轍(わだち)~それから 第29話「催涙」
- 2017/01/19
- 12:14
シャワーを使い、養護室奥の部屋に戻った中条を待ち受けていたもの・・それは、彼が懸念した通りの光景だった。
広めのベッドに臥した、明らかに気分が優れぬ表情の、初美の脚は曲げ開かれ、下肢は婦人科医が使う、乗せ台の上。下方は、勿論露わである。更に、横に控える小町の手には、少し前、彼女と夜を共にした時と同じ、ステンレスの膣鏡(クスコ)が握られていた。「さあ、新(しん)さん」薄笑いを浮かべながら、小町が言う。「彼女、もしかしたら、貴方の永遠(とわ)の女性(ひと)になるかもでしょう。その女性の『女の真実』を、貴方の手で、じっくり観察なさいな」こう促す。中条は、暫く言葉が出せなかった。
「初ちゃん・・」男は、静かに声をかける。「ご免な。こんな目に遭わせて・・」対する女「ううん。貴方のせいじゃないわ。こうなったら、小町さんの言葉通りにしていいから・・」 「分った。それじゃ・・」返事を確かめ、彼は彼女の下方へ戻る。傍らでは「さあ、早くやれよ!」と言わぬばかりに、女医が、催促の視線を投げかける。
中条、意を決して、膣鏡を取り、初美の秘花に、静かに合せる。僅かに左に振った嘴(くちばし)状の先端を、まだ閉じたまま合わせ目にゆっくりと滑り込ませ、中程まで行った所で、向きをほぼ垂直に直して、根本まで繋げ。それを確かめ、手元のネジ状調整具を静かに回し、徐々に嘴状の先端を押し開く。まだ見た事のない、初美の「奥」が、ゆっくりと花開いて行く。
「ああ、絶景・・」小町から促され、開口部をペンライトで一見した中条、呻く様に一言。「嫌・・こんなの。新さん、早く・・早く終わらせて!」沈黙する初美、本音では、こう叫んでいた。目には、涙が浮かんでいる様にも見えた。
「見るのよ!」女医は、男に強く言い放つ。「もっと、もっとじっくり見るの。これが、貴方と一生を共にするかも知れない、女の真実なのよ」 「わ・・分った。だから、もう少し時間をくれんか・・」彼も、絞り出す様に返す。もう一度目を凝らすと、微かに毛細血管の駆け巡る、薄紅の肉壁が、輝く粘膜に覆われ、ルビーの様に美しく広がる。更にその奥には、小町のそれを見た時教えられた、可憐な子宮口が認められた。
「新さん・・貴方なら許すわ」下方を晒された初美の、これがギリギリの心境だったかも知れない。秘花の奥を覗く中条の視線から徐々に苦悩が消え、次第に、興味と好奇のそれに変わって行く様を、女医の小町が見逃すはずはなく「さあ新さん。次の事に移ろうよ」そう言いながら、彼の腰のバスタオルをまさぐり、下半身に手を伸ばす。その「自身」の勃起をも確かめる様に。
繋がれた膣鏡を閉じて、静かに離し、秘花の観察が終わる。「貴女は、痴女か?」たまりかねて男が訊くと、女医は再び薄笑いを浮かべ「ふふ、そんな事、どうでも好いじゃないの。今日はあたしに、初美と貴方の営みを、ちょっとで好いから見せて欲しいのよ。どう?そうしてくれれば、少なくとも初美の過去は、不問にしてあげるわ。理事長にも、話を通しておくからさ」想えば、卑劣な出方でもある。聞いた男は、暫し逡巡したのも無理はない。しかし、下方の情熱は抑えきれなかったのも事実だ。
「初ちゃん・・」中条は言った。「こんな事、言ってるぞ!」 「あたしはいいわ。どうなるかは、貴方に任せる。でも、何があっても、あたしは貴方を信じるわ・・」初美、こう返すと「分った、有難う。決して、貴女に悪い様にはせんからな!」男は応じ「小町さん、いいでしょう。ちょっとだけ、貴女の望みに沿う事にするわ」 「ふふ、有難う。お願いね・・」女医は、意地悪そうな笑みを浮かべ。
