞ」 

中条「分かりやした。そいじゃ、大坂の木下さんちのお嬢さん姉妹に、追って知らせますわ」 「ああ、それ良いな。又 お嬢たちがどうするつもりか教えてくれ」 「了解です。それじゃ、その話はひとまずって事で」ひとまず、子犬誕生の話は区切られたが、中条の胸中には「確かに血統はそうかもだが、どうせ親父はあのアホのオマルだ。つまり 結局は『アホの子』に変わりはねぇんだが・・」との想いも 本音としてあった。

「それでですね・・」中条は、話題を変えた。「小町先生んとこへは、通われてるんですかい?」 宮城「ああ、まぁな。この前は先々週だったかな?今月は、確か 後一回あるよ」 「そうですか。いやね・・来月の初め、あの方は南隣 M県の病院に出張されるとか聞きまして。その折に、何かあるんかなぁ・・なんて漠然と思った訳ですよ」 「ああ、お前の懸念は何となく分かるよ。俺も、ほぼ同じ事を感じてた訳よ」 「やっぱり、出張診療を(蓑み)のにして『あの方』の挙に出るんじゃねぇかってね・・」 「つまり、言っちまえば『男漁り』かよ?」 「まあ、それですね。それでね・・」 「うん。聞くぞ」次の話題に行く前に、中条は 一度深呼吸をした。

彼は続けた。「11月初めのあの曜日の辺は、俺も何とか三連休にできそうなんです。それで、先生に気づかれん様に 出張先に乗り込んで、その方の動きがあったら阻止しようかな、なんて考えとるとこですがね」 聞いた宮城は「まあ、その計算通りに 先生の趣味に制動(ブレーキ)がかけられりゃ良いんだが、そう上手く行くかどうか・・? ま、どうしてもやると言うなら、俺は止めねぇ。その辺は、お前に任せるわ」

中条、更に続けた。「ご理解感謝です。まあこりゃ、言っちまえば小町先生の私事ですから 放置って選択もできますが、しかしまあ もしボロが出れば、彼女だって無傷じゃ済まんでしょう。だから俺は 知人としてできるとこまでやってみようかな、なんて思う訳です。勿論、本業とか 連れ合いになるだろう初美の事まで犠牲にしてやるもんじゃねぇ事は分かってますがね」

宮城「お前のつもりは良う分かった。確かになぁ、俺も入院して薄々分かったが、小町先生は その辺の癖がちと悪いって事だな。まあ何もせんよりはマシかな。うん、俺も現地へ乗り込む訳には行かんが、できるだけ力になるつもりじゃいるから、情報は逐一くれや。又 必要なら何なりと相談してくれよ」 中条「有難うごぜぇます。ホント、宮城さんのお蔭で 心強いです」 「所でさぁ、お前、現地の宿と往復のアシは確保したんか?」

中条「ネットで見てたら、現地に民宿が数件あるみてぇですから、その辺で当たります。後、現地からこちらの予備校に通ってる 豊野 豊(とよの・ゆたか)君が地元の情報持ってる様ですから、訊いてみようかと思ってます」 「ああ、豊君な。看護師の美波ちゃんから聞いたよ。彼に訊くのも良いかもな」 「そうですね。後 アシの方は JRの熊野方面へのフリー切符があるやに聞きました。丁度三日間有効なんで、好都合ですわ」 「そうか、そりゃ良い。ただよ、指定券の都合とかもあるだろうから、早めに押えとけよ」 「了解、感謝です。そこは、早めに動きます」

店内で 小一時間も話し込むと 3pmを回る。中条は、急を装って 宮城に言った。「あ、いけねぇ!宮城さん、申し訳ない。今日夕方、俺んちに初美が来る事になってた!」 宮城「あぁ、バカだなぁ。その辺がお前は抜けてんだよ。まあ又続きは 近く聞いてやるから、今日は解散にしようや。間に合うのか?」 「ああ、はい。ちょいと歩きゃ 地下鉄がありますから、今から直ぐ行きゃ、何とか・・」 「よしゃ 分かった。そいじゃ、何かあったら直ぐ知らせてくれ!」 「了解しやした。今日は、感謝です!」例によって 茶代を宮城に支払わせ、店の前で解散。幸い、雨は小降りになっていた。

