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情事の時刻表 第23話「見当」


「まあ、あの女性(かた)の持病みたいなもんだから、仕方ないんだけどね・・」そう思いながら看護師・瀬野美波(せの・みなみ)は女医・本荘小町(ほんじょう・こまち)に LINEの返信をした。「大声じゃ言えない・・ですね。大体の所は分かりますわ。でも今は、詳しく触れない方が良くありません?」 少しおいて、小町から折り返しが。「分かれば良いのよ。11/3の金曜祝日に、直に会った折でも良い事だしさ・・」 「了解です。そうしましょう」ひとまず、交信終了。

「どうせ・・」少しおいて、美波は一人呟いた。「ウチへの出張視察や講演とかは そりゃ必要な事だろうけど、もう一つ『影の』目的があるのよね。それはズバリ、患者の男たちの『そのもの』を味見する事なんだわ」 そして続けた。「あたしも、その標的の絞り込みには加担させらるわね。まあ覚悟はしてるわ。小町さんのご行状が、表にならない様に細工すれば済む事だし・・」決して暇とは言い難い病院勤務の合間、暫くはその事に時間を割かれそうな気配だった。

「それにしても・・」更に美波の呟きは続く。「小町さんがお越しの あの同じ日取りで 豊(ゆたか)も一度帰って来るのよね。又 是非会いたいわぁ~!」 勿論、美波が豊に会おうとしているのも、暫くぶりの他に「影の目的」があった。言うまでもなく、彼の若い身体と竿(=男根)を 彼女の下方で味わう事にあったのだ。

一週間の後 10/27土曜午後、中条は 己の居所に豊を招いて M県下の 彼の実家近くの宿の事などについて、詳しい話を聞く事にしていた。まず昼過ぎに JR中央駅近くの 中条の馴染み処で昼食の後、彼の車で居所へと流れた。「今夜は 初ちゃんも来れない日だから、良けりゃ泊まってけよ」 「有難うございます!まぁ 成り行き次第って事で・・」豊も、笑顔でこう返した。

「まだ、アイス・コーヒーの方が好いかな?」そう問いたくもなる位、日中はまだ暑さを感じる陽気が感じられる日だった。蝉(せみ)の鳴き声が止んだのさえ、つい先日の事だ。「そうですねぇ。冷たい方が良い位で・・」訪ねた若者は、そう返した。「よしゃ、じゃあな・・」それを受け、中条は二人分を用意した。

よく冷えたコーヒーを嗜みながら、中条と豊は話を進めた。「豊君、面倒かけたな。有難う。場所は、君の実家からそう遠くなさそうだな」 「とんでもありません。お役に立てて嬉しいです。そうですね、親父の勤務先・地元漁協の知人が持ってる民宿でして、設備面は旅館クラスだし、料理も自信があるなんて言ってましたね」 「ああ、そりゃ楽しみだ。初ちゃんも俺も、海鮮は得意だからな。それに好い日本酒でもありゃ、もう文句なしでさ。後少しで、豊君とも杯(さかずき)を交わせるな。頑張れよ!」 「ええ勿論!大学受験を控えて ちょっとしんどいですが、是非乗り越えますよ!」

「所でさ・・」中条が続けた。「はい、伺います」豊が返すと 「この時の三連休って、君も帰郷するんか?」 「ええ、三日ありますんで、親元への顔出しと、お世話になった 瀬野美波さんと会えれば・・なんて思ってるとこですよ」 「そうか、分かった。短いから叶わんかもだが、美波さんや君とも 現地で会う時間が取れると良いな」 「・・ですね。ホント まだ今ここでは分からんですが、イケそうならご連絡入れる様にしましょうか?」 「それが良い。頼むわ!」 「分かりました。確かに!」豊はその夜 中条方に一泊し、他の話題などで談笑の後、翌日昼 雨に祟られて帰ったが、小町と往路を共にする事は、最後まで伏せた。

さて 11/3金曜祝日朝 まず小町と豊が、美波のいる病院もある M県の北紀(ほっき)町を目指すべく 混雑で賑わう JR中央駅にて待ち合わせ。この年の春、豊が 大学進学を果たした阿久比周(あぐい・あまね)を実家に招いた時と同じ臨時特急「紀伊81号」。乗り込む車両も同じ 2号車だが、前回と異なり 上級のグリーン席である。

「どう、少しは寛(くつろ)げるでしょう?」プラットフォームの売店でペット・ボトルの日本茶や缶コーヒーなどを買い、窓側席に落ち着いた小町は 隣席の豊にそう問う。「・・ですね。やっぱりグリーン車は良いなぁ!」後席の客に一言の後、リクライニング式の背もたれを倒しながら、豊はそう返す。当然だが グリーン席は普通席より間隔に余裕があり、背もたれも深く倒せるのだ。

