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レディオ・アンカーの幻影 第35話「迎撃」

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まだ梅雨の明けない曇り日の夏の夜、日中の気温は 30℃超で少し動くと汗ばむレベルも、夜に入るとグッと下がり 20℃を割って些か肌寒さも感じる位だった。この夜は金曜。早めの退勤後に再び金盛副都心で会った 普段着の理乃と前嶋は、馴染みの和食処で夕食の後、9pm前には 早めに彼の居所へと流れていた。

「さて・・」部屋に落ち着いた前嶋が言った。「理乃ちゃん、良けりゃ早めにシャワーをどうぞ。俺はその間に必要な準備をしとこうかな・・なんて思う訳」 「ふふ、準備ねぇ・・」理乃は薄笑いで応じた。「・・なら、ちょっとゆっくり目に使おうかな。由香利さん、もう少し後になりそうだもんね」 「そうだね。さっき受けた LINEの様子だと 10pmよりは後になりそう・・かな。迎えに出なくても良い・・かな?」 「心配ないわ。多分 大丈夫でしょう」

「だってさ・・」一礼と共に、前嶋に借りていた合鍵を返しながら 理乃が続けた。「彼女、多分ね・・ここの住所とかを何かで覚えて行かれたんじゃないかと思うの。住所さえ分かってれば、後は携帯の GPSとかで調べがつく訳だし。それに今じゃ・・」 「はい、聞いてますよ」頷き 鍵を収めながら返す前嶋は、由香利が既に彼の住所を知っているらしい事が気になる風に振舞った。理乃「貴方も知ってるでしょ。グーグル・マップとかの地図検索機能がある事をさ・・」 「なる程・・!」確かに勤務先にあっても、理乃も前嶋も、新規の取引先などに赴く時などは、グーグルのそうした機能を利用する事が間々あった。

「いやしまった!俺とした事が・・」思わず彼はそう呟いた。前嶋は、そうした応用を考える事が苦手な男だ。由香利がそういうネットの手段(ツール)を行使する様な事は、彼には想像の他だったのだ。「だから・・」そうした彼の胸中を見透かした様に、理乃が言った。「多分ね、由香利さんは夕食会の区切りまで何も連絡して来られないんじゃないかな?」 前嶋「・・だよね。それ考えておかんと。所で・・」

「はい・・」既にアッパーを脱ぎ始めた理乃の返事を得ると、彼は続けた。「この後ですよ。由香利さんが着いた時、貴女にどうしててもらおうか まだ考え中なんですよ」 「ほう・・。貴方はどうして欲しい?」 「いや、それでね・・どっちも面白いと思うんだよね。彼女が着いた時、貴女に隠れててもらうか、それともここで 直ぐ分かる様に堂々としててもらうか・・」 「ふむ。そういう事・・か」理乃は、鼻を鳴らしながらそう返した。

彼女は続けた。「まぁ、貴方次第よね。あたしはどっちでも良いわ。隠れてろって言われりゃそうするし、その必要がなきゃ、シャワーの後もこうして飲んでりゃ良いんだからね。ま、シャワーの間に決めといてよ」そう言葉を区切ると、ブラまで外し、形の好い胸の双丘も露わに 浴室へと向かった。

「うーん・・ちと悩む所よな・・」一時 一人になった前嶋は呟いた。「もしものっけから同席って事なら、初めの話術で何とか収めんといかん。一旦隠れてくれるなら、前戯で途中まで高め合ったとこで、現れてもらうってのも有りだけど、タイミングが難しい。さぁて・・」 逡巡は 10分間余り続いた。その後直ぐ・・

「よしっ・・」前嶋は短く言葉を発した。「やはり、途中まで潜伏してもらうか・・」とそこへ、LINEの着信。由香利からだ。「のぞみさん、遅くなって悪かったわね」 「ああ、いやいや。貴女こそご苦労様です。俺は全然良いですよ」 「今ね、夕食会が終わったとこ・・」時計に目を遣ると、9pm代も終わりに近い。前嶋、続けて返信。「今からお越しですよね?」 「そうそう・・」 