半時余りで、城址西側の居所へ戻った中条。勿論、初美の来訪には まだ少し間がある。「よしゃ!この間に、姉妹さんにワンコの事を知らせてやるか・・」 SMSで、大坂に居る木下姉妹の姉・由香に送信す。「由香ちゃん、暫く。まずは良い知らせだ。サンコが無事出産を遂げた。子犬は四匹。母子共に至って元気。今日の昼頃、この目で見て来たぞ。とりあえず、画像も一枚添えておく。このSMSは、忙しかったら夜にでも見て欲しい」 送信して間もなく、由香から返信。「おおきに、有難うございます!ホンマ良い子たちや。元気そうで何より!前のお話で、できたら一匹譲って下さりゃ嬉しいわぁ!」

中条「急がせた様で悪いな。希望は聞いておくわ。確か男の子が良かったな?」 由香「左様(さよ)でっせ~!第一希望は 男の子だす~!」 「こちらこそおおきに!良う分かった。まだ生まれて直ぐだから、対面は暫く先だけどな。冬休みなら余裕だろう。まあ、乞うご期待って事で・・」 「ホンマ、仰る通りですねぇ。ほな、由紀共々楽しみにしますぅ」 「了解。近づいたら、又な!」 「はい、有難うございます!」ひとまず交信を終えた時、中条の脳裏には 当然の様に、姉妹の艶めかしい半裸の姿態がチラチラと去来していた。

次に彼は、念の為もあって 初美に SMSを送った。「新(しん)です。初ちゃん、迎えに行った方が良いか?」直ぐに返信有り。「有難う。待ってたわ。無理なら良いけど、来てくれれば嬉しいわ。こんな天気だし、今夜は貴方んとこで内飲みがしたいの」「そうか、分かった。そういう事なら、これから回るわ」「有難う、宜しくね。待ってる」交信を区切ると、男は 階下の駐車場へ向かった。

車で数分程の 初美の居所で彼女を助手席に拾い、次いで 10分程走った所の 馴染みの商業施設(ショッピング・モール)で諸々の食材を入手、男の居所へと戻ったのは 5pm過ぎ。「何だかだで、結局は好い時間になる。今日も 内飲み食いで喋ってりゃ、結構遅くなるだろう」帰った後も、いつも通り。厨房で 途中までの準備と並行して入浴準備。この所は、二人一緒に風呂を使う事が多くなっている。

想えば、この入浴の一時か 大事な前戯かも知れなかった。中条は 実は初美も、夜の行為は できるなら全裸でしたがっている事を知っていた。しかし、ベッドに横たえた時の 伸びやかな肢体と流れる様なブルネットの髪の様は、やはり彼の目からは、着衣をはだけ、ストッキングを纏(まと)った位の方が堪らなく魅了されるのであった。だから浴室での一時は、互いが全裸で過ごせる唯一の時と言って良かった。

「初ちゃんは、風呂タイム好きだろう」背流しなどをしてやりながら中条が訊くと、初美も「まあ、そんなとこね。だって、貴方と裸で過ごせるの、ここだけだもん」と、少しだけ拗ねた様に応じる。聞いた男は「ああ、そだな。ベッドでも全脱ぎしてぇのは分かるけどさ、俺にとっちゃ 貴女はそうせん方が数等魅力な訳でさ。そこんとこは、どうか分かってくれねぇかな?」「仕様がないわねぇ。まあ、良いでしょう」そう答える初美は、眩しい全裸で苦笑していた。

「所でさ・・」身体をソープで洗いながら、初美が続けた。「うん、聞いてるよ」中条が返すと「宮城社長さんちのサンコちゃん、赤ちゃん生まれたのかしら?」「その事ぞ。昨日、無事生まれたってんで、今日の昼 面会して来た。大丈夫だ。出生 4匹。雌雄各 2匹で、母子共に元気だ。まぁ暫くは目も開いてねぇ状態だし、母親の乳だって必要だろう。暫くは、宮城さんちで育てる事になるだろうなぁ」「ああ、そりゃ当然だわ。そうすると、冬辺りが楽しみよね」「あぁ、そんなとこだ」宮城の愛犬の話題が区切られると、二人は暫しの間 沈黙した。「初ちゃん、それでな・・」「はい・・」「もう一つ 耳に入れときてぇ事があるんだが」そう言いかけて 「いや、今はよそやぁ。内飲みの時 話すわ」と言い換えた。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 佐伯智美
今回の「音」リンク 「流星とバラード」 by東京スカ・パラダイスオーケストラ(下記タイトル)
流星とバラード

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