この雨は こんな風に聴こえる 第43話「試案」
- 2020/12/15
- 22:43
「この事は・・」先程までの行為を終え、シャワーを前に 依然として下方を露出したまま 黒木が言った。「ええ、続けて。手短に済ますんでしょ?」長手ソファ上で 同じく下方を露わにした宥海(ゆうみ)が 両の脚を開いて寛ぎながら返してきた。黒木は続けた。「つまり、麗海(れいみ)ちゃんの関心を なるべく早く俺からそらす為に、ちょっと試したい事があってね」
宥海「良いわ。聞きましょう」 黒木「はい、それで・・」 「それで・・何かしら?」 ここで黒木は言葉を継ぐ前に 一つ深呼吸をした。そして「この前、麗海(れいみ)ちゃんと会った時に、弟の存(タツ)を加わらせた事から 少し分ってくれるかな・・とは思うんだけど・・」 「はい・・」 ここまで聞くと、口には出さずも 宥海は「何をまどろっこしい出方してるの?」という風情で、イライラ感を少し出してきた。
黒木「その事。つまり、俺と存、貴女と麗海(かのじょ)で 一度あの事を交代してやってみようって事かな。言ってしまえば・・」 宥海「まあ、それって云わば『スワッピング』みたいな事ね?」 「まぁ、そういう事になるかな。あれは本来『夫婦交換』て言って、既婚者どうしで実行するものらしいけど、俺はそれを応用して ちと様子見がしたいって事ですよ」
それを聞いた宥海は、暫くの間 考え込んでいる様だった。確かに無理もない事かも知れない。妹・麗海が事実上、この兄弟の間を「回った」という報に接したのも少なからぬ衝撃ではあったが、今度は彼女自身が「交換」の当事者になるかも知れない。その場合の相手は当然 黒木の弟、存(たつる)という事になる。
「良いでしょう・・」数分間程をおいて、宥海が返してきた。「でも、もしもよ。あたしが存君の『男』に嵌ったら、恆(ひさし)さんはどう思うの?あたしが貴方から離れるかも知れないって覚悟はあるの?」 黒木「そう・・不動の覚悟があるかって言われりゃ嘘になる。不安はあるよ。でも・・」 「でも・・何なの?」 「荒っぽい方法ってのは分かってるけど、一度試す価値はあるかなって思う訳ですよ」
「ふぅん・・」宥海、溜息の様な反応を返してきた。聞いた黒木「貴女が余り感心しないのは覚悟してた。でもこれ、試してみないと分からないとこもあると思うんだよね。一度で良いから、許してくれると有難いんだけど・・」 「その一回が、取り返しのつかない事になる可能性もあるわよ」 「あぁ、分かる。しかし、実行してみなきゃ分からんのも事実だし・・」後少しで口論になりそうな所を、辛うじて抑える彼であった。
宥海「分かった。まぁ、それは良しとしましょう」 黒木「理解有難と。麗海(かのじょ)も存(タツ)も、概ね同意だと思うんだ。うん、これで後は 貴女達の体調をみた上で、日取り決める事だね・・」 「まぁ、良いでしょう。体調の事は、又近づいたら知らせる様にするわ。少し先でしょ?」 「はい、まぁ・・そういう事ですな」こう返した黒木は、続いて「シャワーお待たせ。先にどうぞ」と、宥海に勧めた。
雨がちの 7月だったが、それでも下旬に入ると 少しずつ真夏の足音も聴こえて来る様になった。最低気温は 25℃超の熱帯夜、最高気温に至っては 35℃前後以上の真夏日が続き、夜間も空調が欠かせなくなってくる。その頃唯一の雨天となった同月の最終土曜日、久々に予定の合った宥海、麗海の姉妹は N市中心部・栄町の とある特異な喫茶店へと流れていた。双方、夏らしい淡色のブラウスにパンツ、サンダルの装い。当地の若い女達が 隠れ家の様に出入りする、路地裏にひっそりと建つ 雑居ビルの中程のフロアに入る 地味目の店だ。
「それでね、麗海・・」揃いのトロピカル・ドリンクを嗜みながら、宥海が切り出した。聞いた麗海は「あぁ何?あたしが あの兄弟と絡んだ事、まだ根に持ってんの?」と、ぶっきらぼうに返した。宥海「いや、そうじゃなくて。そんな事は貴女個人の問題だから、どうこう言わない。聞きたいのはね・・」 「はい・・」 「恆さんの弟、存君の事よ」 「あは・・彼、ホスト上がりで洒落てるから、お姉ちゃんも気になってたんだね?」
