2ntブログ

記事一覧

母娘(ははこ)御膳 第9話「兆候」

IMG_1793.jpg
12月10日の土曜、総合予備校 佐分利学院に通う浪人生 阿久比 周(あぐい・あまね)は、後輩の高等科生 豊野 豊(とよの・ゆたか)と、午後の喫茶店でコーヒーを嗜み、暫し談笑。朝方の雨も早くに上がり、急速に天気が回復したこの日は、各々午前二限と、昼食を挟んで午後一限、計三限の教科を終えた後。二人共、秋冬物の平装、靴もよくあるスニーカーである。

「阿久比さん、いよいよその時が見えて来ましたね」豊が切り出す。「ああ、まあね。直前対策も必要だが、一番大事なのは、これまでの積み重ねだからな。今、できるのは、その再確認ってとこか」周はこう返す。豊「・・ですよね。総じて、今更ジタバタしても仕方ないってとこも有りですか?まあ俺たちがこうではいけませんが・・」と応じ。

周「そんなとこだな。お前も知ってると思うが、ウチの傍の、夜のバイトも暫く抜けさせてもらう事にしたわ」 豊「そうですか。ああ言うとこだと、金・土曜の夜なんかはかなり忙しそうですもんね。阿久比さんも、その辺は結構遅くまでだったんじゃないですか?」 「そうだね。月に一度や二度は、日付が変わる間際までって事もあったよ。でも、一番助かったのは、賄いの夕飯があるとこだな」 「ああ、賄いね。そりゃ良いや、俺のいる寮もそうです。まあ質量は十分とは言えないけどね」豊、こう言って苦笑す。「ああ、そうか。お前のとこも、一応出るのね。じゃあ、お互いその分だけは雑用から解放されるんだな」周も、苦笑して応じた。

周は続ける「・・で、年内、平日の夕方だけ、F・I・Tの花井社長からのお誘いで、本社の用事を応援しに行ってるんだ」 豊「そうですか。まあ受験準備も大変だろうけど、だからって、収入ゼロってのも不安ですもんね」 周「まあ、それが本音だな。大体二時間だけだし、体力面は余裕だけど、お前も想像つく様に、企業秘密とか個人のプライバシーとかも絡む用事なんで、そこは気を遣うなぁ」 

豊「そうでしょうねー。情報管理って、そう言う所にも関わらないといかんから、難しいですよねー」 「・・て、心配してても仕方がない。やるだけだ」 「はい、無理なく進めて下さい。賄いとか、良い事はあるんですか?」 「そうだね。一定は。毎日弁当が出るし、たまに来ない時ゃ、社長や隣の席の伊野主任が、食事に連れてってくれる時も有りかな。まあ、余程運が良ければだが」
豊「そうですか。そりゃ良いや。伊野主任って、つまり去年まで学院におられた、初美先生ですよね」 周「そうそう。だから手書きの書面とか伝票、帳簿なんかはかなりうるさくチェックされるな。学院の頃の、厳しい教科を思い出すよ」そう言って苦笑す。

豊「ハハ、正直 初め『羨ましいなー』と思ったんですが、実態聞いて少し考え変わりました。やはり大変そうだ」こう応じ、これも苦笑。周「まあ、一日二時間で済んでるから良いけどね。でも社会人になりゃ、これが朝から夜まで毎日だから、今から覚悟した方が良い・・か」 豊「大変・・だけど、将来の為には良い訓練(トレーニング)かもしれませんね。まあ、勉強共々頑張って下さい」 「心配有難う。まあ何とかするわ。ところで最近、中坊の健(たける)に徹とは会ってるかね?」 

豊「ああ、あの二人とは、たまに会ってます。この前、阿久比さんが夕方F・I・T行かれてた時、三人で学院そばのマクド(ナルド)で一時間位喋りましたね。あいつら、貴方の事も、ちゃんと心配してましたよ」 周「そうか。元気ならいいな。この年末年始に、一度位四人で集まれりゃ良いが」 「良いですよ。四人で、熱田神宮か大須観音辺りへ初詣でも行きますか?必要なら、俺、セッティングします」 「ああ、有難う。俺は大晦日と元日だけは帰省するから、そうだな、三日辺りが好いな」 「分りました。俺も同じタイミングでM県の実家へ帰りたいと思いますんで、三日で調整してみますわ」 「ああ、それで頼むわ。連中にも宜しく言ってくれ」 「了解です」その後、スポーツなどの話題で雑談して解散。時間にして、一時間強だったろうか。

