情事の時刻表 第22話「内申」
- 2019/01/20
- 19:22
10月の後半 土曜日中から降り始めた雨は、翌日曜の夕方近くまで続いた。前夜、初美と事を構え アフターのシャワーを使ってベッドへ戻った中条が、甥・健(たける)の予備校上級生 豊野 豊(とよの・ゆたか)と LINEの交信を終える頃には、彼女はもう夢の中にあった。「今夜も、有難よ・・」美しい寝顔を一瞥した後、AMラジオの深夜番組を聴き流しながら 彼も又 夢路に就いた。
雨音の続く翌日曜朝は、例によって 斜め向かい家屋上に現れる飼い犬「マル」の咆哮で始まった。「・・たく。晴れだろうが雨だろうが、関係ねぇって事だな・・」降りしきる雨間、一つ階下のバルコニーを 犬が吠えながら駆け回っている。足元は濡れて鬱陶(うっとう)しいはずだが、何か楽し気だ。人間でいう「愉快犯」の様な風情も感じられた。傍らの初美は、まだ夢の中らしい。中条は、窓際へと立って行った。
「愉快犯って事はだぞ・・」落ち着かぬ 犬の動きを追いながら、男は思った。「どうせこの後、又粗相でもやらかすんだろうが・・」その想像は、間違いではなかった。少しおいて 中条の視線に尻を向けた「マル」は、やにわに左後足を大きく上げると、設けられている空調(エアコン)室外機からほんの少し離れた壁面に「ジョ~ッ!」と放水を見舞った。
「又 やりやがったな。アホが・・」見せつけられた男は、こう呟いた。「この前もそうだが、こいつが現われると、折角の雨情も台無しだわ。ホント『最高!』が一瞬で『最低!』に逆落としって事で・・」 ぼやく様に呟く所へ、昨夜来のバス・ローブ姿のまま 初美が起き出して来る。「お早う、新さん・・」 「ああ、お早う・・まぁ見たってくれ。もう知っての通りの、仕様もねぇ光景だが・・」
初美「ああ、オマル君ね。ふふ・・まぁ、元気で良いじゃないの。ホントはさ、揶揄しといて 結構楽しんでるんじゃなくって?」 中条「そう言われりゃその通りだが、まあ雨の日も あのザマでさ。些か呆れとるのも事実だよ」 「何んとなく分かるけど、どうかしら?ある意味ね『運命』みたいなもんじゃないかって受け止めよ」 「運命・・か。何か大袈裟だな。つまり『そういうもん』て割り切れって事だよな?」 「そうそう・・」 「ハハ、そうか。言っちまえば『巡り合ったが百年目』てか?」そう言葉を区切ると、中条は思わず苦笑した。答える様に、初美も笑顔を見せた。
「所で・・」中条は言葉を継ぐ。「はい・・」初美が返すと 「訊き難い事だが、まだノーパンかね?」 「まあね。見たい?」 「うん、ちょっとな・・」返事を発した男に、女は「ならば・・」という感じで裾を捲り、前かがみの姿勢で「核心」を見易くして晒す。「うんうん、朝見るのも好いな・・」 しゃがみ込み、見上げる姿勢で、眼前の 下草に囲われた秘溝を、暫し愛で、軽めの口唇愛撫(クン二リングス)による答礼。「ねえ・・」喘ぎ気味に女が訊いた。「はい、何ぞ?」 「今から、もう一度しない?」 「もう一度・・なぁ」男は、曖昧に返す。実の所は、しようか止めようか 迷っていた。暫く後・・
「初ちゃん、やっぱりさぁ・・」 「うん、聞くわ」 「やっぱりさ、回を改めてぇんだな。又近く 夕べみてぇな濃い事はできるしさ、そうなりゃ 今は事後で薄い俺の男精も、元通り濃くなってるわさ」 「・・だと良いわね。でもさ、その頃には あたしが危険日になってるかもよ」 「分かってるよ。その時ゃ、ちょいと日取りをずらすまでじゃんか。俺は それ位の禁欲や制御(コントロール)はする自信あるぞ。貴女もそうじゃねぇか?」 「まぁね。貴方が望まないなら、無理にとは言わない。又次に備えりゃ良いだけの話だし。所でね・・」 「うん、聞くぞ。続けろ」 「こんな天気だしさ、朝ご飯はここでしたいわ」 「言うと思った。そりゃ賛成だ!」そう返すと、男は直ぐ厨房へ行き 茹で卵の準備。
半時程で、コーヒーを含む洋朝食の準備が整い、TV報道番組に目を遣りながら進める最中に、豊から LINEの着信。「伯父さん、お待たせしました。宿が確保できました」 「有難とよ。ご苦労だった。何なら、今日 今から俺んとこで打ち合わせるか?」 「ご免なさい。今日は別件で取られてまして、今週末でしたら伺えますが」 「ああ、それで良いよ。今日はそっちを優先されよ」 「有難うございます!とりあえず今は 連絡先と位置、それに大体の様子を文面でお送りしますね」 「有難う。それで良いよ。世話かけた。じゃ、又!」 「はい、失礼します!」