「念の為・・」と思いながら、前嶋は確認の送信を。「俺んとこまでの道順、お分かりですか?」 対する由香利の返信は予想した通りだった。「大丈夫よ。大体の所は把握してるわ」 「そうですか。有難うございます。それでね・・」 「はい・・」 「首都圏の 貴女の居所と似た様な感じだと思うけど、俺んとこの玄関もセキュリティが入ってるんです。今 暗証番号送っときましょうか?」

それについての 由香利の返事には少し間があった。「そうねぇ。別に貴方のとこの階下に着いてからでも良いけど、今 お願いしとこうかな・・」 「分かりやした」そう返信を区切ると、彼は続いて暗証番号「〇×△▽」を送った。少しおいて由香利「有難う。じゃあ今から 30分位で着けると思うわ」 「了解しました。楽しみにしてます。お気をつけてどうぞ・・」ひとまず、交信終了。

それから少しおいた 10pm丁度「お先に・・」と理乃が浴室から戻った。ベージュ系の下着上下も、挑発を抑えた大人し目のデザインで、それとなく「今日は危険日よ・・」を知らせている様だった。「あぁ了解。たった今、由香利さんから LINEが来ました。今から 30分位後らしいね・・」 「分かった。で、あたしはどうしようかしら・・」

「その事ですよ!」前嶋が応じた。「やっぱりね、ちょっとの間、寝室で控えててもらおうかな・・なんて思うんです。どうせ彼女もシャワー位使うだろうし、初めはここ(居間)で前戯だろうから、少し昂った所で 貴女にも合流してもらおうかな・・なんて思う訳ですよ」 「ふふ、そういう事なら・・」理乃にも何やら心づもりがある様だった。

彼女は続けた。「どうせセキュリティがあるから、直ぐには上がって来られないよね。それなら、彼女が階下に着いたとこで あたしは寝室へ行こうかな。高まるまでラジオでも聴いてりゃ良いんだし。その時は知らせなくて良いわよ。気配で分かるから」そう言葉を区切ると、優れた笑みを表した。「あぁ、感謝です。一応暗証番号を知らせてあるけど、まだ時間があるから 好物が冷蔵庫にありますよ」 「そうですか、まぁ良いでしょう。あたしこそ、有難と・・」

そう返した理乃が、勝手を知った様に冷蔵庫を開けると、トニック・ウォーターが複数入っていた。彼女はその内瓶一本を開け、グラスと氷を用意して、前嶋愛飲のウィスキーと並んで置いてあったドライ・ジンの緑がかったボトルを取り上げた。タイトルは「タンカレー」とか言った。冷蔵庫内には、彼女の来訪を意識してか ラップに包んだレモン・スライスが数枚用意されていた。

「そいじゃ、この目論見の成功を祈って 乾杯!」理乃のジン・トニックと前嶋のティーチャーズ・オン・ザ・ロックのグラスが触れ合う「カラン!」という軽快な音を伴い 尚暫く会話が続いた。「のぞみさん、実はね・・」 「はい、何か?」 「シャワーの折に、下着を洗わせてもらったわ」 「ハハ、そうですか。ま、良いけど、外へ干されたのかな?」 「まぁ大丈夫でしょ。ここは 7Fだから下からはよく分かんないし、朝からは中干しするからさ」 「良いでしょう。任せます。所で・・」と返しながら、前嶋は用意した複数の筆や綿棒を理乃にも示した。

「まぁ、この位はこのテーブルに置いといても怪しまれないと思うんです。どう使うかは 貴女に任せるけど、前もってそれとなく俺にも分かる様に合図してくれると嬉しいですね」 「あぁ、分かるわ。それは何とかしたげましょう」 「宜しく、お願いします・・」 雑談を交えながら各々が二杯を飲み、グラスが空いた小半時程後、不意に玄関の呼び出し音が鳴った。「彼女、着いたわね」理乃はそう言うと、サッと身を翻して寝室へと姿を消した。「有難と・・」呟く様に返すと、「はい、只今・・」前嶋は外にも聴こえる様 通る大声で玄関へ。アイ・スコープの向こうには、長身のスラリとした女の麗姿があった。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の人物壁紙 あかね葵
日野皓正さんの今回楽曲「豊穣(Hohjoh)」下記タイトルです。
hohjoh

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