中条は、行為にしても、できるだけ初美の望み通りにしようと心がけた。まずは正常位。先立っての口唇愛撫(クンニリングス)。いつもと同じく、下草を指でなぞり、秘花に唇を合せ、合わせ目に舌を途中まで滑り込ませ、ゆっくり、じっくりと舐め上げる「うう・・あんん・・」初美、少し籠った、低めの喘ぎで応じ。「可哀そうに。望まぬ愉悦と違うか?」傍らで、薄笑い視線を投げかける女医をじろりと一瞥して、中条、呟く。初美は一瞬、ひきつり気味の表情を緩め「あたしは大丈夫・・」と頷く。今日は、慎重な行為が求められるだろう、と男も思った。
「新さん、そろそろじゃないの?」愛撫の様子をつぶさに見ていた小町が言った。確かに、秘液の回りも一通りだし、一歩踏み込む状況ではあったが、中条には不安があった。「初美は不本意なんや。もしも、その心が折れたりしたら、どうする?」の想いだ。「初ちゃん、もう少し進めていいかい?」男が囁(ささや)く様に訊くと、低い声で喘いだ女は、言葉を発する事なく、縦に頷いた。
「よし、進めよう」彼は、彼女の下方に回ると、「彼自身」を秘花に、静かに合せる。女医は、僅かな合間に、その一物にゴムを着せていた。最後の一線は越えないと言う事か。
「さあ、行くね」中条、静かに腰を沈めにかかる。「彼自身」の先端が、ゆっくり肉壁を滑り、ゴムを介した先端が、子宮口に達し、肉壁の締りを伴い、連結。「んん、ふぅんん・・」初美の喘ぎは、明らかに、普段より低めだ。「やはり、本意じゃねえのでは?」ゆっくりと、腰を動かし始める中条の脳裏からも、その想いは消えなかった。「望まぬ愉悦、望まぬ絶頂・・それだけは味わわせたくねえが」下の女と唇を交わす時も、男はそんな事を感じていた。今日は、いつもは見せる、腰への両脚の組み付けが見られない事も、そんな想いにさせたものだ。
「新さん、ちょっと姿態を変えようか」ハメ撮りの様に、二人の後方から交合部をしげしげと観察していた小町、平然と言う。「ちょっと、待ってくれんかな。初ちゃん、大丈夫か?」中条、本気で気遣って訊く。だが初美は、今度も言葉もなく頷くのみ。
彼はベッドに臥し、初美がその上に後ろ向きに重なる。男が上体を起こし、上の女に、下から仕掛ける逆騎乗位、四十八手中の「絞り芙蓉」と言われる姿態。できるだけ無理のない様、行為を進める。
暫くして初美「新さん」声かけ。「やっぱり、貴方が上に来て。最後は、これで昇れるわ」 「分った。戻るから」中条は応じ、もう一度彼女に重なり、上体を抱きしめ。今度は、緩いながらも男の背後に両腕、腰に両脚が回され、より一体で高め合う。
「好いわよ~、二人。一つになって、う~ん、好い感じ・・」小町はそう言うと、着ていた白衣を捲り上げ、ショーツを脱いで、剥き出しの下方を、中条に見せつけ。「さあ新さん、こっちよ。初美のアソコと、どっちが好いかしら?」ニヤニヤしながら、挑発に入る。
「余計な事、しないでよ!」とでも言いたかったが、そこは品性低い男。曝け出された、小町の「女の真実」の魅力にも抗えず、男は行為を進めながら、目ではそれを追っている。「哀れな男(やつ)・・」見ていた女医の、率直な感想である。
低い喘ぎを交わして高め合い、そして、頂へ。「好かった・・」と、心から言えない辛さと後ろめたさが残った。初美も、中条も、こんな後味の悪い行為は、今までなかっただろう。終始、女医 小町の嫌らしい視線を浴び続けた事も、それは大きかったが。
「離れていいわ」せめて、初美のその言葉を聞くまで、今度こそ、中条は待とうと思った。十数分後に、女からのその言葉を受け、ゆっくりと離れる。
「新さん、有難う。中々良かったわよ」小町、笑顔で声かけ。そして「ゴム外したら、あたしに頂戴」 「ま、いいでしょう」中条は、男精の溜まったそれを、彼女に渡す。初美の秘液は、心なしか少な目の様だった。「あのさ」男は言った。「初ちゃんに、シャワー使わせてやってよ」 「勿論よ。どうぞ」これを受け、初美は再びシャワー室へ。やはり少し、元気がなさそうだ。
