レディオ・アンカーの幻影 第36話「誘引」
- 2020/03/26
- 11:25
「ようこそ!ご苦労様です」 「今晩は。お邪魔ね・・」短い会釈を経て、下着上下にバス・ローブ姿の前嶋が、淡色のアッパーに同系色の長パンツ、それにローヒール姿の由香利を招じ入れる。勿論 ベージュ色で中庸のキャリー・バッグも一緒だ。「いや・・ホントはね、地下鉄駅に着かれたら 心配だから俺が迎えに出ようかなって思ってたんですよ」 「いえいえ、それには及ばなかったわ。道順は見当がついてたし、夜もこの時間なら まだ人通りも多いしね」
居間に通された由香利、手回り品から着替えや洗面具の用意を経て、小半時程 前嶋と他局を含むラジオ番組の話題などを経て、前嶋と会話。「今日の昼間は、暑かったですね」 「そうねぇ、7月も半ばだから仕方がないかもだけど。でもまぁ今夜は快適だわ」 「そうかもですね。湿度はあるけど、まだ今は昼間よりも気温の下がりが大きいですから。でも、梅雨が明けると これじゃ済みませんが・・」 「あぁ、そうらしいわね。真夜中でも空調(エアコン)が要るんでしょ?」 「仰る通りです。まぁ真夏の一カ月位は参りますね」言葉を区切った前嶋は、わざと渋面を作った。
「やっぱり、今の時季で良かったんだわ」由香利は、笑顔で応じながらそう呟いた。前嶋「もう一つ、今夜が快適なのが・・」 「はい・・」 返事を得ると「それはやっぱり、貴女がいらすからですよ」と笑った。由香利「余り上手くない褒め言葉ね。でも嬉しい。のぞみさんらしいわ」 「感謝です。そうだ。お疲れだし日中は暑かったから、シャワーとかどうですか?」 「有難う。遅くで悪いけど、私 ちょっと髪を洗いたいから、少し時間がかかるかもだけど、良いかしら?」 「OKです。ゆっくりどうぞ・・」そう返す前嶋の眼前で、早くも由香利は脱衣にかかっていた。
上シャツともブラウスともつかぬ意匠の 淡色のアッパーを脱いだ下には、これも同色のブラを介して 大きくはないが形の好い胸の双丘の輪郭が臨まれた。「うん・・」チラと盗み見る様に、前嶋は内心で呟いた。「今夜は期待かな。何か、乳房が張っている様にも感じられる。まぁ今は、口も手も出すべきでない。早まってはいかん!」殆どそんな危険はなかったが、前嶋は念の為 己をそう叱りつけた。ブラもアンダーも外され、随分小さそうなショーツだけになった由香利「じゃあ、行って来るわね」 「どうぞどうぞ・・」笑顔も、前嶋は努めて静かに返した。
「さぁ、今の内に・・」ミネラル・ウォーターのペット・ボトルを手にした前嶋は、寝室へと向かう。潜んでいた薄着上下姿の理乃は、ダブル幅のベットに適当に臥して ラジオ放送に聴き入っていた。「今、浴室に行った。洗髪があるから、ちょっと時間かかりそうですな」 理乃「そうか。そいじゃ、あたしが絡むタイミングとか、打ち合わせる位の時間がありそうね」 「・・ですね。俺、なるべく居間のソファにいる間に昂る様に持って行きたいと思う訳。だから貴女には、そのレベルになったら LINEで知らせようと思うんです」 「有難う。まぁ良さげな方法だわ。でも・・」 「はい・・」 「もしもよ。貴方が昂る途中で 彼女に夢中になって忘れたりしたらどうしようね?」
「あぁ、それねぇ・・」指摘された前嶋は、一瞬言葉に詰まった。が、しかし・・「まぁなるべく、忘れん様に知らせます。ただ、もし送れたりしたら、その時は・・」 理乃「はい、何?」 「その時はそれ・・『あの声』の一回や二回位するはずですから、その気配で合流って事も考えといてもらやると嬉しいですな」 「ふうっ、余りアテにできないって事ね。でも仕様がないわ。OK、その線も有りって事で」 「ご理解感謝ですぅ・・」暫し会話の後「ちょっといい?」浴室から声が。
