情事の時刻表 第55話「企図」
- 2019/05/20
- 20:57
「ふふん!」と鼻を鳴らしながら、木下由香は、妹・由紀の 些か呆れた企(たくら)みに反応していた。「・・まぁ、ええやろ。アンタがどうしても言うなら、あたしは反対せぇへんわ。後はほれ・・初美先生がどうお思いか、やな」 聞いた由紀は「うん。お姉ちゃんからそれ位は言われる思うとった。そやけどな・・」 「何や?」 「何かな、先生は拒否られん様な気がするのも事実やな」 「そか。まぁ勝手に都合の良い解釈はせん事やな。強引にすると、後が面倒やで。分かるやろ?」 「あぁ、分かる分かる・・」
そうこうする内に、トレーナー上下を着た中条、次いでバス・ローブ姿の初美の順で浴室から上がって来た。彼は言った。「二人、お先にな。狭くて悪いが、まぁゆっくり入って来てくれ。酒食を用意しとくからな。おっと!由紀ちゃんは酒気(アルコール)NGだから、ソフト・ドリンクな」 「はい、有難うございます。ほな、お言葉に甘えます~」 次いで初美とも会釈を交わし、姉妹は脱衣の上浴室へ。
全裸で互いの身体を流し合ったり、交代で浴槽を使ったりしながら、姉妹の会話は続く。「なぁ、由紀・・」切り出したのは、姉の由香の方だ。「はい、何ぞ?」妹が返すと 「アンタ、今夜は伯父様と一緒にお風呂使えへんから、ちと残念なんと違うか?」と続けた。聞いた由紀「あぁ、まぁ ちっとはその想いもあるけど、何せ将来一緒の仲の初美先生がご一緒じゃ ちとやり難いしなぁ。それと・・」 「何や?」 「ほれ、さっきの件やて。寝室でさ、先生と伯父様が交わるとこへ あたしらも入らなあかんやろ?」
「何かなぁ・・」 呟く様に、由香が応じた。「伯父様とは今まで 結構深い事もしたけどさ、先生とご一緒とあっちゃ、ちと難しいモンがあるな。それでさ・・」 由紀「はい、何でしゃろ?」 「アンタ その企み果たす為にさ、伯父様と話はしてくれるんやろな。あたしゃ、ようせぇへんで~」 「分かった分かった。その辺は何とかするさかい、まぁ見とったってや~」 姉はようやく頷いた。勿論 頭の片隅の蟠(わだかま)りが消えた訳ではなかったが。
半時程の入浴を経て、女たちはバス・ローブを纏い 7pm過ぎから遅めの夕食。部屋は程良く暖房が利く。姉妹の内飲み希望が通り、中条手持ちの赤ワインが開けられ、酒気の許されない由紀はジンジャー・エールでの参加。洋風総菜複数とフランス・パンで食が進み 締めくくりは中条が入手しておいたメロンが甘口リキュール「グラン・マルニエ」を、由紀の分だけは G県産の上質蜂蜜を纏って振舞われた。
「ご馳走様でした!あぁ、好い余韻やなぁ・・」 夕食が一応の幕を迎えると、片付けの応援を果たした由香は今のソファに 気持ち良さそうに寝そべった。それを見た由紀「お休み中邪魔して悪いなぁ!お姉ちゃん 寝たらあかんで!」と 些か呆れ気味に声をかけた。姉は「大丈夫や。あたしゃアンタと違(ちご)うて、美食(グルメ)したって 寝たりはせぇへんわ!」 「ほう!そりゃ良い事っちゃな。さてと、そろそろ先生と伯父様がここへ来はるな。ほな、その時に 例の話をしてみるって事で・・」 「ふふ、なぁ由紀・・」 「はい・・」 「上手くやれや」 「はい、そりゃもう・・」姉妹の会話が区切られるや否や 初美が入って来た。
彼女は訊いた。「あぁら二人、TVも点けずに何を話してたの?」 「あぁ、お先に失礼してます。まぁ、そう大した事やないですよ。明日はマルちゃんの可愛い息子の子犬と会えるから、良い夢が見られるとえぇなぁ・・なんて話をしてましてん・・」 「そうよね~!今回ここへ来た最大の目的はそれだもんね。明日は 良い面会になる事を祈ってるわ」 「おおきに。有難うございます!ホンマ、今夜は良い夢見て 明日はいよいよワンちゃんもろて、一緒に帰れるって寸法ですわぁ~!」
「お~、盛り上がっとるな。ちと邪魔しちゃ悪い・・かな」暫くして中条も合流。引き続き、明日の姉妹と子犬の話題が続く。暫く TVの出番はなさそうだ。「あのマルちゃんとサンコちゃんの間の子やから、可愛いのは間違いなしや!」 「せやせや!で、先生も伯父様もご覧下され。ワンちゃん連れ帰り用の旅行ケージも用意してまっせ」 聞いた中条は「うんうん。想像はしておったが、感心な位ぇ周到だな。そうそう、家帰り着くまで用心して・・な」
中条のこの言葉に由香は「おおきに、有難うございます!左様(さよ)ですねぇ。明日は可愛いワンコを家まで連れ帰らないけまへんから、あたしらも嬉しけど ラストまで締まって行きまっせ~!」「ハハ、良い心がけだな。よろし!俺も応援するぞ。勿論 初ちゃんもな」そう返し 中条が初美の方へ振ると、彼女もはっきりと頷いた。