「新さん、これを見て」暫くして、小町が、小さいガラス板を配した顕微鏡を持って来た。「これが、貴方の男精よ」 「仕様がねえなあ」とは思いながら、中条は、上方から覗き込む。夥しい精子が、活発に動く様子が認められた。「初ちゃんも、見るか?」彼は視線で合図を送ったが、初美は、首を横に振った。
女たちと再び着衣の上、中条が「小町さん、もういいでしょう。見ての通り、初美は疲れとる様だ。これ以上の無理は、言わぬがよろしい」と言えば、女医は 「有難う、分りました。無理があったなら申し訳なかったわ。でも、去年のあの出来事は、お互い様の所があったの。それは、分って欲しいわ」と返し。 「それは理解します。じゃ、今日はここまでって事で」 「はい、お疲れ様でした」学院に泊まり込むであろう小町は、彼女の許を辞す二人を、玄関まで見送った。
佐分利学院の館外に出た二人は、N市中央駅へ向け、ゆっくり歩いた。「今日は、金山で買い物するか」中条が言うと「ええ・・」初美も、言葉少なに返す。金山は、中央駅から少し南方に位置する副都心。JR中央西線なら一駅だし、運賃も安い。更にここの駅前に、品揃えの良い食品スーパーもある。
午後5時を過ぎ、普段なら帰宅ラッシュの時間。二人は、中央駅のプラット・フォームへ。既に下り列車が着いているかも知れない。そちらへ向かう途中、中条は、近づく貨物列車を見て、緊張を余儀なくされる。「あっ・・拙い!」列車を率いるのは、初美がその汽笛を聴くと泣き出す、電気機関車 EF64(1000代)機である。彼女はまだ、気付いていない風情だった。が、次の瞬間・・「フィ~ッ!」辺りの空気を切り裂く様な、鋭い一声が発せられた。続く、重く大きい送風機の動作音、六発の大容量モーター動力 MT52と、六拍子の重い足音。続くコンテナ車の、少し耳障りな行列の音、更に、構内を抜ける時の、畳み掛ける様なもう一声・・
初美の表情が、見る見る変わって行く。「初ちゃん、ちょっと待ってな。今、その場所へ連れてくから・・」中条はそう言うと、一路、構内の多目的トイレへ向かった。幸い空室。すばやく中に招き入れ、施錠した途端、声を上げ泣き出した。「うんうん、そうかそうか、うんうん・・」泣き崩れる女を抱きとめ、男はその背をさすりながら支えた。「さあ、心ゆくまで泣けばいい・・」
10分は続いた号泣の後、出ようとする頃、多目的トイレのドアが、強くノックされる。「大丈夫ですか!?」気付いたJRの駅員が、様子見にやって来たのだ。「どうも済みません。一瞬、連れが眩暈(めまい)を起こしただけです」開扉し応じた中条、こう説明。「ご免なさい。もう大丈夫です」初美も応じ。「分りました。又ご気分が悪ければ、駅長事務室をお訪ね下さい」案内された彼「有難うございます。ご心配かけて済みません」と返し。彼女に「とに角、金山へ行こう。少しでも気分を変えんと・・」
二人は、中央西線のプラット・フォームから待機していた普通列車に乗り、一駅先の金山へ。ロング・シートの211系電車はかなり混み合うも、詰合せて二人とも座れた。出口北側に、件の食品スーパーがあり、暫し買い物。初美の好物 ブルー・チーズとセロリの株を確保した時「あ、これ、好い感じ!」彼女の顔に、ほんの少し、笑顔が戻った。「さあ、一杯行くか」中条も、気分を変えるべく、己の好物を選んで行く。
(つづく 本稿はフィクションであります)。
今回の壁紙 JR中央西線 鶴舞(つるまい)駅南詰 名古屋市昭和区 2016=H28,9 撮影 筆者
松岡直也さんの今回楽曲「ネヴァー・ティアーズ(Never Tears)」ヴァイオリン奏者 寺井尚子さんとの共演 下記タイトルです。
Never Tears
JR電機 EF64(1000代)機の警音が聴けるシュミレーション画像 下記タイトルです。
EF64 1010