交信の終わりに、豊は 父親の知人所有の民宿の連絡先とざっとの様子を伝えて来た。彼の実家と同じ M県の外海沿いで、そう遠くない場所だった。説明では、建物や部屋の具合や、寝食の内容は平均以上とかで、まあ安心できそうだった。「さあ、次は交通(あし)だな。初ちゃん、昼飯は、栄町だな」 「うん、良いわよ。あたしも、出たついでに見て回りたいとこもあるし」豊との交信、それに朝食を終え、片付けなどを終えると もう昼近かった。
服装を正し、市営地下鉄で中心街 栄町へ。初美の希望もあり、着後直ぐに 中条馴染みの旅行社支店へ。出かける 11/3は 三連休初日もあり懸念するも、午後発の JR特急「紀伊 5号」で普通指定二席の確保が叶った。先に述べた 熊野古道フリーきっぷ利用なら、往復の普通指定席は自動的に抑えられる様だ。一安心の二人、次いで 初美の希望もあって「東急ハンズ」など数か所を周り、必要な買い物などを行った後 1pm過ぎ、混雑のピークを外し 馴染み処で昼食。「まあ、雨降りで良かったかもね。もしも写真撮りで郊外とかなら大変だったかもよ」と揶揄される中条、苦笑で返したものだった。
「まあ、交通も確保できて良かったね」一安心を以て戻り。茶菓で一服の後、帰宅の初美を送る頃に至って、ようやく雨脚が弱まって来た。「ホントにまあ、終わり際に止むだもの。皮肉なもんだわ」ボヤく様に呟く初美に、中条は「まあ、たまたまこういう時宜(タイミング)だったんだろう」と、努めて冷静に返した。車が彼女の居所前に着くと「じゃ、次は出発の当日だな。まあつつがなく・・」 「貴方もね・・」この時のひとまずの別れは、何か名残惜しさが感じられた。
さてこの二人と前後して、女医・小町は 忙しい鵜方病院や総合予備校「佐分利学院」養護主任など医療活動の合間を縫い、翌月初の 北紀中央病院出張などの準備をボツボツと進めていた。初美と中条が会っていた 10/21の土曜は 午前中が病院、午後早くまで「学院」養護課に詰め、夕方以降は在宅で諸事の対応に当たった。
中条方の「秘事」が佳境にさしかかった同じ頃、小町は 北紀中央病院の女性看護師・瀬野美波(せの・みなみ)と SNSで交信した。「遅くに失礼。今日は土曜だけど、忙しかったかしら?」「お疲れ様です。いえいえ、大丈夫ですよ。ウチの病院もね。先生こそ、お忙しいんじゃありません?」「まあその辺は、貴女も分かる様に 要領ってとこもあるからね。かけ持ちだと 確かに調整とかが要る事もあるけど、今のとこは大丈夫よ」
少しの間 互いの近況や世間一般の話題とかを経て、小町が 美波のいる病院への出張につき、少しずつ斬り込んで行く。「所でさ・・」 「はい・・」美波が返すと「あたしがそちらへ行く間の事は、現状 予定通りよね」 「そうですね。ざっと触れますと、11/3金曜祝日の初日は 午後こちらへ着かれた後、すぐご昼食を経て、病院近くの中学校講堂で、ウチの病院含め 他の先生方とシンポジウムまでは行かないかもだけど、診療関連の討論メインで研修会。先生のご講演は、関心が高そうですから宜しくです。終わりは夕方予定ですから、そのまま懇親会になりそうね。初日は、大体そんな所です」
小町「有難う。二日目の事も、ちょっと話しとこうか。ある意味『肝』だしね」「・・ですね。この日午前が、特別検診で聞いてますよ。今から気を入れないと・・て思ってるとこですよ。笑」「そうそう。良い心がけだわ。宜しくお願いするわね」「はい、了解です。で、午後が病院内で実務向け講習の予定です」「OK。そこは、貴女と力を合わせて乗り切ろうね。笑」「はい、勿論頑張りますよ。この夏そちらへ伺った時の経験が役立ってますが、やっぱり復習も必要みたいですから。笑」「そこは任せといて。それでね・・」「はい・・」「それから院内夕食会だと思うんだけど、その後 もう一つ行事があるの。大声じゃ言えないけどさ・・」「大声じゃ言えない・・か」返信を入力しながら、美波は呟く。「まぁね。大体見当はついてるけど・・」
今回の人物壁紙 黒木いくみ
今回の「音」リンク 「マンハッタン・パウリスタ(Manhattan Paulista)」 by渡辺貞夫(下記タイトル)
Manhattan Paulista