「ホンマ、今夜はお蔭でえぇ夢見られそうですわ」笑顔で続ける姉妹。それから由紀が「・・でですね、伯父様」と中条に言ったのだが、纏っていたバス・ローブの胸元をはだけ、その下に着けたベージュ色のブラが見える様な出方が、明らかに思わせぶりだ。「これは・・」と、男は思った。「由紀ちゃん、何か考えとるな。はて、何が望みだ?一体・・」
「今日はな、由紀ちゃん・・」努めて冷静に、中条は返した。「初ちゃんの手前もあるんだが、明日が大事なんで あっちの事ぁ見合せよう思ってたとこでな。」「あは、左様(さよ)でっか。そら残念でんな。まぁ先生も居てはるし、そないな流れいうのは分かります。それでね・・」「うん、何かいな?」「多少のお願いがありますんですが・・」「何だ?いつもの由紀ちゃんらしくねぇな。訊き難い事かよ?」と、男は柔らかく しかし糾す様に訊いた。
由紀「えぇ、その事です。で・・」中条「訊き難い話は分かったよ。俺ぁ何聞かされても怒らんし驚かんからさ、ズバリ本当の事を言や良いんだ・・」と返して、彼女の魂胆が読めた気がした。「つもりは何となく分かった。ちょっとだけ待て」由紀が頷き返したのを確かめて、男は「初ちゃん・・」と声をかけた。「はい、何?」彼女が返すと「ちょっと、そっち行くわ・・」と、対面に座る女に、そっと耳打ちした。
「初ちゃん、ちょっと良いか?」「えぇ、良いわ・・」「今夜はさ、あの姉妹と俺は、間違う事ぁねぇ。その代わり・・」「続けて・・」「よしゃ、ならば・・」一度言葉を区切ると「その事だが・・」と続けた。「つまりはだな、彼女たちは 貴女と俺の『あの行為』を見たがってんじゃね?って思う訳よ。俺、勧めるつもりねぇけど、貴女はどうよ?」
「!・・」当然の事だろうが、囁かれた初美は、一瞬その美しい表情を強張らせた。「困った娘(コ)たちだわ。でも・・」一瞬の困惑を経て、彼女の思考は回り出した様だった。「あれは、確か・・」そう、この年の 5月連休にあった 新潟方面への行程にて、宿で中条との交わりを姉妹に見られていたのだ。その時は、そればかりではなかった。姉妹の友人にもなった 教え子・周(あまね)とその恋人・宙(そら)にも同じ場面を目撃されていたのだった。
「新(しん)さん、分かったわ・・」初美は観念したかの様に呟いた。「彼女たちに『あの行為』を見られたの、初めてじゃなかったわね。そういう事なら、望みを叶えたげるの 吝(やぶさ)かじゃないわよ・・」 呟きは中条にも聞こえた。「有難とよ・・」彼は軽く一礼し、姉妹にその反応が分かる様にしてやった。「やったな・・!」笑顔を見合わせて頷く姉と妹の様子がはっきり見て取れた。
食後の寝酒と飲料が区切られると、中条が言った。「そいじゃ、そろそろ暖機にかかるかな。初ちゃん、並んで座れる長いソファに行こうや。おっと!美人姉妹さん、用意が良いな。もう席替え準備かよ?」 「当然ですがな。あたしたちの、ちと無理なお願い聞いて頂いとるんでいさかい。なぁ由紀!」姉が言えば、妹も「激しく同意です!」 初美と中条、由香と由紀の姉妹は、ソファの位置を入れ替わる。姉と妹が、招く側の単座のソファに分かれて座り、事の進行を見守った。
確かに、姉妹の眼前で「行為」を進めるのは些か抵抗がなかったと言えば嘘になるだろう。だが一方で 同意の以上、後退できないのも事実だ。「じゃあ・・」男の呟きを合図に、二人は接吻(キス)と両腕を回し合っての抱擁から入る。次第に舌技も加わって、濃厚なそれへと移る。合間に、初美の微かな喘ぎが聴こえる。「好いなぁ・・!」由香はこっそり、隣の由紀に声をかけた。頷き返す妹に「どやろ?このまんま、ソファの上で行くとこまで行くんやろか?」 聞いた由紀「う~ん、微妙と違うんかな。やっぱり、下の技は、ベッドで決めはるやろ。それでないと・・」
由香「まぁ今は言わんでええ。もしもや、ソファの上で重なって決めはったら、アンタがやり難いやろ」 由紀「流石はお姉ちゃん!痛いとこを突くなぁ・・その通りやで。できりゃベッドで決めてくれはった方が、あたしゃ好都合なんやけど・・」 「まぁ焦るなや。そないに都合良う行くかどうか分らんやんか・・」そう呟き合う間にも、初美と中条は高まって行った。彼の手が襟元に忍び込み、中にある胸の双丘を探り出した。「あぁ、焦らないで・・」甘い喘ぎと呟きが、更に男の情念の火に油を注ぐ様な。そして・・
(つづく 本稿はフィクションであります)
今回の人物壁紙 唯井まひろ
今回の「音」リンク 「ロング・ロング・アゴゥ(Long Long Ago)」 by中村由利子(下記タイトル)
Long Long Ago