日曜日を挟み、翌週も、粛々と学院の教科、自習、夕方の、花井 妙(はない・たえ)の会社の時限勤務をこなす。隣席の業務主任 伊野初美(いの・はつみ)は、厳しい仕事の姿勢と共に、合間に周がこなす受験勉強にも口を出す。ただ、表向きうるさい出方はしなかったが、概ね的を射た指摘が多く、そこは彼にとっても有難かった。

毎回の勤務を終えた後、小半時位は時間があったので、二人は、受験の事もよく話し合った。学院にいた頃と変わらない、モデル張りのハーフ的な美貌は、眼も眩む程の圧倒的魅力を誇ったが、周は、彼女が健の伯父 中条 新(なかじょう・しん)との間柄が進展している事を知っており、又、現在そちらの教えを受ける、社長の妙、そして先日、予想外の体験をする事となった、その娘の宙(そら)との関係を大事にしたい想いから、初美への憧れは、何とか振り払う事ができている状況だった。

12月16日の金曜夜、学院の教科と自習の後、F・I・T本社の用務をほぼ終えようとしていた周に、妙が声をかける。「阿久比君、悪いけど、ちょっと遅くまで残ってくれるかしら?」 周「OKですよ。必要なら、今ご指示を伺いますが」 「いやいや、まだ後で良いわ。今夜はお弁当が来ないから、30分後に食事に出ようね。君はそれまでに、担当分を仕上げる事」 「了解しました!」

ビジ・スーツ上下姿の二人が、近所へ夕食に出たのは、8pm過ぎであった。隣席の初美は、この日は一日外務。出先から居所へ直退する日程(スケジュール)となっていた。前月、初めて妙に連れて行ってもらった洋食店での夕食後、9pm過ぎ、本社へ戻る。その折、妙は保安担当に「用務があって、今夜は泊まり予定です。阿久比君もね」と告げ。聞いた周は「いよいよ、あの部屋の出番か?」ぼんやりと、そう想いを巡らした。

「阿久比君」妙が声かけ。「はい・・」 「今の本社は、我々以外の全社員が帰ったからね。この後の用事は、社長室でしてもらうわ」 周「かしこまりました」と返し。一台は、終夜止まらぬEVで、上階社長室へ。入室した妙は、ペットボトルの日本茶を二本用意、一方を、周にも勧める。「有難うございます」二人は、飲みながらもう暫く談笑。

妙「今日のお仕事は、ほぼ完了よ。だから、暫く喋って、この前途中だった、夜の授業の続きをしましょう」 聞いた周、やや驚いた様子も「了解しました。宜しくお願いします」と返し。この夜の話題は、主に受験準備についてだった。

「もう不安はないの?」妙が尋ねると、周は「はい。全然安心って訳じゃないですが、概ね全教科のフォローはできたかなって所です」 「そうかぁ。じゃ、年明けに出願するだけね」 「まあ、そんなとこですね。後は、模試の事を思い出して、実際に難しそうな場面を想像して準備するとか・・」 「隣の伊野主任も、色々教えてくれるでしょ」 「はい、お蔭様で。何しろ、去年までの恩師ですからねぇ」 「まあね。君もそろそろ気付いてくれてるかもだけど、世間って、広そうで狭いのよ。まあ因果だと思って、彼女の話も聞くと良いわ」 「はい、有難うございます。あの方も、本気で心配して下さってるんで、やはり期待に応えたいですよ」 「うんうん。無理はいけないけど、自信を持って当たる事ね」 「・・ですね。それは心がけようと思いますよ」小半時程、雑談。

暫くおいて、妙「さあ周君、シャワー行っといで」促す。周は応じ「有難うございます。使わせて頂きます」トレーナーの夜着を携え、先にシャワー室へ。
「お先失礼しました」入れ違いに、妙がシャワー室入りの直後、周のスマート・フォンにLINE着信。宙からだった。