「理乃ちゃんご免。ちょいとご用みたい・・」外しかけた前嶋に、後ろから理乃が返事。「まぁゆっくりしといでよ。彼女、貴方と一緒に入りたいんじゃなくって?」 「あぁ、そうかもね。その時は悪いけど、もそっと時間を頂くかも・・」 「あたしは良いのよ。遅くなっても、由香利さんと貴方の交合(セックス)をこの目で見られりゃ良いんだし。それにね・・」 「はい・・」 「欲を言えば、彼女の身体にちょいと悪戯もしてみたいの。勿論、貴方にもとばっちり位は行くわよ」 「了解!まぁ少しは覚悟しやしょう!」理乃の眼前でバス・ローブを脱いだ前嶋は、浴室へ向かった。
やはり、彼の想像通りだった。「お邪魔します」脱衣を経て浴室に入ると、微笑み返した由香利は洗髪を終えた所だった。下した黒の洗い髪が、この夜は特に艶めかしかった。「好い感じですね・・」思わず呟くと、由香利は「洗った後の髪、好きなんだ・・」と訊いて来た。前嶋「まぁそうですね。だからこれからの時季、海や川へ行くと、泳いでる女子達を眺めるのも良いなぁ・・なんて思う訳でして。あ・・今夜の最高は、勿論貴女ですよ」 「分かってます。所で、何故呼んだかは分かるよね?」
「あぁ、それね・・」前嶋は曖昧に返し、そして「ご免なさい。一定は俺の我儘のせいですね」と続けた。由香利「それ一つあるわ。だってこの後も、半脱ぎで高まるって感じでしょ。私は一時でも貴方と全裸で過ごしたいの。そうなると、お風呂しかないじゃないの」 「どーも済みません!仰る通りです。それにしても・・」 「はい・・」 「俺やっぱり、着衣のまま乱れ風でないと、燃えない訳でして・・」その間に、再びのボディ・ウォッシュを進める彼であった。
「仕様がないわね。まぁ理解したげるわ」と由香利。そして「さぁ、それじゃ身体の流し合いっこをしようよ」と続けた。前嶋「流し合いっこですか。良いですね。お相手できて光栄です!」彼の、由香利と一緒の入浴は十数分間。終盤の数分間程、この身体の流し合いは続いた。それを経て・・「じゃああたし、着替えもあるから先に戻ってて良くてよ。楽しみにしてて」 「分かりやした。今夜は如何なるか、居間でお待ちしましょう・・」そう返す前嶋の表情は、やはり少しニヤケている趣だった。
再び下着上下とバス・ローブを纏い、理乃のいる寝室へ顔を出す。「お待たせ!」 「うんうん。好い感じだった?」 「まぁ好いとこですよ。お互い身体流しん時なんか、わざと下方をメインに洗ったりしてね。彼女、俺の竿の先端剥いて、丁寧に洗ってくれましたね。それと陰嚢(たまぶくろ)も。だから俺も、彼女の下の陰唇(ビラビラ)を押し広げて、シャワー当てたりして結構楽しめたね」 「それは良かった。それで早めに昂ってくれたら本望だわ。彼女を誘引するの。この後も、上手くやってね!」
「了解しやした。まあ『任せてくれ!』レベルにゃ程遠いかもだけど、何とかやってみます。彼女も、俺の出方を気に入ってくれたみたいだし。だからもう暫くゆっくりしてて欲しい。できるだけ知らせるつもりだけど、遅そうだったら気配で動いてもらえると嬉しいっすね。こうなったら、頑張りますよ」
「まあ!余りアテにしないでよ。でも良いわ。あたし、気配で状況を掴むのは自信あるからね。とに角 中々ない機会だから、これを逃さず上手く誘って あたし達の望みを遂げましょうよ!」 「心得ました!」後ろ手で返事をした前嶋は、落ち着いて居間へと戻る。一旦消していた TVの電源を再び入れ、風呂上がりの飲物(ドリンク)を用意して暫く経つと、浴室の方から人の気配がした。「お待たせ・・」と優れた静かな声。それは男に、次の瞬間の期待を持たせる一声だった。
(つづく 本稿はフィクションであります)
今回の人物壁紙 高橋しょう子
日野皓正さんの今回楽曲「貿易風(Trade Wind)」下記タイトルです。
Trade Wind