宥海「まぁ、何とでも思ってくれりゃ良い。そりゃ、あたしだって全然気にならない訳じゃない。そこで・・」曖昧に言葉を区切ると、宥海の語調は 急に静かになった。「うんうん、何が訊きたいの?」それに気づいた麗海は、合わせる様に声量を落としてきた。
宥海「あの兄弟と貴女の事は、盗んだおカネを返したかという所も含めて、今は糾さない。それより・・」 麗海「うん、何?」 「ちょっとね、存君の『男』の事を訊きたいのよ。彼は以前 ホストだったらしいから、あたし達への当たりが好いのは期待してる。それでね・・」 「はい・・」 「貴女は、存君とも交わったんでしょ?どう思ったの?」
麗海「うん、そりゃ素敵よ。恆(ひさし)お兄さんも好い感じだけど、彼はもう少し大きめで あたしを気分よく昇らせてくれたわね。流石はホストが前職だなって感じでね・・」 「ふふ・・それ聞いて、ちょっと安心したわ。恆さんはとても良く当たってくれるけど、どうかしら・・まだちょっと粗さもあるかなって感じで。でも、存君がそういう風なら、今から期待が持てるなぁ・・」 「うん、まぁね。お姉ちゃんがそういう気持ちなら、きっと上手く行くんじゃない?」
同じ日の夜、黒木と弟・存も夕食を交えて金盛副都心で会っていた。こちらの兄弟も 夏の平装。以前も入ったインド料理店で、こちらも「あの姉妹」の話題が出ていた。予想通り、存からは 姉・宥海についての質問が出た。「お姉さんは、どんな感じの女性(ひと)かな?」 黒木「あぁ、そりゃ素敵な女性だ。麗海さん程の『華(はな)』はないけどな」
存「そうか、麗海さん程の華はなしか。でも・・」 黒木「はい、何だろ?」 「それはとりも直さず、清楚な魅力って事だよね?」 「あぁ、アハハ・・ま、そういう事になる・・かな?」 「兄者、この期(ご)に及んで誤魔化さなくたって良いじゃないか。それが本当(マジ)なら、ズバッと言ってくれた方が納得だな」 「そうか、悪かった。そういう事なら、宥海さんはホント、清楚が魅力だよ」
存「そうか、分かった。ついでに兄者の考えも・・な」 黒木「ほう、何が分った?」 「つまり、兄者の考えってのは、麗海さんが中々兄者のとこから離れてくれんので、俺が彼女に近づき始めた様に見えるってとこで、宥海さんと事に及ばせて、麗海さんを動揺させようって事じゃないかね?」 「中々好い理解をしてくれたな。全部じゃないが・・」 「まぁね。兄者の顔見りゃ、大まかな考えってのが分るって事で・・」
「とに角・・」黒木は続けた。「その俺達兄弟と彼女達姉妹で、一度所謂スワッピングみたいな交換行為をしてみようって事で、一応了解もらったんだ。勿論 彼女達の体調の良い日に あの事をやるつもりだが。まぁもう少し先、8月の真夏になるかも知れんが・・」 「分かったよ。中々面白い案じゃないか。まぁ 8月といえば、夜も相当暑くなってるとは思うが、兄者も俺も それは気にしない質だから良い。後はそう、彼女達次第だね?」
黒木「まぁ、そんなとこだな。それにお前は 麗海さんと中々好い感じで接してるから、俺もそいつを後押しできたらと思うんだ」 存「まぁ、大きなお世話にならない事を祈るわ。兄者は 麗海さんの方を遠ざけたい風だから、そこのとこは俺も手伝わせてもらうよ。後 日取りはそう、全員が都合良い日はそうそうはないから、気を付けて固める様にせんとな・・」 「そうそう。だから月内はもう押し詰まってるから、多分真夏の来月・・かな?」 そう言葉を継ぐと、黒木は思わず苦笑した。
(つづく 本稿はフィクションであります)
今回の人物壁紙 中島カノン
今回の「音」リンク 「ストーミー (Stormy)」 by Santana (下記タイトルです)
Stormy