「周さん、今晩は。暫くね」 周「ああ宙ちゃん。会えなくてご免な。元気そうで安心したよ。今夜はもう帰ったの?」 宙「ええ、まあね。今夜は、母さんがお仕事で泊まり込みなの。結(ゆい)姉さんは帰ったけど、仕事の持ち帰りみたいで、何かカリカリしてたわね」 周「学院も忙しいんだな。貴女もこれから勉強だろ。余り喋らん方が良いな」 「まあそうだね。周さんは?もう帰ってるの?」問いかけに彼は「ああ、俺も帰ってる。これから一勉強・・かな」と、本意ではない嘘を答えておいた。

宙は「ところで・・」と、彼女の不得意な国語、古文の質問を、周にして来たのだった。彼は疑問に答え、近況を二、三やり取りし、クリスマスの頃、一度会う事を約して、交信を終えた。その直後、妖艶な下着風コスに着替えた、妙が現れる。「周君・・」彼女は言った。「これから、今夜の用務の本題に入るわよ。用務・・て言うより、授業だけどね。分るよね・・」 「はい先生、もう理解しますよ」浴衣姿の周はこう答え、妙に歩み寄る。「始めるわよ」 「宜しくお願いします」二人は抱き合い、唇を交わし始める。舌技も使った、濃厚なそれに移って行く。

一方の宙、再び部屋へ戻って勉強再開も、一抹の疑問が脳裏を過る。その疑問とは・・「もしかして周さん、母と寝てるんじゃないかしら?」前月、己にChikanまがいの手出しをした男が、母親と夜を共にする図の想像は、確かに少女の胸を騒然とさせる。だが、その一方で、妙に大きな違和感がなく、一呼吸置くと、何故か許せてしまう所あるのも、又事実だった。
(つづく 本稿はフィクションであります)

今回の壁紙 名古屋鉄道 名古屋本線山王(さんのう)~金山間 名古屋市中区 2015=H27,3 撮影 筆者
久石 譲さんの今回楽曲「ホワイト・ナイト(White Night)」下記タイトルです。

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

hakase32

Author:hakase32
愛知県在住の後半生男です。恐れながら、主に18歳以上限定内容を記して参ります。

お手数ですが、拙各稿を初めからお読み下さる場合は、下方にあります月間アーカイブ他のご利用をお願い致します。
他ブログを含め、拙記事の無断転用及び引用は ご遠慮下さい。

下記ランキングに参加しております。
クリックをお願いできれば幸いです。

官能小説ランキング

アクセスカウンター

愛と官能の美学

Shyrockさんの R18読み物集。他の作者各位も多数リンクされています。入口は、下記タイトルです。

赤星直也のエロ小説

赤星直也さんの R18読み物集。入口は、下記タイトルです。

未知の星

赤星直也さんの R18読み物集もう一つ。他の各位の作品も収録されます。

Mikiko's Room

Mikikoさんの、カテゴリー豊富な R18読み物集。独自視点の旅日記も好感です。

Adult Novels Search

R18 読み物の検索サイトです。

ブロとも一覧

拙バナーです

知人様より、優れたバナーを賜りました。必要時はご利用を Produced by Shyrock

もう一つの 拙バナーです

知人様ご厚意により、拙バナー追加編も賜りました。必要時はご利用を。 Produced by Shyrock

清き一票を(笑)

下記ランキングに参加しております。

日本ブログ村バナー


にほんブログ村 →できますれば、こちらも応援を・・

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

月別アーカイブ

これまでの拙連載「想いでの山峡(やまかい)~林間学級の秘密(2016=H28,9~10)」と「轍(わだち)~それから(2016=H28,11~2017=H29,2)」  「母娘(ははこ)御膳(2017=H29,3~6)」  「南へ・・(2017=H29,6~8)」 「交感旅情(2017=H29,9~12)」 「パノラマカーと変な犬(2018=H30,1~5)」  「ちょっと入淫(2018=H30,6~10)」 「情事の時刻表(2018=H30,11~2019=R1,6)」 「レディオ・アンカーの幻影(2019=R1,11~2020=R2,5)」 「この雨は こんな風に聴こえる(2020=R2,6~2021=R3,3)」も お読み頂けます。