天気にも恵まれた 三連休の初日。臨時といえど、特急「紀伊81号」の乗車率も良い様だ。4両編成中 自由席の最後尾 1号車は立席も複数見られ、他の指定席車 3両も、2号車の過半を占めるグリーン席を含め 空席は僅かだ。「この列車で このレベルの混雑は、盆暮れと5月連休位ですね」豊は小町に、そう説明した。

「そぅかぁ・・なら今日は、一年でも一番混んでるレベルなんだね。じゃあ、余り騒いだり大声じゃ言えない事とかはできそうにないね」小町、残念そうに笑いながら応じ。豊も その言葉の意味を薄々分かっていて、笑顔で返す。「ですがね、先生・・」笑いなから、彼は言った。「うん、何よ?」小町が返すと 「多分、美波さんとも会えるでしょうし、自分はその辺 楽観してるんですが・・」

小町「まぁ!そいじゃ、夜にでも彼女と会って ヌイて欲しいって訳?」 豊「随分露骨だなぁ!」と苦笑しながらも続ける。「それはまぁ 美波さんのご都合にもよるでしょうけど、もし叶えば、そうしていただければ有難いって事でして」 聞いた小町は「まだ分からないけど、その願望 叶うかもよ・・」と、笑顔で応じた。そうこうする内に 出発時刻が迫る。

8:50am、時刻表通り出発。初めの内は、単線々路の行き違いなどの為 速度(スピード)が伸びない事は、一度はこの便に乗った豊なら知る所だったが、小町が苛立ったりしないかと ちと心配なのも事実だった。幸い それは杞憂だったのだが。豊がその辺りを説明すると「まぁ そういう事なら仕方ないわね。この辺は土地の地盤も弱い所があるし、鉄道も道路も通し難かったみたいね」と返された。

出発して小半時程で 広い木曽三川を長い鉄橋で越え、ようやく本来の特急らしいスムーズな走りを見せ始めると、小町が「所でさぁ・・」と声をかけた。「はい、何でしょう?」豊の返事に 「今日から、中条さんも こっちへ来るらしいじゃないの」と続けた。「わっ・・!」豊は驚いた。「早いな、情報が・・」

そう思い出ながらも、彼は努めて冷静に振る舞おうとした。「ええ、まぁ そんな事も聞きました。自分の実家近くの宿とかを尋ねられましたので、分かる所でお答えしておきました」 小町「あぁ、なる程ね。・・で 彼、まさか一人じゃないよね」「はい、こちらへはお一人って事はないと思いますよ」「そぅか、分かった。有難う・・」

そう返した小町、脳裏には「恐らくは、初美が一緒。もう、間違いないわ!」との確信が渦巻いていった。そして「ちょっと、美波の力を借りようかしら。とに角 北紀中央病院への出張中、彼には踏み込んで欲しくない。うん!美波と会ったら、この事は 早めに打ち合わせといた方が良さそうだわ」幸い、列車はまだ伊勢平野を快調に南下している。この先、山間に入ると LINEなどSNSの通信状況悪化も考えられた。

「小町です。忙しいとこ悪いけど、折り返し返事をくれる?」一旦 豊がトイレに立ったのを認めて、美波宛て LINEを送る。直ぐ様の返事。それに「今 列車の中だから、手短かにするわ。午前中に着けると思うから、その時至急打ち合わせたい事がある訳。お仕事とは必ずしも関係ある訳じゃないけどね。まぁ 昼ご飯一緒にしながらできれば、最高ね」美波からの、続いての返事も直ぐだった。「了解しました。それじゃ お昼ご飯の折って事にしましょう。後少しね。お気をつけてどうぞ。豊にも 宜しくお伝えを」「有難う。確かにね!」

美波との交信を終えた直後、豊がトイレから戻った。「惜しいわねぇ。空いてれば、二人して事に及んだかもだけど・・」そう呟(つぶや)き、教え子の股間に目を遣ると、結構張っているではないか。つまり礼儀を正し、勃起しているという事だ。「豊・・」席に戻った所で、こう言った。

「はい、何でしょう?」彼が返すと 「礼儀正しいわね。そのままにするの ちょっと惜しいから、マッサージしたげるわ・・」「わっ!、ちと拙いんじゃないですか?」「静かにやれば 大丈夫よ・・」そう言葉を区切ると、小町は 豊のジーンズ越しに左手で摩(さす)りを入れ始めた。「あっ、はっ、うぅぅ・・で、でもやっぱり、い、良い・・」押し殺した様な豊の呻きは、強さを増す列車のディーゼル・エンジンの轟音にかき消され、殆ど聴こえない。いよいよ、紀伊山地へと入った様だ。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 浅野えみ
今回の「音」リンク 「イヴニング・タイド(Evening Tide) by松岡直也(下記タイトル)
Evening Tide

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